グローバルサウスにおける特定の宗教・部族の結束による国家統治無力化事例の分析

グローバルサウスの国々では、歴史的背景や社会構造に根差した特定の宗教的・部族的結束が、中央政府の統治能力を著しく低下させ、時には物理的に無力化する事態が頻発している。本稿では、ソマリア、中央アフリカ共和国、イエメンの事例を通じて、そのメカニズムと現状を構造化し、最新の動向を織り交ぜて提示する。

ソマリア:氏族間対立とアル・シャバーブの台頭による国家統治の機能不全

ソマリアでは、長年にわたる氏族間の対立とイスラム過激派組織アル・シャバーブの台頭により、国家統治が機能不全に陥っている。2026年5月3日現在、ソマリアの政治情勢は依然として混迷を深めている。特に、国会議員の任期満了を巡る議論は、過去数週間にわたり国の安定を揺るがす要因となっている。2026年1月29日には、国会の合同会議で憲法改正案を巡る乱闘が発生し、4月に任期が満了する国会の任期を2年間延長する案が野党議員から批判された。 また、イスラエルによるソマリランドの独立国家承認を巡る地政学的動向も、ソマリアの不安定化に拍車をかけている。2025年12月26日、イスラエルはソマリランドを独立主権国家として正式に承認し、国際社会で初めての承認国となった。これに対し、ソマリア政府は「領土保全への露骨な攻撃」と非難し、トルコ、エジプト、ジブチなどの周辺国も同様に批判を表明した。この承認は、2026年1月5日に国連安全保障理事会で緊急会合が開催される事態に発展した。 ソマリアは1990年にバーレ大統領の政権が崩壊して以来、機能する中央政府を持たない状況が続き、氏族が意思決定に大きな影響を与えてきた。この権力の空白は、アル・シャバーブのような武装勢力の活動を許容する温床となっている。アル・シャバーブは、首都モガディシュで政府関連施設や国際機関、ホテルなどを標的とした自爆テロや襲撃を頻繁に実行しており、2025年2月頃からはソマリア中部での攻勢を強め、同年4月には重要拠点であるアダン・ヤバールを奪回するなど、勢力を再拡大させている。2026年4月17日時点でも、ソマリア全土にわたって治安は極めて不安定であり、テロや誘拐の危険性が非常に高い状況が続いている。

中央アフリカ共和国:宗教・民族民兵による国家機能の麻痺と人道危機

中央アフリカ共和国では、宗教的・民族的結束を基盤とする民兵組織の活動が国家機能を麻痺させ、深刻な人道危機を引き起こしている。2026年5月3日現在、同国では宗教・民族民兵活動が継続しており、治安情勢は極めて不安定なままだ。外務省は全土に「レベル4:退避してください。渡航は止めてください。」の退避勧告を発出している。 特に懸念されるのは、中央アフリカ共和国の特別刑事裁判所(SCC)が資金不足により2026年中に閉鎖される危機に直面していることである。この閉鎖は、戦争犯罪や人道に対する罪の犠牲者数千人が正義を勝ち取り、賠償を受ける機会を奪われる可能性を意味する。SCCは現在、15件の捜査と3件の裁判を進行しており、30名以上が指名手配されるなど、重要な活動を展開している。 2013年3月にムスリムを主体とする武装勢力セレカが当時のボジゼ政権を瓦解させて以降、宗教の差異を基軸とする対立が激化し、暴力に歯止めがかからない状況が続いている。セレカは非ムスリムを標的とした略奪、暴行、殺戮を繰り返し、これに対抗してキリスト教徒の民兵組織アンチ・バラカがムスリムを暴行、虐殺する事態となった。これらの集団の結束は、国家の統治能力を物理的に阻害し、人道危機を深刻化させている。2026年2月現在、73万人以上が難民・庇護希望者として隣国に逃れ、推定42万人以上が国内避難民となっている。国連UNHCR協会は、中央アフリカ共和国が「世界で最も貧しい国」と呼ばれ、援助資金が不足している状況を指摘している。

イエメン:フーシ派と部族の結束による国家統治への影響と地域紛争の激化

イエメンでは、シーア派ザイド派を基盤とするフーシ派と部族の結束が、国家統治を無力化し、地域紛争を激化させている。2026年5月3日現在、フーシ派の紅海における活動は国際的な懸念事項であり、イラン紛争への関与も深まっている。 2026年3月28日、イエメンの親イラン組織フーシ派はイスラエルに向けてミサイルを発射したと発表した。これはイランでの戦闘開始以降、イエメンからの攻撃としては初めてであり、中東情勢をさらに緊迫化させている。また、2026年4月4日には、イランのガリバフ国会議長が紅海の封鎖を示唆するような発言を行い、海上輸送への影響が懸念されている。フーシ派は紅海とアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡を封鎖した場合、ホルムズ海峡との同時封鎖で世界の石油供給の約30%が影響を受ける可能性があると分析されている。 フーシ派は、イエメン北部を拠点とするイスラム教シーア派の分派であるザイド派の武装組織であり、フーシ部族を主体としている。彼らは1990年代に結成されて以来、イエメン政府と長年にわたり内戦を繰り広げ、2014年には首都サヌアを掌握するなど、イエメンの広範な領域を実効支配している。フーシ派はイランからの支援を受け、「抵抗の枢軸」の一翼を担い、反米・反イスラエルを主張している。 イエメン紛争は、国内のアクター間の対立に国外のアクターが関与する「国際化した内戦」であり、その複雑な様相は「世界最悪の人道危機」とも形容される。フーシ派は紅海における船舶攻撃を継続しており、2023年10月から2024年3月にかけて60回以上の船舶攻撃を行った。これにより、多くの海運会社が紅海・スエズ運河航路を回避し、南アフリカ周辺を迂回する航路に変更しており、物流コストの高騰や輸送時間の延長といった世界経済への影響が出ている。米国や英国はフーシ派の脅威に対処するため、2024年1月以降、フーシ派支配地域への戦術爆撃を実施している。

Reference / エビデンス