東亜:中国の「三戦」戦略と認知戦の具体的実態

2026年4月15日、東アジア地域における中国の戦略的影響力は、従来の軍事力だけでなく、情報空間を舞台とした「三戦」戦略、そしてその進化形である「認知戦」によって、その脅威を増している。本稿では、中国が展開するこれらの非物理的作戦の定義、歴史的背景、現代における進化、そして台湾と日本に対する具体的な影響について、最新の動向を交えながら詳細に分析する。

中国の「三戦」戦略の概要と歴史的背景

中国の「三戦」戦略とは、「世論戦」「心理戦」「法律戦」の三つの戦術を指す。これは、古代中国の兵法書『孫子』に記される「戦わずして勝つ」という思想に深く根ざしたものであり、敵対勢力と直接的な武力衝突を避けつつ、自国の利益を最大化することを目的としている。

この「三戦」は、2003年に改正された中国人民解放軍政治工作条例によって、軍の政治工作に正式に組み込まれた。 各戦術は以下の具体的な目的を持つ。

  • 世論戦:国内外の世論を自国に有利な方向に誘導し、自軍の士気を高め、敵の戦闘意欲を削ぐことを目的とする。
  • 心理戦:敵の軍人およびそれを支援する文民に対し、抑止、衝撃、士気低下を狙った心理的働きかけを行い、戦闘遂行能力を低下させる。
  • 法律戦:国際法および国内法を巧みに利用し、自国の行動の正当性を主張するとともに、他国の反発に対処し、国際的な支持を獲得することを目的とする。

これらの戦術は、特に平時における謀略戦の主要な武器として重視され、国家のあらゆる機能を駆使して展開される。

認知戦への進化と現代的特徴

デジタル時代の到来とともに、「三戦」は「認知戦」へとその姿を進化させてきた。ソーシャルメディアの台頭は、情報作戦の概念と実践を大きく変容させ、中国は「制脳権」という新たな概念を提唱している。

「制脳権」とは、敵の価値観、イデオロギー、信念に影響を及ぼし、最終的にはその国家が自ら選んだ発展を放棄させることを狙うものである。 認知戦は、物理的手段を伴わない「ノンキネティック作戦」として、平時における非物理的作戦として特に重視されている。 中国人民解放軍73106部隊は2024年に、認知域作戦を「双脳(発信者と受信者)の相互作用を基盤とする戦争」と定義し、心理・精神情報の双方向的なフィードバックループ構築を重視するモデルを提示している。 この戦略は、露骨なプロパガンダではなく、「日常の情報流通」に紛れ込むため、表現の自由が保証される民主主義国家では対処が難しいという特徴を持つ。

対台湾・対日認知戦の具体的実態と最新動向

2026年4月15日現在、中国は台湾および日本に対し、高度に洗練された認知戦を展開している。その具体的な手法と最新の動向は、以下の事例から明らかになっている。

台湾当局は2026年1月15日、2025年の1年間で231万件を超える偽情報(ディスインフォメーション)を摘発したと報じられた。 国家安全局の報告書「2025年 中国による対台湾認知戦の手法分析」では、中国が用いる5つの主要な工作手法が詳細に分析されている。特に懸念されるのは、AI技術の悪用である。中国側は「科大訊飛(iFlytek)」などの企業に委託し、台湾のウェブサイト上の広告を通じて市民の音声を収集。台湾人特有のアクセントや口調を模倣した「なりすまし音声」を生成し、偽情報の信憑性を高めている実態が明らかになった。 また、アカウント乗っ取りやサイバー攻撃も常套手段として用いられている。 TikTokは、中国が台湾に対して展開する認知戦における重要な戦場となっており、台湾の国家安全局の報告によれば、TikTok上の「異常アカウント」は2024年を通じて255件から4,371件へと急増した。 台湾の若年層を中心に約533万人が利用しており、中国の認知戦が台湾世論に与える影響は大きいと指摘されている。

日本に対しても、中国による認知戦は活発化している。2026年3月23日に読売新聞とサカナAIが共同分析した結果、2025年11月7日の高市首相(当時)の国会答弁(台湾有事が集団的自衛権行使の対象となる「存立危機事態」になり得るとの認識を示したもの)を機に、中国が大規模な対日認知戦を仕掛けた可能性が高いことが判明した。 中国政府は答弁から「沈黙の6日間」を経て、11月13日に金杉憲治・駐中国大使を呼び出し、認知戦を本格展開したとみられる。 この分析では、X(旧ツイッター)や中国のSNS・微博(ウェイボー)での対日批判の投稿計約40万件が分析され、中国共産党系アカウントによる対日批判の投稿数と閲覧数が急増したことが示された。 また、2026年2月の衆議院選挙に合わせても対日批判の認知戦が行われた可能性があり、英語での発信を強めて国際世論工作に重点を置いたことも明らかになっている。

東アジアにおける影響力工作の広がりと課題

中国の「三戦」および認知戦は、東アジア全体の安全保障環境に広範な影響を与えている。民主主義社会は、その開放性ゆえに、外部からの情報流入を妨げる手段が限られ、偽情報等を用いた悪意ある情報操作に対する防備上の脆弱性を抱えている。 このような権威主義国家が民主主義社会の世論に対して攻勢をかける手法は「シャープパワー」とも称される。

中国は、西側諸国のイデオロギー攻勢が中国内外で実施され、国内では人々の思想的独立性が強まり、社会の遠心分離化が進行していると認識している。国際的には、西側諸国が支配的な言説の力(国際話語権)を利用して中国脅威論や中国強硬論を拡散し、中国イメージの「悪魔化」を吹聴していると警戒している。 こうした状況は、民主主義社会における世論の分断や偽情報への脆弱性をさらに深刻化させる。

これに対し、国際社会、特に日本は、強靭性を高めるための対抗策を講じる必要がある。研究の促進、ファクトチェックの普及、そして国際協力の強化が喫緊の課題である。米国、EU、オーストラリア、フランスなどの主要な政府機関やシンクタンクは、中国共産党の情報操作戦術と関連する脅威について警告する報告書を発表しており、台湾は中国共産党の認知戦に対する国際的な対策の最前線に立っている。 日本においても、防衛省が認知戦に関する本格的な準備を進めているが、主要国の中では最も遅い対応と指摘されている。 偽情報が氾濫する現代において、国民が情報リテラシーを高め、信頼できる情報源を見極める能力を養うことも不可欠である。

Reference / エビデンス