米国:無人機部隊「レプリケーター」構想の理

米国防総省が推進する「レプリケーター」構想は、インド太平洋地域における戦略的優位性を確保し、特に中国との潜在的な紛争において、安価で大量の自律型システムを展開することを目指しています。本記事では、米国防総省の「レプリケーター」構想の戦略的背景、初期目標「レプリケーター1」の進捗と課題、そして対小型無人航空機システムに焦点を当てた「レプリケーター2」の展開、さらには2026年4月21日に発表された最新の予算案における組織再編と巨額の投資が示す将来の方向性について、詳細に分析します。

構想の背景と戦略的目標

米国防総省が「レプリケーター」構想を発表したのは2023年8月です。この構想の背景には、中国が持つ軍事的な量的優位性への対抗と、ウクライナ紛争から得られた教訓が深く関係しています。ウクライナ紛争では、安価な無人システムが戦場で大きな影響力を持つことが示されました。米国防総省は、中国が持つ艦船やミサイルの数で劣勢にある現状を打破するため、数千規模の消耗可能な自律型システムを18~24ヶ月という短期間で配備することを目標に掲げました。当時のキャスリーン・ヒックス国防副長官は、この構想が「中国の最大の強みである量に対抗する」ためのものだと強調しています。具体的には、陸海空の各軍種が保有する既存の無人システムや、商業的に利用可能な技術を迅速に調達・展開することで、中国の軍事力に対抗する「手頃な価格の大量投入(Affordable Mass)」を実現しようとしています。

「レプリケーター1」の進捗と課題

「レプリケーター1」は、2025年8月までに「数千機」の自律型システムを配備するという野心的な目標を掲げていました。しかし、2025年9月の報道では、この計画の進捗に遅れが生じていることが指摘されました。国防総省内部の官僚主義や、既存の調達プロセスが迅速な技術導入を妨げていることが主な課題として挙げられています。これを受け、国防総省は組織再編を進め、レプリケーター構想の推進を「国防総省自律兵器グループ(DAWG: Department of Defense Autonomous Weapons Group)」に移管しました。DAWGは、国防総省内でこれまであまり知られていなかった組織ですが、2026年4月21日に発表されたFY27(2027会計年度)予算案では、その役割と重要性が劇的に増大していることが示されています。この予算案では、DAWGに対して過去に例を見ない規模の資金が投入されることが明らかになり、レプリケーター構想の推進体制が強化されたことを示唆しています。

「レプリケーター2」と将来の方向性

「レプリケーター1」の進捗と並行して、米国防総省は2024年10月に「レプリケーター2」構想を発表しました。この新たな構想は、特に小型無人航空機システム(UAS)への対抗に焦点を当てています。小型UASは、テロ組織や非国家主体によっても容易に利用され、国土安全保障上の新たな脅威となっています。2026年1月11日には、「レプリケーター2」における最初の調達として、DroneHunter F700システムが発表されました。このシステムは、2026年4月までに納入される予定であり、小型UASの脅威に対処するための具体的な動きが加速していることを示しています。2026年4月21日に発表されたFY27予算案におけるDAWGへの巨額投資は、レプリケーター構想が、最先端技術の開発だけでなく、既存の成熟した技術を迅速に特定し、大量に展開することに重点を置いていることを明確に示しています。これは、技術的なブレークスルーを待つのではなく、現在利用可能な解決策を最大限に活用することで、喫緊の脅威に対応しようとする戦略的転換を意味します。

予算と調達プロセスの変革

レプリケーター構想の初期予算は、FY24とFY25の各会計年度で5億ドル、合計10億ドルが計画されていました。しかし、2026年4月21日に発表されたFY27予算案では、DAWGへの予算が大幅に増額されることが明らかになりました。DAWGの予算は、約2.25億ドルから約540億ドルへと、驚異的な規模で増加する見込みです。この巨額の投資は、国防総省の調達プロセスに根本的な変革をもたらす可能性を秘めています。従来の複雑で時間のかかる調達手続きではなく、商業部門の技術を迅速に軍事転用し、大量生産・配備を可能にするための新たな枠組みが構築されつつあります。この予算増額は、国防総省がレプリケーター構想を単なる一時的なイニシアチブではなく、将来の防衛戦略の中核をなすものとして位置づけていることの証左であり、迅速な技術展開と戦略的優位性の確保に向けた強い決意を示しています。

Reference / エビデンス