北米:連邦選挙に伴う経済・通商政策の変遷

2026年4月2日、北米地域は連邦選挙後の新たな経済・通商政策の局面を迎えています。米国、カナダ、メキシコの各国で政権が交代または維持されたことで、特に2026年7月に共同見直しが予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の動向、米国の「アメリカ・ファースト」政策の継続、そしてカナダとメキシコの新政権による貿易戦略が、この地域の経済の不確実性と方向性を決定づける重要な要素となっています。

USMCA見直しと北米貿易政策の動向

2026年7月に迫るUSMCAの共同見直しを前に、北米の貿易政策は緊迫した状況にあります。米国とメキシコは2026年3月18日にUSMCA見直しに向けた初の2国間技術協議を開始し、メキシコ大統領は2026年3月25日に協議が順調に進んでいることを強調しました。この協議では、非市場経済国のサプライチェーンへの参入制限や原産地規則の強化が主要な議題となっています。米国は、中国などの「懸念される外国の事業体」が一定程度生産に関与している場合、税額控除を認めないといった規則をUSMCAの原産地規則に盛り込む可能性が指摘されています。

米国は、メキシコを経由した中国製品の流入、特に中国製電気自動車(EV)メーカーや鉄鋼産業がメキシコに生産拠点を設け、USMCAの無税枠を利用して米国市場にアクセスすることを強く警戒しており、今回の見直しを機に原産地規則の強化を狙っています。 カナダとメキシコは、サプライチェーンの維持と再編において課題に直面しており、特に米国が非市場経済国のサプライチェーンへの参入制限や原産地規則の強化を求める可能性に対し、協定の維持を強調しています。 メキシコ政府は、USMCAの見直しにおいて協定の維持と紛争解決システムの強化を望んでおり、不意打ちのような関税や絶え間ないルールの変更は避けるべきだと主張しています。

USMCAは、発効から6年目にあたる2026年に共同見直しが行われ、3カ国すべてが協定の延長に合意すれば、有効期間はさらに16年間延長されます。しかし、1カ国でも延長に難色を示した場合、協定は即座に失効するわけではないものの、その後は毎年厳しい見直し協議が行われ、最悪の場合は当初の発効から16年後(2036年)に協定が完全に消滅する可能性があります。 協定が延長されなかった場合、北米のサプライチェーンに大きな混乱が生じ、日本企業を含む多くの企業がコスト増とコンプライアンス上のリスクに直面すると予想されます。

米国連邦選挙後の通商・経済政策

2024年11月5日の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利し、共和党が三権を掌握した米国では、「アメリカ・ファースト」貿易政策が継続されています。 本日2026年4月2日、米通商代表部(USTR)は2026年外国貿易障壁報告書を公表し、相互貿易協定に基づく取り組みを記載するとともに、非市場的政策および慣行(NMPPs)を新たな主要分野として加えました。 NMPPsには、特定産業を対象に当該国の国内企業による支配を目的とした産業計画の策定・推進、米国からの輸入品ではなく国産品を購入するような圧力、非市場的な過剰生産能力の創出・維持、第三国の非市場的な政策や慣行に対処するための措置の欠如などが含まれます。

明日2026年4月3日には、トランプ米大統領が鉄鋼・アルミ・銅に対する232条関税の修正を発表する予定です。 これは、2025年8月に立ち上げられた省庁横断の貿易詐欺対策タスクフォースによる関税の不当な回避の取り締まり強化や、迂回輸入・積み替え品輸入の取り締まりに力を入れる方針の一環です。 トランプ政権は、国内製造業の復活を最重要アジェンダの一つとしており、高関税を基盤とした通商政策を推進しています。 2026年11月の中間選挙を控え、トランプ政権は迅速な政策実行を通じて成果を出し、レームダック化を防ぐことを目指していると見られます。

しかし、トランプ氏が1年前に発表した「相互関税」は、2026年2月に米連邦最高裁判所が違法と判断し、政権は措置の撤回に追い込まれました。 これにより、相互関税などで徴収した1,660億ドル(約26兆円)の還付が求められており、還付が遅れれば月7億ドル(約1,100億円)の追加負担が生じると警告されています。 このような司法判断は、トランプ政権の通商政策運営に不確実性をもたらしています。

カナダ連邦選挙後の経済・通商戦略

カナダでは、2025年4月28日の総選挙でマーク・カーニー首相率いる自由党が定数343のうち169議席を獲得し政権を維持しました。 カーニー首相は2025年4月29日の勝利演説で、「ドナルド・トランプ米大統領はカナダを破壊し、カナダを支配しようとしているが、そのようなことが起こることは決してない」と述べ、対米政策への強い姿勢を示しました。 「カナダ・ストロング」を掲げた公約のもと、カーニー政権は高まる世界的緊張と米国の関税政策に対抗し、カナダの独立性を強調しています。

カーニー首相は、対米依存の低減を目指し、貿易の多角化を模索しています。 2026年2月末から3月上旬にかけては、インド、オーストラリア、日本を歴訪し、貿易、エネルギー、技術、防衛の分野で新たな機会を開拓すると発表しました。 特に日本とは、2026年3月6日に高市早苗首相と会談し、「日本・カナダ包括的戦略的パートナーシップ」創設に関する共同声明を発表。クリーンエネルギー、先端製造業、重要鉱物、食料安全保障の分野で相互投資とパートナーシップの強化を図ることで合意しました。 また、中国との貿易促進による「脱米国依存」の動きも見られ、2026年1月には中国製の電気自動車(EV)とカナダ産農産物に対する関税を相互に引き下げることで合意しました。 しかし、最大の貿易相手国である米国との関係修復は依然として課題であり、7月のUSMCA見直しはカーニー政権にとって重要な試練となるでしょう。

メキシコ連邦選挙後の貿易・経済動向

2024年6月2日のメキシコ大統領選挙でクラウディア・シェインバウム氏が勝利し、新政権が発足しました。 シェインバウム政権は、国内産業保護を重視する姿勢を明確にしています。2026年1月1日には、メキシコが1,463の関税コード(メキシコの関税スケジュールの約12%)に対する関税引き上げを導入しました。 これは、アジアなどからの輸入品への依存度が高まり国内産業が縮小することへの危機感から、国内生産品のシェア拡大を目指す「プラン・メキシコ」の一環と見られます。

本日2026年4月1日、米国通商代表部(USTR)はメキシコを米国の最大の貿易相手国と位置づけつつも、非関税障壁の存在を指摘しました。 USMCA見直しにおいて、メキシコは協定の維持と紛争解決システムの強化を主張しており、米国が求める非市場経済国のサプライチェーンへの参入制限や原産地規則の強化に対し、北米圏内での不確実性を減らすよう求めています。 特に、中国からの迂回輸出への対応は喫緊の課題であり、メキシコ経済省は中国産の鉄鋼が不当に安価で取引されていることを指摘し、不均衡な競争条件を是正するために関税を課したと説明しています。

2026年度経済パッケージでは、デジタル課税の強化、清涼飲料・たばこへの税率引き上げ、そして海外資金をメキシコに還流し生産投資した場合にISR税率を15%に軽減する資本還流優遇措置などが盛り込まれています。 これらの税制改正は、国内投資を促進し、経済の自立性を高めることを目的としていますが、貿易相手国との摩擦を生む可能性もはらんでいます。

Reference / エビデンス