日本:ラピダス等の半導体国産化プロジェクトの進捗と遅延リスク(2026年04月13日時点)

日本が国家戦略として推進する次世代半導体の国産化プロジェクトは、中核企業であるラピダスへの巨額な政府支援を背景に、2027年の2nm半導体量産開始という目標に向けて着実に前進している。しかし、その道のりには、技術確立、顧客確保、地政学的リスク、そして莫大な投資回収といった複数のハードルが依然として存在し、計画遅延の可能性も完全に払拭されたわけではない。

ラピダスへの巨額追加支援と2027年量産目標の現状

経済産業省は2026年4月11日、最先端半導体の開発を進めるラピダスに対し、2026年度の研究開発委託費として6315億円の追加支援を承認したと発表した。これにより、2022年度から続く政府によるラピダスへの累計支援額は、研究開発面で2兆3540億円に達する見込みだ。政府は補助金とは別に、2025年度から2026年度までに計2500億円を出資しており、2027年度までの支援総額は3兆円を超える見込みとなっている。

この追加支援は、回路線幅2ナノメートル(nm)の半導体を2027年度に量産開始するという目標達成に向け、試作品の改良などに充てられる。 赤沢亮正経済産業相は、北海道千歳市に開設された半導体解析施設の開所式で、ラピダス計画を「国益のために必ず成功させなければならない国家プロジェクト」と強調し、量産開始に向けたスケジュールについて「順調に進捗している」との認識を示した。

ラピダスは、2025年7月18日には2nm GAAトランジスタの試作を開始し、動作を確認したと発表しており、技術開発は順調に進んでいることを示している。 また、2025年4月には北海道千歳市に建設中のIIM-1内にパイロットラインを立ち上げ、同年後半には試作サンプルの提供、2027年の量産開始を目指している。 2024年12月25日にはオランダASML社製のEUVL装置が納入され、2025年4月30日に設置工事が完了するなど、工場建設も着実に進められている。

顧客確保、技術確立、財政的負担:ラピダスが直面するハードル

政府の強力な後押しを受けるラピダスだが、その前途には複数の課題が横たわっている。最も喫緊の課題の一つは、量産技術の確立と大口顧客の確保である。ラピダスは2027年度後半の2nm世代半導体量産開始を目指しているが、世界最大のファウンドリ企業である台湾積体電路製造(TSMC)は既に年内に2nm半導体を生産する計画であり、韓国のサムスン電子も猛追している状況だ。 ラピダスはTSMCとの間に2年程度の技術差があると指摘されており、この差をいかに埋め、競争力を確立するかが問われる。

顧客確保も重要な課題だ。2nmプロセスの需要はAIやHPC(高性能計算)など最先端用途に限定され、国内に大口顧客が少ないのが現状である。 また、TSMCなどの既存大手に比べ、実績や信頼性、コスト競争力が十分でないという課題も指摘されている。 ラピダスは、AIデータセンター向けのカスタム半導体を設計するファブレス企業などからの受注確保を目指し、その後、国内外のエッジ端末(自動車、ロボティクス等)向けの供給拡大を図る方針を示している。 富士通がAI向け超低消費電力半導体プロセッサーの製造をラピダスに委託するなど、国産体制強化に向けた動きも見られる。

財政的な負担も大きい。ラピダスの事業に必要な総投資額は累計で7兆円規模に上るとされており、政府支援だけでは賄いきれない。 政府は2031年度頃の上場を計画しており、それまでに民間から1兆円規模の出資と政府債務保証を活用した2兆円以上の融資確保を目指している。 しかし、民間企業による出資見込み額は2025年度までで約1300億円にとどまっており、資金調達は依然として課題だ。 また、中東情勢の緊張によるエネルギーコストや材料調達への影響も懸念されており、サプライチェーンの安定性も重要な要素となる。

国家戦略としての半導体国産化と2040年目標

日本政府は、半導体産業を経済安全保障上極めて重要な分野と位置づけ、国産化プロジェクトを強力に推進している。2040年には国産半導体で40兆円の売上を目指すという長期目標を掲げており、これは2020年時点の約5兆円から大幅な拡大となる。 この目標達成に向け、政府は2030年までに15兆円以上の売上拡大を目指す既存目標をさらに引き上げた形だ。

AI市場の拡大は半導体需要を牽引しており、特にロボットや自動運転車など現実世界の機器をAIが直接制御する「フィジカルAI」向け半導体に注力する方針だ。 日本はロボットと製造業の基盤が強いため、この分野で競争力を確保できると見込んでおり、2040年にはフィジカルAI関連の世界市場シェアで米国や中国と同水準の30%以上を維持することを目指している。

ラピダスを含む日本の半導体戦略は、過去の「半導体ショック」から学んだ教訓に基づいている。1980年代には世界のチップ市場の半分を支配していた日本だが、日米貿易摩擦と国内エレクトロニクス部門の縮小により、その後の10年間で市場シェアを大きく落とした。 現在、日本の市場シェアは10%を切っており、政府はAIが牽引する先進的なチップの設計と製造の急速な成長を取り込むため、自国を位置づけなければならないと認識している。

ラピダスは、単なるTSMCやサムスンの追随ではなく、「RUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)」と呼ばれる独自のビジネスモデルを掲げ、製造リードタイムを従来の約120日から50日へと半減させることを目指している。 この戦略が成功すれば、次世代AIチップの開発競争において、開発サイクルを高速化したいハイパースケーラーや新興AIスタートアップにとって魅力的な選択肢となる可能性がある。 ラピダスおよび関連する北海道の半導体クラスター形成による経済波及効果は、2036年までの累計で最大18.8兆円に上ると試算されており、日本経済全体への大きな貢献が期待されている。

Reference / エビデンス