日本:東証PBR改善要請とコーポレートガバナンスの進展と課題
東京証券取引所(東証)が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を要請して以来、日本企業のコーポレートガバナンスは大きな変革期を迎えています。2026年4月21日現在、PBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業の減少や情報開示の進展といった具体的な成果が見られる一方で、事業ポートフォリオの見直しといった本質的な改革には依然として課題が残されています。本記事では、東証の要請が日本企業の経営に与えた影響を最新情報に基づいて分析し、今後の展望を考察します。
東証のPBR改善要請の背景と現状
東証が2023年3月31日にプライム市場およびスタンダード市場の全上場会社に対して行った「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請は、日本企業の低PBR問題への対応を促すものでした。この要請は、単に損益計算書(P/L)上の売上や利益水準だけでなく、貸借対照表(B/S)を意識した経営の実践を求め、資本コストや資本収益性を十分に意識した持続的成長につながる投資や事業ポートフォリオの見直しを推進することを期待するものです。PBRはあくまでそのための指標の一つと位置付けられています。
この要請以降、PBR1倍割れ企業の割合は顕著に減少しています。2022年7月時点ではプライム市場の50%がPBR1倍割れでしたが、2026年3月には27%にまで減少しました。スタンダード市場でも、同時期に64%から49%へと改善が見られます。
2026年4月7日に開催された市場区分見直しに関するフォローアップ会議では、この取り組みが4年目を迎えるにあたっての総括が行われ、これまでの進展が評価されました。
コーポレートガバナンス改革の進展と具体的な成果
東証の要請は、日本企業のコーポレートガバナンス改革を加速させ、具体的な成果を生み出しています。コーポレート・ガバナンス報告書における対応状況の開示は大きく進展しており、2023年12月末時点ではプライム市場で40%、スタンダード市場で12%であった開示状況は、その後も着実に増加しています。
PBRとROE(自己資本利益率)の改善も顕著です。プライム市場において、PBR1倍以上かつROE8%以上の企業は、2023年2月末の552社から2026年2月末には780社へと増加しました。これは、より高い収益性と市場評価を備えた企業群への移行が進んだことを示しています。
また、機関設計の面でも変化が見られます。2025年7月15日時点のデータによると、プライム市場において監査等委員会設置会社が779社(48.0%)となり、監査役会設置会社(761社、46.9%)の数を初めて上回りました。 これは、取締役会の監督機能強化と業務執行の機動性・迅速性の確保を目指す動きが加速していることを示唆しています。
残された課題と今後の展望
PBR改善要請とコーポレートガバナンス改革において、日本企業には依然として本質的な課題が残されています。フォローアップ会議では、株主還元などの「着手しやすい取り組み」は進展したものの、投資家からの期待が高い「事業ポートフォリオ・経営資源配分の見直し」や「自社の最適B/Sの検討」といった、事業の根幹に関わる取り組みが低水準にとどまっていることが指摘されています。
企業と投資家の間には、安全性に対する認識ギャップも存在します。多くの企業が自己資本や手元資金の水準を適正だと考える一方で、投資家の大半は「余裕のある水準」と捉え、手元資金を成長投資へ積極的に振り向けるなど、よりアグレッシブな経営戦略を求めています。 また、海外企業と比較すると、日本企業のPBRやROEは依然として低水準であり、成長期待の高い企業群が少ないことも課題として挙げられています。
2026年4月21日以降、日本企業には、形式的な対応にとどまらず、企業戦略の根幹に関わる抜本的な改革が求められます。持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、事業ポートフォリオの見直しや経営資源の適切な配分、そして投資家との建設的な対話を通じて、企業価値視点での経営改革力を高めていくことが不可欠となるでしょう。
Reference / エビデンス