北米:巨大IT企業に対する独占禁止法と規制の動向
2026年3月24日、北米では巨大IT企業に対する独占禁止法および規制の動きが活発化しており、特に米国とカナダの両国で、立法、司法、政策の各方面から多角的なアプローチが展開されています。AI技術の急速な進展は、これらの競争政策に新たな局面をもたらし、規制当局は監視を強化しています。本稿では、2026年3月22日から3月26日までの期間に焦点を当て、北米における巨大IT企業に対する独占禁止法と規制の最新動向を詳述します。
米国における独占禁止法執行の動向
2026年3月24日現在、米国ではGoogle、Meta、Amazon、Appleといった巨大IT企業に対する独占禁止法執行が引き続き主要な焦点となっています。特に、2026年1月下旬から3月下旬にかけて、主要な判決や規制当局の動きが相次いでいます。
Googleの検索サービスを巡る独占禁止法訴訟では、米連邦政府と大多数の州が、裁判所が認定した是正措置の内容が不十分であるとして、2026年2月3日に控訴する方針を明らかにしました。これは、Googleの検索ビジネスが90%以上の市場を独占している現状に対し、規制当局がより厳格な対応を求めていることを示しています。
また、米連邦取引委員会(FTC)のアンドリュー・ファーガソン委員長は、2026年2月12日、Appleのティム・クックCEOに対し、Apple Newsが特定の報道機関を優遇または抑制しているとの報告を受け、FTC法違反の疑いで警告書簡を発出しました。 これは、プラットフォーム企業によるコンテンツの選定・編集が、公正な競争環境を阻害する可能性について、規制当局が強い懸念を抱いていることを示唆しています。
さらに、2026年3月20日には、米国ホワイトハウスが州レベルのAI規制政策を統合した「国家人工知能政策フレームワーク」を発表しました。 これは、州ごとの「パッチワーク規制」による企業のコンプライアンスコスト増大を解消し、連邦レベルでの統一基準を構築することを目指すものです。しかし、トランプ大統領が2025年12月11日に「州のAI規制は国益に反する」として行政命令を発令し、商務長官に対し2026年3月11日までに「負担の大きい州法」を特定するよう命じていたことから、連邦政府と州政府の間でAI規制を巡る対立が激化しています。 このような状況は、AI規制が2026年の法廷闘争の年となる可能性を示唆しています。
カナダにおけるIT規制とプライバシー保護の進展
カナダでは、巨大IT企業に対する規制およびプライバシー保護の進展が注目されています。2026年3月12日、公共安全大臣は「合法アクセス法(Lawful Access Act, 2026)」としてBill C-22を庶民院に提出し、第一読会が行われました。 この法案は、捜査におけるデータおよび情報の適時な収集と提出に関する規定を現代化することを目的としており、特に電気通信サービスプロバイダーからの加入者情報へのアクセスを容易にするための刑事法典の改正が含まれています。
Bill C-22は、2025年6月に提出されたBill C-2(国境強化法)の合法アクセス条項を再検討したもので、市民的自由団体やプライバシー擁護団体からの強い反対意見を受けて、修正が加えられました。 しかし、プライバシー弁護士からは、依然として懸念が残るとの声も上がっています。 例えば、この法案は、GoogleやMetaのような外国のプラットフォームに対する情報提供要求の枠組みを形式化するものの、これらの企業に情報提供を強制するものではないと指摘されています。
米国での巨大IT企業に対する訴訟結果は、カナダの同様の訴訟に影響を与える可能性があります。米国のMetaやGoogleに対する判決は、カナダでの巨大テック企業に対する訴訟を後押しする可能性があると報じられています。
また、カナダ政府は、連邦機関が個人のプライバシーを尊重しつつも、データの共有と再利用を促進するための大規模なプライバシー法改正案を検討しており、2026年4月2日に報じられた政策ペーパーでは、1983年以来のプライバシー法の抜本的見直しを進める方針が示されています。 これは、AIや自動化意思決定システム(ADS)の利用促進に伴う透明性と信頼性の向上も重視しており、これらのシステムを用いた意思決定において、仕組みや使用された個人データについて説明を求める規定を設けることを検討しています。
AIと競争政策の新たな局面
AI技術の急速な発展は、北米の独占禁止法および規制政策に新たな局面をもたらしています。2026年3月上旬から下旬にかけて、AI関連のM&Aに対する規制当局の監視強化、AIによる大規模な人員削減(いわゆる「AIウォッシング」の可能性)、およびAI規制の進捗が注目されています。
