2026年3月 北米エネルギー政策の現状:規制調整と輸出戦略
米国:環境規制緩和とエネルギー輸出拡大の加速
米国では、2026年2月12日に環境保護庁(EPA)が温室効果ガス(GHG)が公衆衛生および環境に脅威をもたらすとする2009年の「危険認定」を廃止する最終規則を発表しました。この廃止により、米国大気浄化法に基づく連邦政府のGHG排出規制権限が縮小されています。
エネルギー輸出面では、2026年3月に米国の液化天然ガス(LNG)輸出が過去最高を記録しました。これを受けて、米国エネルギー省はジョージア州エルバ島ターミナルからのLNG輸出を直ちに22%増加させることを承認しています。
トランプ政権は、エネルギー価格の高騰にもかかわらず、米国の石油輸出を妨げる計画はないと表明しており、戦略石油備蓄(SPR)の放出を市場安定化策として優先する姿勢を示しています。2026年3月時点の市場状況では、原油価格が1バレルあたり110ドル、ガソリン価格が1ガロンあたり4ドルに迫るなど価格圧力が見られるものの、当局は輸出制限よりも在庫管理を優先しています。このような政策は、国内のエネルギー生産と輸出拡大を重視する姿勢を反映しています。
2025年1月20日に発足したトランプ政権は、就任初日から「国家エネルギー緊急事態」を宣言し、米国のエネルギー主導権を強く訴えました。同政権はバイデン政権の気候変動対策を大幅に見直し、化石燃料開発を加速させる方針を打ち出しています。トランプ大統領は就任日にパリ協定からの再脱退を表明し、2026年1月には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退も表明しました。また、2025年7月にインフレ削減法(IRA)が見直され、電気自動車(EV)や新規再生可能エネルギーへの税制優遇が早期終了または適用期間が大幅に縮小された一方、原子力発電、炭素利用回収貯留(CCUS)、クリーン燃料(バイオ燃料)への優遇は維持または拡大・延長されました。
エネルギー政策は国家安全保障と戦略的産業に密接に結びついており、輸出管理の規制範囲が拡大しています。2026年3月13日には、大統領令14391号が発令され、国防生産法に基づく特定権限が各行政機関の長に委任されています。これにより、エネルギーおよび資源採掘に関連する機器、ソフトウェア、インフラに対する規制範囲が拡大され、地政学的連携に依存したサプライチェーン構築が進められています。
カナダ:電力戦略と環境保護資金の課題
カナダ連邦政府は、電化、AIデータセンター、クリーン産業の成長に伴う電力需要の増加とネットゼロ排出目標達成に対応するため、今後数週間以内に包括的な国家電力・原子力エネルギー戦略を発表すると確認しています。この戦略は、信頼性の高い低炭素電力を提供するための政策方向性を示すものです。
一方で、カナダの主要な自然保護団体は、連邦政府の資金が数千万ドル規模で枯渇しようとしているため、カナダの国土と水路の約3分の1を保護するという目標が危うくなっていると警告しています。環境・気候変動カナダ省の2026-2027年度部門計画では、自然保護への資金が前年度の9億5200万ドルから3億6600万ドルに大幅に減少しています。
国際的な義務遵守のため、カナダは2026年2月25日にカナダ環境保護法1999年(CEPA)の輸出管理リスト(ECL)を改正し、新たな管理化学物質を追加しました。また、2026年2月5日にはマーク・カーニー首相が電気自動車(EV)販売義務化の終了を発表し、代わりに2027-32年型モデルについてより厳格なCO2排出基準を導入する方針を示しました。この動きは、2025年11月に石油・ガス業界に課す炭素排出量の上限とクリーン電力規制が撤廃されたことに続く、カナダの気候政策からの後退と見なされています。
メキシコ:電力部門の規制近代化とエネルギー自給への動き
メキシコでは、2025年3月18日に電力部門を規制する一連の法律が議会で可決され、同年10月3日にはその施行規則が公布されました。これにより、連邦電力委員会(CFE)の主要な役割を強化しつつ、民間部門の発電・供給への参加を認める新しい規制枠組みが確立されました。
バイオ燃料法は2025年3月18日に公布され、この法律に基づき、連邦政府機関は2026年3月14日までに、税制・金融・市場インセンティブの導入を推進する計画を発表する予定でした。
メキシコ政府は、天然ガス輸入への依存を減らし、国内の精製石油などの自国資源の利用を強化することで、エネルギー自給を強化する戦略を追求しています。この戦略の一環として、2025年12月にはCFEが2026年に合計6GWの新規発電プロジェクト(複合サイクルプラント、太陽光PV、風力発電資産を含む)の建設を開始すると発表しました。政府はこれにより国内電力の54%を供給し、残りの46%は民間部門が提供する計画です。
国内価格安定化への取り組みとして、レギュラーガソリン価格については既に1リットル当たり24ペソ未満に維持することで業界と合意済みであり、その措置は継続されています。
Reference / エビデンス
- Mexico's Electricity Sector: Recent developments in 2025-2026 - Cuatrecasas メキシコ議会は2025年3月18日に電力部門を規制する一連の法律を可決し、2025年10月3日にはその施行規則が公布されました。
