2026年3月:北米・EU巨大IT企業規制の最新動向 ― 法務戦略立案のための比較分析

北米におけるAI規制の新たな動き:FTCの政策声明と司法省のタスクフォース

2026年3月11日、米国連邦取引委員会(FTC)はAI政策声明を発表し、特にウェブスクレイピング企業が認識すべき5つの主要な規制領域を概説しました。この声明は、警告から始まり、同意命令、そして最終的な執行へと段階的に強化される見込みであり、米国ウェブサイトをスクレイピングする企業、米国企業にスクレイピングサービスを提供する企業、または米国消費者のデータをAI学習に利用する企業に適用される可能性があります。

また、2026年1月には米国司法省(DOJ)がAI訴訟特別タスクフォースを設立しました。このタスクフォースの設立は、AI関連の法的請求が増加する可能性への対応を示唆しています。

州レベルの動きとしては、カリフォルニア州ではAI関連法案が審議されており、そのうちSB 53法案は大手AI企業に対し透明性と内部告発者保護を義務付け、SB 942法案はAI検出システムの基準策定を求める内容を含んでいます。

EUの包括的アプローチ:デジタル市場法とAI法の施行状況

欧州連合(EU)は、巨大IT企業に対する多角的かつ包括的な規制アプローチを推進しています。2026年3月9日には、EUデジタル市場法(DMA)の「ゲートキーパー」に指定された企業が、DMA遵守に関する最新の報告書を公開しました。DMAは、欧州のデジタル市場における競争を促進するため、大企業の市場支配力の濫用を防ぎ、ゲートキーパーに特定の義務(すべきこととすべきでないこと)を課すEUの規則です。

AI規制の分野では、2026年3月1日にAIに関する包括法であるEU AI法が施行されました。この法律は、AIの研究、開発、提供、導入・運用、および利用について、高リスクから低リスクまでの3段階のリスクベースで規制するものです。

さらに、2026年3月6日にはEUの「データ法」が施行されました。この法律は、IoT機器やクラウドサービスなどから生成されるデータの取り扱いルールを定め、特定の大企業へのデータ集中を防ぎ、欧州域内でのデータ流通と活用を促進することを目的としています。

米国独占禁止法の継続的執行:Google訴訟の控訴動向とMicrosoftへの調査

米国では、既存の独占禁止法(反トラスト法)に基づく巨大IT企業への執行が継続しています。2026年2月4日、米連邦政府と複数の州は、Googleの検索サービスに関する独占禁止法訴訟において、裁判所が認定した是正措置が不十分であるとして控訴する方針を明らかにしました。

また、2026年2月13日には、米国連邦取引委員会(FTC)がMicrosoftに対する調査を強化し、同社のクラウドサービスおよびAI分野における競争状況について競合他社から情報を求めました。これに先立つ2026年2月12日、FTCのアンドリュー・ファーガソン委員長は、Apple Newsが特定の報道機関を優遇し、他の報道機関を抑制しているとの報告を受け、Appleのティム・クックCEOに対し、FTC法違反の可能性について警告書簡を送付しています。

米国の独占禁止法は、シャーマン法、クレイトン法、連邦取引委員会法などの複数の法律の総称であり、連邦政府と州政府がそれぞれ独自の反トラスト法を制定しています。

北米とEUの規制アプローチの比較:構造的差異と今後の展望

これまでの動向を見ると、北米とEUでは巨大IT企業に対する規制アプローチに構造的な差異が明確に表れています。

米国は、個別の独占禁止法訴訟や特定のAI利用に対する政策声明を通じて、事後的に市場の競争環境や消費者の保護に対応する傾向が見られます。司法省のAI訴訟タスクフォース設立やFTCのAI政策声明、既存の独占禁止法に基づくGoogleやMicrosoftへの調査は、このアプローチの典型です。一方、EUはデジタル市場法(DMA)やAI法、データ法といった包括的な事前規制フレームワークを導入し、巨大IT企業の市場支配力やAIのリスクを未然に管理しようとするアプローチを取っています。

北米内でも多様なアプローチが存在します。例えば、カナダでは2023年7月14日にオンラインストリーミング法(C-11)とオンラインニュース法(C-18)が成立しました。C-11はNetflixなどのオンラインストリーミングプラットフォームを放送事業と同様に規制しカナダコンテンツへの投資を義務付け、C-18はIT企業に報道機関へのコンテンツ使用料交渉を義務付けることで、文化保護や経済支援を目的とした規制を進めています。

今後の巨大IT企業に対する規制は、国際的な収斂を見せるか、あるいは地域ごとの特色を維持したまま分岐していくか、引き続きその動向を注視する必要があるでしょう。テック企業法務担当者は、これらの地域ごとの差異を理解し、自社の法務戦略に組み込むことが求められます。

Reference / エビデンス