北米における独占禁止法執行の動向と政策転換
北米では、巨大IT企業に対する独占禁止法執行の姿勢が大きく変化しています。米国では、ハート・スコット・ロディノ法(HSR法)に基づく事前合併届出書の改正様式が2026年2月に連邦地方裁判所によって無効と判断され、控訴裁判所も執行停止を却下したため、連邦取引委員会(FTC)および司法省(DOJ)は旧様式での届出受付に回帰しています。両当局は、現代のM&A審査において旧様式が不十分であるとの認識から、将来の規則制定に向けた改正様式の有効性に関するパブリックコメントを募集しています。
司法省の独占禁止法執行姿勢にも転換点が見られます。2026年3月10日の報道によると、ホワイトハウスは前月に司法省独占禁止局長官のゲイル・スレイター氏を解任しました。これは、トランプ政権下での独占禁止法執行が、従前の「独占禁止ルネッサンス」の姿勢から、巨大企業寄りの姿勢へと転換し、構造的措置よりも行動的救済を優先する方向性を示唆しています。
この変化は、連邦政府と州政府の執行アプローチの差異として顕在化しています。例えば、司法省は2026年3月9日にLive Nation Entertainment Inc.とTicketmasterとの間で訴訟途中の和解を発表しましたが、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ氏はこの和解が独占状態に対処できていないと批判し、ニューヨーク州を含む少なくとも25の州およびコロンビア特別区が、この件に関する訴訟を継続する姿勢を表明しています。 州レベルでは、ニューヨーク州でアルゴリズムによる家賃調整を禁止する法律が2025年12月に施行され、RealPage社がこれを提訴するなど、規制環境が複雑化しています。 カリフォルニア州法改正委員会は、連邦基準を超える州独占禁止法の拡大を提言しており、その意見公募期間は2026年初頭に終了する予定です。
一方、カナダでは競争法の執行強化とデジタルプラットフォームに対する規制の進展が見られます。カナダ競争局は、2026年1月22日にアルゴリズム価格設定と競争に関するパブリックフィードバック報告書を公表しました。 また、2026年3月9日の記事によると、カナダ競争局のドラフト合併執行ガイドラインは、厳格な介入主義的アプローチを示しており、企業の規模を本質的に疑わしいものとみなし、市場シェアを経済分析や潜在的な効率性よりも優先する方針を打ち出しています。具体的には、30%を超える市場シェアを持つ合併に焦点を当てています。 カナダ競争局は2026-2027年度の年間計画で、カナダの消費者の選択肢を制限する行為や参入障壁に焦点を当て、反競争的行為や合併に対する調査を優先する方針を示しています。
巨大IT企業に対する具体的な規制と訴訟の進展
巨大IT企業に対する具体的な規制と訴訟の進展も注目されています。Googleの広告技術市場における独占禁止法訴訟では、2026年初頭にパブリッシャー向け広告サーバーおよび広告取引所の独占に関する是正措置の決定が予定されており、構造的分離が含まれる可能性も指摘されています。 最終判決は2026年になる見込みです。
米国司法省と複数の州政府は、Googleの検索エンジン市場における独占禁止法訴訟において、連邦地裁が命じた是正措置が不十分であるとして、2026年2月3日に連邦高裁に控訴しました。 地裁は2024年8月にGoogleが競合他社の参入を阻害しているとして独禁法違反を認定しましたが、2025年9月には司法省側が求めていた閲覧ソフト「Chrome」の売却といった厳しい措置は退けていました。 その上で、2025年12月には、Googleの検索エンジンなどを他社のスマートフォンに標準搭載する場合、1年ごとに契約を更改するといった是正措置を決定していました。 Google側も2026年1月16日に、検索データの共有とシンジケーションサービスの提供を義務付ける救済措置の実施を一時停止するよう要請し、控訴しています。
Metaは、欧州のデジタル市場法(DMA)遵守に向けた対応として、EUのユーザーに対し、FacebookおよびInstagramの個別化広告の代替選択肢を提供すると2025年12月8日に約束しました。 Metaは2026年1月にEU域内のユーザーにこれらの選択肢を提示する予定です。 これは、欧州委員会が2025年4月にMetaをDMA違反と認定したことを受けての動きです。
Appleに対しては、米連邦取引委員会(FTC)のアンドリュー・ファーガソン委員長が2026年2月12日、ティム・クックCEO宛てに警告書簡を発出しました。これは、Apple Newsが体系的に左派系報道機関を優遇し、右派系報道機関を抑制しているとの報告を受けたもので、FTC法違反の疑いを指摘しています。
AI規制の新たなフロンティアと課題
AI規制は、北米における新たなフロンティアとして急速に進展しています。米国では、連邦政府がAI政策の統一的な枠組みを確立する動きを見せています。トランプ政権は2026年3月20日、AIに関する立法政策の包括的なフレームワーク「国家AI立法枠組み」を公表し、州ごとの規制に先んじて法整備を行い、連邦法によるAI規制が州法による規制に優先するという姿勢を明確にしました。 この枠組みは、AIの安全性とセキュリティに関する統一的な政策を確立し、イノベーションの促進と米国のAI覇権の確保を目指しています。
