日本:2026年度資産課税および相続税制改正の政治的推移と主要変更点

2026年4月12日、日本は資産課税および相続税制において重要な転換点を迎えています。2025年11月に自民党税制調査会で議論が開始されて以来、与党による税制改正大綱の決定、そして国会審議を経て、本日までに2026年度税制改正法案が成立しました。この改正は、特に富裕層の資産承継や事業承継に大きな影響を与えるものであり、その政治的プロセスと主要な変更点について詳細に報じます。

2026年度税制改正の政治的背景と決定プロセス

2026年度税制改正の議論は、2025年11月に自民党税制調査会で本格的に始まりました。税制調査会は、その時々の経済社会の変化を踏まえ、中長期的視点から税制のあり方を検討する政府税制調査会と、毎年度の具体的な税制改正事項を審議する与党税制調査会(自民税調)の二つの組織が中心となって進められます。特に自民税調は、長らく税制改正の主導権を握り、その「インナー」と呼ばれる幹部メンバーが絶大な影響力を持つことで知られていました。

与党である自由民主党・日本維新の会は、2025年12月19日に「2026年度税制改正大綱」を決定しました。 この大綱は、年明けの通常国会での税制改正関連法の成立を見据え、物価高への対応や強い経済の実現、税負担の公平性確保などをキーワードに策定されました。

国会審議は、2026年3月下旬から4月上旬にかけて進められました。特に、2026年度税制改正法案は、衆議院の解散に伴う予算審議の遅れがあったものの、3月31日に第221回特別国会において可決・成立しました。 これにより、大綱の内容に沿った税制改正が実施される見通しです。

資産課税・相続税制における主要な改正点

今回の税制改正では、資産課税および相続税制において複数の重要な変更が導入されます。

貸付用不動産および不動産小口化商品の評価方法の見直し

相続税対策の「王道」とされてきた貸付用不動産や不動産小口化商品を用いた節税策に、厳しい規制が導入されます。 具体的には、「5年ルール」が新設され、相続(課税時期)の直前5年以内に取得または新築した貸付用不動産は、原則として「通常の取引価額(時価)」で評価されることになります。 これは、従来の路線価評価等に比べ、評価額が大幅に上昇する可能性を示唆しています。 この新ルールは、2027年1月1日以後の相続または贈与から適用される見込みです。 また、不動産小口化商品については、取得時期を問わず、常に「通常の取引価額」での評価となります。

富裕層への課税強化(ミニマムタックスの見直し)

「1億円の壁」問題の是正を目的として、富裕層への課税強化が進められます。 2025年分の所得税から導入された「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」(通称:ミニマムタックス)は、2027年分の所得税からさらに強化されます。 具体的には、追加の税負担を計算する基礎となる基準所得金額から控除する特別控除額が、現行の3億3,000万円から1億6,500万円に引き下げられ、税率も22.5%から30%に引き上げられます。 これにより、非上場株式の譲渡やM&Aなどにより数億円規模の所得が発生するケースでも、税額に影響する可能性が高まります。

教育資金の一括贈与に係る非課税措置の終了

祖父母から孫などへ教育資金を最大1,500万円まで非課税で贈与できる制度は、2026年3月31日をもって終了することが決定しました。 この制度は、利用件数の減少や高額所得者による利用が集中し、経済格差の固定化を招いているとの指摘が背景にあります。 2026年3月31日までに信託等で拠出された金銭については、廃止後も引き続き非課税の適用を受けることができますが、検討中の場合は期限までの「駆け込み贈与」が推奨されていました。

事業承継税制の見直しと今後の展望

事業承継税制の特例措置については、特例承継計画の提出期限が1年6か月延長され、法人版は2027年9月末まで、個人版は2028年9月末までとなりました。 これは、中小企業の経営者の高齢化が進む中で、円滑な事業承継を促進するための「ギリギリの猶予期間」と位置付けられています。 しかし、特例制度自体の適用期限は延長されない見込みであり、法人版は2027年12月31日、個人版は2028年12月31日までとされています。 適用期限後は、納税猶予割合が80%に下がるなど、一般措置の厳しい条件が適用されるため、早期の計画策定が重要となります。 2027年度税制改正では、この特例措置の適用状況や課税の公平性などを踏まえ、今後の制度のあり方について多角的な検討が行われる予定です。

政治的動向と国民への影響

今回の税制改正は、富裕層への課税強化が目立つ一方で、一般家庭にも広範な影響を及ぼしています。2015年の相続税改正による基礎控除額の引き下げ以降、相続税の課税対象者は増加傾向にあり、国税庁のデータによると、2023年には死亡者数の9.9%にあたる約10人に1人が相続税の課税対象となっています。 特に都市部では不動産価格の高騰により、想定以上の税負担が発生するケースも少なくありません。

税制調査会のメンバー構成の変化も、今後の議論の方向性に影響を与える可能性があります。税制調査会の主要メンバーには、党の内外に睨みがきく大物議員が起用されることが通例であり、その人事は税制改正の方向性を大きく左右します。 2025年11月には自民党税制調査会のインナーメンバーが大幅に入れ替わり、新しい体制で議論が進められてきました。 今後も、税制改正は国民生活に直結する重要な課題として、その動向が注視されます。

Reference / エビデンス