- Canada Environmental News: March 9 – March 16, 2026 : Celebrating Progress - 4 key insights - EnvironBuzz™ Magazine カナダ連邦政府は、電化、AIデータセンター、クリーン産業の成長による電力需要の増加に対応するため、今後数週間以内に包括的な国家電力・原子力エネルギー戦略を発表すると確認しました。 この戦略は、カナダのネットゼロ排出目標達成に不可欠な信頼性の高い低炭素電力を提供するための政策方向性を示すものです。
- Mexico issues new standard contract for grid interconnection and connection - Strategic Energy Europe メキシコ国家エネルギー委員会(CNE)は、発電所、エネルギー貯蔵システム、および大口消費者がメキシコの国家送電網および配電網に接続する方法を規定する新しい標準契約モデルを発表しました。この措置は2026年3月17日に官報で公布され、電力部門の規制枠組みを近代化し、系統接続手続きを簡素化することを目的としています。
- All Environmental Policy News and Press Releases from Cision in Canada カナダとアルバータ州は2026年3月25日にメタン等価性に関する原則合意に達しました。
- March 2026 Export Controls and Compliance Updates | FD Associates, Inc. 2026年3月13日、大統領は国防生産法(50 U.S.C. 4501 et seq.)に基づく特定権限を各行政機関の長に委任する大統領令14391号を発令し、2025年1月20日の大統領令14156号(国家エネルギー緊急事態宣言)のセクション2(a)を明確化しました。
- U.S. No Ban on Oil Exports: Current Policy Framework - Discovery Alert 2026年3月の市場状況は、原油価格が1バレルあたり110ドル、米国のガソリン価格が1ガロンあたり4ドルに迫るなど、価格圧力が政策介入への政治的需要を生み出す一方で、経済分析は開放的な輸出政策の維持を支持していることを示しています。 当局は2026年3月時点で戦略石油備蓄(SPR)の放出をすでに実施しており、輸出制限よりも在庫管理を優先する姿勢を示しています。
- Environment and Climate Change Canada's 2026-27 Departmental plan 環境・気候変動カナダ省(ECCC)の2026-27年度部門計画では、クリーン成長と気候変動対策の加速、メタン排出削減、主要プロジェクトの環境評価・許認可プロセスの効率化が主要な優先事項として挙げられています。 この計画は、カナダのグリッドがクリーンであること、そして電力需要の増加に対応することを確実にするために、州・準州と協力してクリーン電力規制を進めることを含んでいます。
- SENER Authorizes CENACE to Purchase Electricity - Mexico Business News メキシコの新しい電力部門法(2025年3月公布)は、新しい規制枠組み内で民間部門の発電・供給への参加を許可しつつ、CFEの送電・系統管理における多数派の役割を強化しました。
- Nature groups warn federal funding cuts endangering efforts to protect land, water - CP24 カナダの主要な自然保護団体は、連邦政府の資金が数千万ドル規模で枯渇しようとしているため、カナダの陸地と水路のほぼ3分の1を保護するという目標が危うくなっていると警告しています。 2026-2027年度の環境・気候変動カナダ省の部門計画では、自然保護への資金が前年度の9億5200万ドルから3億6600万ドルに大幅に減少しています。
- Energy Department Authorizes Additional Exports of LNG from Elba Island Terminal, Strengthening Global Energy Supply with U.S. LNG 米国エネルギー長官クリス・ライトは、ジョージア州エルバ島ターミナルからの液化天然ガス(LNG)輸出を直ちに22%増加させることを承認しました。 2026年3月には、米国のLNG輸出は過去最高を記録しました。
- Mexico's CFE will start building 6 GW of new generation capacity in 2026 | Enerdata メキシコ大統領は、連邦電力委員会(CFE)が2026年に合計6GWの新規発電プロジェクト(複合サイクルプラント4基、太陽光PVプロジェクト4基、風力発電資産1基を含む)の建設を開始すると発表しました。 政府はこれにより国内電力の54%を供給し、残りの46%は民間部門が提供する計画です。
- The Mexican government seeks to reduce gas imports and strengthen its energy sovereignty メキシコ政府は、天然ガス輸入への依存を減らし、精製石油などの自国資源の利用を強化することでエネルギー主権を強化する戦略を追求しています。
- White House says it's not planning oil or gas export restrictions - Axios トランプ政権は、エネルギー価格の高騰にもかかわらず、米国の石油輸出を妨げる計画はないと述べています。