司法省はAI訴訟タスクフォースを設立し、AIに関連する独占禁止法違反の監視を強化しています。 連邦取引委員会(FTC)もAI規制に関して重要な指針を発表する義務を負っており、大統領令により2026年3月11日までに、FTC法第5条(不公正または欺瞞的な行為または慣行の禁止)のAIモデルへの適用に関する政策声明を発表することが義務付けられています。 この声明では、AIモデルのバイアスを軽減するための出力変更を義務付ける州法が、連邦法によって先占される可能性のある状況が明確にされる予定です。
しかし、過剰な独占禁止法規制が米国のAIリーダーシップを脅かす可能性も指摘されています。 実際、2026年3月26日には、米カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所が、米人工知能開発大手Anthropicが米国防総省などを相手取った訴訟で、同社への制裁措置を一時的に停止する仮処分命令を下しました。 これは、トランプ政権による「供給網リスク」指定および連邦機関での同社製AIの使用禁止措置が、合衆国憲法修正第1条で保障された言論の自由を侵害する違法な報復であると判断されたためです。 Anthropicは自社のAIモデル「Claude」について、完全自律型兵器や大規模な国内監視への利用を禁じる倫理的ガードレールを設けており、米国防総省がこれらの制限の解除を求めたものの、同社がこれを拒否したことが対立の発端となりました。
北米テック業界の経済的側面とその他の規制動向
北米テック業界では、経済的側面においても大きな動きが見られます。2026年4月1日には、Oracleが全世界の従業員の約18%にあたる2万~3万人を削減する大規模なレイオフを発表しました。 これは2026年におけるテクノロジー業界最大の解雇となる見込みです。 Meta Platformsもリストラを計画しており、潜在的なレイオフに先立ち、一部の従業員にリモート勤務を指示しています。 2026年第1四半期だけで、OracleやMetaを含むテック大手企業が51,000人以上の雇用を削減し、AIインフラへの数十億ドルの投資に資金を振り向けています。
スーパーマイクロコンピューター(SMCI)は、2026年4月5日に、共同創業者を含む3人が関与する輸出管理規則違反の疑いに関する起訴を受け、取締役会が独立調査を開始したと発表しました。 米司法省は、エヌビディア(NVDA)製チップを搭載した米国製サーバーを台湾から東南アジアへ不正に流し、中国へ密輸した疑いで3人を起訴しています。 スーパーマイクロコンピューター自体はこの件において被告とはなっておらず、不正行為の疑いもかけられていません。
AI医療画像市場は、2026年に56億米ドル規模となり、予測期間中に年平均成長率(CAGR)22.7%で成長し、2034年までに289億米ドルに達すると見込まれています。 別の予測では、世界の医用画像AI市場規模は2026年の24億3,000万米ドルから2034年までに299億5,000万米ドルに成長し、予測期間中に36.91%のCAGRを示すとされています。 北米は、2025年に40.42%の市場シェアを獲得し、医療画像処理における世界のAI市場を独占しました。 この成長は、診断精度の向上、手順の効率化、そして患者への迅速な治療提供を可能にする医療分野のデジタル化が進む中で実現しています。
Reference / エビデンス
- 北米テック規制の最前線:HSR法改正、デジタルプラットフォーム、AI規制に見る米加墨の多様なアプローチ - Vantage Politics
- テック法務担当者向け:北米巨大IT規制の最前線――米加の競争政策と国際的アプローチの比較 - Vantage Politics
- 北米テック規制の最前線:HSR法改正、デジタルプラットフォーム、AI規制に見る米加墨の多様なアプローチ - Vantage Politics
- 北米巨大IT企業規制の最新動向:法務担当者が押さえるべき独占禁止法と政策の比較分析 - Vantage Politics
- グーグル検索巡る独禁法訴訟、是正措置不十分と米政府・州が控訴へ - ニューズウィーク
- 欧州委、デジタル市場法違反のメタの対応と、グーグルの独占禁止法違反の調査開始を発表(米国、EU) | ビジネス短信 - ジェトロ
- 司法省 vs Google 広告テクノロジー独占を揺るがす歴史的裁判 最終判決は2026年か
- グーグル巡る独禁訴訟で控訴 米司法省 - 時事通信
- 海外当局の動き - 公正取引委員会
- 北米テック規制の最前線:HSR法改正、デジタルプラットフォーム、AI規制に見る米加墨の多様なアプローチ - Vantage Politics
- 北米巨大IT企業規制の最新動向:法務担当者が押さえるべき独占禁止法と政策の比較分析 - Vantage Politics
- テック法務担当者向け:北米巨大IT規制の最前線――米加の競争政策と国際的アプローチの比較 - Vantage Politics
- 欧州委、デジタル市場法違反のメタの対応と、グーグルの独占禁止法違反の調査開始を発表(米国、EU) | ビジネス短信 - ジェトロ
- 過剰な独禁法規制が米国のAIリーダーシップを脅かす - Forbes JAPAN
- Federal court issues "stop order" against government exclusion measures for emerging AI company t... - YouTube
- 2026年には2025年よりも多くのテック企業の解雇が発生するのか?予測市場の見解は以下の通り
- (Economy) 2026-04-05 Industry-wide shockwaves as export restrictions on super microcomputers are ... - YouTube
- AI医療画像市場の2034年までの予測―モダリティ別