2026年第1四半期(1月~3月)には、世界のテック企業で5万人を超えるレイオフが進行しており、その最大の特徴は、AI投資シフトを理由に掲げる企業が急増していることです。 人材調査会社Challenger, Gray & Christmasによると、2026年最初の2ヶ月間だけで12,304件のレイオフがAIに起因すると報告されました。 例えば、フィンテック大手Block(旧Square)は2026年2月26日に全従業員の約40%にあたる4,000人超の大量解雇を発表し、その理由を「AIによる組織変革」としました。 しかし、CEO自身がCOVID期の過剰採用ミスを認めており、OpenAIのサム・アルトマンCEOも「AIを理由にした解雇の中には、本来やるはずだったリストラをAIのせいにしている『AIウォッシング』がある」と指摘しています。 米国証券取引委員会(SEC)は、このような「AIウォッシング」に対する取り締まりを強化する方針を示しており、2026年には一層目立つ年になると予測されています。
AI関連のM&Aに対する規制当局の監視も強化されています。 AI技術が国家競争力の再形成に影響を与える中で、規制当局はAI分野における独占的な動きを警戒しています。
AI規制の進捗については、米国では連邦政府と州政府の間で規制の主導権を巡る争いが続いています。 一方、カナダでは、2026年2月5日に新たなAI戦略策定に向けたパブリックコメントの結果をまとめた報告書が公開され、2026年に公表予定の新AI戦略の策定過程で検討されるとされています。 しかし、カナダには依然として意味のあるAI規制がないとの指摘もあります。
AIの急速な産業化は、2025年から2026年にかけて世界中で本格的なAI規制の制定・施行を加速させており、AI覇権争いと経済安全保障の観点からも、各国が規制議論を主導しようとする動きが強まっています。
Reference / エビデンス
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- Looking Ahead on US Antitrust Enforcement and Tech: Will 2026 Deliver More of the Same?
- Netflix, Major Media Deals, and the 2026 Antitrust Outlook with Seth Bloom - YouTube
- AI Trends For 2026 - How National Competitiveness Is Reshaping Tech Antitrust
- Antitrust M&A Outlook for 2026 | Rule Garza Howley LLP
- Inside Competition: March 2026 | DLA Piper
- Five Must-Watch Antitrust Storylines for 2026 | Insights - Mayer Brown
- 33、米巨大テック企業 - 日本共産党
- 海外当局の動き - 公正取引委員会
- Scoping in the Tech Giants: Bill C-22's International Production Order and the Shift to a Less Privacy-Protective Cross-Border Disclosure System - Michael Geist
- Fasken's Noteworthy News: Privacy & Cybersecurity in Canada, the US, and the EU (March 2026) | Knowledge
- Congress Is Right to Investigate Canada's Online Streaming Act | Blogs | Mar 23, 2026 | ITIF
- Verdicts against Meta, Google in U.S. could boost Canadian big tech lawsuits - Richmond News
- Canada still has no meaningful AI regulation - CCPA
- カナダでIT規制2法が成立~AI時代には未対応 IT企業への依存誘う戦略に警戒を | 民放online
- カナダの対米報復措置に懸念を表明、2026年外国貿易障壁報告書(カナダ編) - ジェトロ
- 2026 Antitrust Year in Preview: Big Tech - Wilson Sonsini
- Global merger control trends and outlook 2025 – 2026 | White & Case LLP
- AI Trends For 2026 - How National Competitiveness Is Reshaping Tech Antitrust
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- Canada still has no meaningful AI regulation - CCPA
- 「AIが意志を持ち、社会が動く」2026年3月第1週のIT・テック重大ニュース10選|y-kishioka - note
- US Tech Massive Layoffs: Suspect "AI Washing" [Nikkei Mopra FT] - YouTube