- 新法でバイオ燃料導入加速を、合成燃料にもポテンシャル(メキシコ) | 世界の次世代燃料の生産・消費動向を追う - 特集 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報 - ジェトロ メキシコではバイオ燃料法が2025年3月18日に公布されました。 この法律に基づき、連邦政府機関は法律施行後360日以内(2026年3月14日まで)に、税制・金融・市場インセンティブの導入を推進する「計画」を発表する予定でした。
- The next phase of US energy policy - ER Law 米国のエネルギー政策は、市場アクセスが地政学的連携に依存する、整合性の取れたサプライチェーンの構築に焦点を当てています。 最近の措置では、エネルギーおよび資源採掘に関連する機器、ソフトウェア、インフラに対する規制範囲が拡大され、輸出管理が国家安全保障および戦略的産業に結びつけられています。
- メキシコ政府、ディーゼル価格上限に関する業界との合意を再確認 - ジェトロ メキシコ大蔵公債省(SHCP)は2026年3月31日、現在の国際情勢を鑑み、今後数日間にわたって全国のディーゼル燃料価格を1リットル当たり28.30ペソ未満に引き下げることを目的とした一時的な合意を再確認しました。 レギュラーガソリン価格についても、既に1リットル当たり24ペソ未満に維持することで業界と合意済みであり、その措置は継続されています。
- US Oil Gas Export Policy Remains Open Despite Crisis - Discovery Alert 2026年3月20日の時点で、米国は国内の圧力にもかかわらず、石油・ガス輸出制限を検討していません。 米国のエネルギー輸出政策は、国家安全保障と経済戦略の不可欠な要素と見なされており、国内市場のストレス時でも信頼できる供給国としての信頼性を維持することを重視しています。
- 米国トランプ政権によるエネルギー・環境政策の見直し (2026年2月5日時点) 2025年1月20日に発足したトランプ政権は、バイデン政権のエネルギー・環境政策、特に気候変動対策を大幅に見直しました。 トランプ大統領は就任日にパリ協定からの再脱退を表明し、2026年1月には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)からの脱退も表明しました。 インフレ削減法(IRA)は2025年7月に「1つの大きく美しい法」で見直され、電気自動車(EV)への減税措置が早期終了し、再生可能エネルギー電力新設への減税も適用期間が大幅に縮小されました。 一方、原子力発電、炭素利用回収貯留(CCUS)、クリーン燃料(バイオ燃料)への減税は維持または拡大・延長されました。
- 米国新政権とエネルギートランジションの行方:石油・天然ガス資源情報 - JOGMEC JOURNAL ドナルド・トランプ大統領は2025年1月20日の就任初日から「国家エネルギー緊急事態」を宣言し、米国のエネルギー主導権を強く訴えました。 彼は化石燃料への回帰と地球温暖化対策への否定的なメッセージを発信し、エネルギー方針の転換を図りました。
- サステナビリティ情報開示のグローバル動向2026年3月号 | EY Japan 2026年2月12日、米国環境保護庁(EPA)は、温室効果ガス(GHG)が公衆衛生および環境に脅威をもたらすとする2009年の「危険認定(Endangerment Finding)」を廃止する最終規則を発表しました。 この廃止により、米国大気浄化法に基づく連邦気候規制の法的根拠が失われ、GHG排出を規制する連邦政府の権限が縮小されます。
- カナダは有害化学物質の輸出管理を強化するためCEPA輸出管理リストを改正 - ChemRadar カナダは2026年2月25日、カナダ環境保護法1999年(CEPA)の附則3、輸出管理リスト(ECL)の改正を告示し、新たな管理化学物質を追加することで、ロッテルダム条約およびストックホルム条約に基づく国際的義務を遵守することを確実にしました。
- What's coming in 2026 for energy and environmental policy 米国環境保護庁(EPA)は、温室効果ガス排出に関する規制権限がないことを明確にする規則を最終決定する可能性が高いと予想されており、これは2009年の危険認定を覆すための重要な規制措置の一つです。
- LNG Exports And American Unaffordability - Public Citizen 米国エネルギー情報局(EIA)の2026年3月の短期エネルギーアウトルックでは、LNG輸出が2025年第1四半期の1日あたり142億立方フィートから2027年第1四半期までに187億立方フィートへと32%増加すると予測されています。
- カナダ、販売面でのEV義務化を撤廃、排出規制強化とEV優遇策に転換 - MarkLines カナダのマーク・カーニー首相は2026年2月5日、カナダ政府が販売面での電気自動車(EV)の義務化を終了すると発表しました。 これは、2025年11月に石油・ガス業界に課す炭素排出量の上限とクリーン電力規制が撤廃されたことに続く、カナダの気候政策からの後退を示す動きです。 代わりに、2027-32年型モデルについて、2035年までに新車販売の7%を達成するためのより厳格なCO2排出基準が導入されます。