北米:連邦選挙に伴う経済・通商政策の変遷

2026年4月12日、北米地域では連邦選挙が経済・通商政策に与える影響が多角的に分析されています。特に、2026年11月に控える米国中間選挙を見据えたトランプ政権の政策動向、同年7月に予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し交渉の進捗、そしてこれに対するカナダ・メキシコの対応が焦点となっています。過去48時間で発表された経済指標や政策議論の具体的な数値や動向は、今後の北米経済の行方を占う上で重要な示唆を与えています。

米国における連邦選挙後の経済・通商政策の方向性

2024年の米国大統領選挙を経て発足したトランプ政権の経済政策は、2026年に入ってもその影響を色濃く反映しています。特に、減税や保護主義的関税といった政策は、国内経済に複雑な影響を与えています。直近の経済指標では、2026年4月11日に発表されたミシガン大学消費者信頼感指数が史上最低の47.6に崩落し、5~10年先の期待インフレ率は3.4%を示唆しました。これは、消費者の景況感の悪化と長期的なインフレ懸念の高まりを示しています。

また、4月10日に発表された消費者物価指数(CPI)は、イラン戦争に起因するガソリン価格の急騰が主要因となり、ヘッドラインで前年比3.3%の上昇を記録しました。 エネルギー価格は前年比で12.5%急騰し、ガソリン価格は18.9%、燃料油価格は44.2%それぞれ上昇しています。 このようなインフレ圧力の高まりは、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策にも影響を与えています。

FRBは2026年1月の会合で政策金利を3.5%~3.75%の目標レンジで据え置くことを決定し、4会合ぶりに利下げを見送りました。 これは、労働市場の緩やかな調整局面が継続しているものの、物価上振れリスクが高まっているためと見られています。 2026年1月上旬にはFRB議長の後任人事が発表され、ケビン・ウォーシュ元FRB理事が指名されました。 トランプ大統領は利下げに積極的な人物を指名する意向を示していましたが、ウォーシュ氏の利下げに対するスタンスは複雑であり、今後の金融政策のかじ取りが注目されます。

2026年11月3日に実施される中間選挙は、トランプ政権の今後の政策運営に大きな影響を与えるでしょう。 現時点では、上院は共和党が優位を維持し、下院は民主党が過半数を獲得する「ねじれ議会」となる可能性が有力視されています。 ねじれ議会となった場合、予算や法案の成立が困難となり、政権の政策実行力は制約を受けることになります。 このため、トランプ政権は議会を通さない行政権限内の施策、特に外交政策に注力する可能性も指摘されています。

USMCA見直し交渉と北米貿易政策の再編

2026年7月1日に予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の共同見直し交渉は、北米のサプライチェーンに大きな影響を与える可能性があります。 米国は、北米サプライチェーンへの非市場経済国の参入制限や原産地規則の強化を議論しており、特に中国製部品や投資の排除を強く要求しています。 トランプ政権は、USMCAについて「欠陥が解決可能な場合にのみ延長」という方針を示しており、合意に至らなければ協定脱退も辞さない構えを見せています。

米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は、2026年3月18日にメキシコのエブラル経済相と会談し、USMCA見直しに向けた初の二国間技術協議を開始しました。 この協議では、他地域からの輸入依存度の低減、原産地規則の強化、北米サプライチェーンにおける経済安全保障の強化などが主な議題となりました。 しかし、米国とカナダの関係は現在良好ではないと指摘されており、カナダとの協議開始はまだ発表されていません。 カナダのカーニー首相が中国との新たな戦略的パートナーシップを発表するなど、米国と競争関係にある中国との関係強化を図っていることが、関係悪化の一因と見られています。

USMCAの見直し交渉が難航した場合、北米で事業を展開する日本企業には直接的なコスト増とコンプライアンス上のリスクが降りかかります。 特に自動車産業は、原産地規則の厳格化により大きな影響を受けると予想されています。 米国は、中国など米国が懸念する外国の事業体(FEOC)が生産した部品を一定程度利用している場合、USMCA原産として認めない制度を提案する可能性も指摘されており、日本企業は部品の調達源流を詳細に調査し、供給網の再編を検討する必要に迫られています。

USTRのグリア代表は4月7日、USMCAの見直し期限である7月1日までに問題をできる限り解決する意向を示しつつも、貿易協定における均衡回復に向けた交渉は期限後も続く可能性が高いとの見方を示しました。 このまま合意に至らなければ、2036年の協定失効まで毎年見直し交渉が続くという泥沼化の事態も懸念されており、北米サプライチェーンの不確実性が高まっています。

カナダ・メキシコの経済・通商政策と連邦選挙の影響

カナダとメキシコは、それぞれの連邦選挙を経て、米国との関係性を見据えた経済・通商政策を進めています。

カナダでは、2025年の総選挙で勝利したカーニー首相が、国内経済統合とインフラ改革を推進する「C-5法案」を2025年6月26日に成立させました。 さらに、2026年2月17日には初の防衛産業戦略を発表し、今後10年間で装備調達に1,800億カナダドル、防衛・安全保障関連インフラに2,900億カナダドルを投資する計画を明らかにしました。 この戦略は、国内製造業を強化し、米国への依存度を低減する意図を示しており、対米依存解消の動きを加速させています。 カナダは2025-26会計年度において北大西洋条約機構(NATO)のGDP比2%の防衛支出目標を達成しており、国際的な役割も強化しています。

一方、メキシコでは、2024年の大統領選挙後に発足したシェインバウム政権が、国内産業強化政策「プラン・メキシコ」を推進しています。 これは、高まる経済安全保障リスクに対応し、自国のサプライチェーンを強化する狙いがあります。 メキシコは米国との貿易関係において、特に移民・麻薬問題に起因する関税措置への対応が課題となっています。 トランプ政権は、不法移民や麻薬流入防止を名目とした高関税政策を打ち出しており、メキシコは米国からの要求に応えつつ、国内産業へのダメージや中国からの報復を恐れる「不可能なジレンマ」に直面しています。 メキシコ政府は、中国製品への関税引き上げなどの対策を講じていますが、現地製造構造の複雑さから、日本企業を含む多くの企業が影響を受ける可能性があります。

Reference / エビデンス