北米:連邦選挙に伴う経済・通商政策の変遷(2026年4月4日時点)
2024年の米国大統領選挙、2025年のカナダ連邦選挙、そして2024年のメキシコ大統領選挙を経て、北米地域の経済・通商政策は新たな局面を迎えている。各国新政権は「自国第一主義」と地域経済統合のバランスを模索し、特に通商政策、財政政策、投資環境において具体的な政策転換を進めている。2026年4月4日現在、これらの動きは市場および産業界に多大な影響を与え続けている。
米国新政権下の通商政策の方向性
2024年米国大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ新政権は、「アメリカ・ファースト」を掲げ、通商政策の再構築を強力に推進している。共和党が上下両院で支配を維持したことで、政権の政策実行力は高まっている状況だ。
関税政策においては、全世界からの輸入品に対し一律10~20%のベースライン関税導入が公約に掲げられており、2025年4月には幅広い品目に高い関税を課す「相互関税」が発表された。当初、日本からの輸入品には24%の高関税率が示され、自動車には25%の品目別関税が課されたが、数ヶ月の交渉を経て、相互関税および自動車関税は15%の水準で合意に至った。 2026年4月8日時点のジェトロの資料によると、木材製品には10~25%、半導体には50%、自動車・同部品には15~25%の追加関税が適用されている。 また、2025年4月5日以降に米国で組み立てられた自動車の部品に追加関税が課された場合、自動車の希望小売価格の3.75%を部品関税の支払いに充当可能とする措置も導入されている。
貿易協定、特に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直しは、新政権の主要課題の一つである。米国通商代表部(USTR)は、互恵的貿易協定の追求と貿易赤字の削減を重視しており、2026年7月に予定されているUSMCAの運用見直しに向けて、中国資本によるメキシコ経由の「迂回輸出」阻止のための原産地規則の厳格化や、メキシコの貿易黒字が1,200億ドルを超えた場合の輸入刺激策の義務付けなどを検討している。 2026年4月2日、USTRは「2026年外国貿易障壁報告書」を公表し、貿易障壁の解消と貿易収支の均衡を目指す姿勢を改めて示した。 また、2026年4月1日には、連邦最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税を無効と判断したことを受け、米国税関・国境警備局(CBP)がIEEPA関税の還付手続きのため「統合通関管理・処理システム(CAPE)」を導入すると発表した。
サプライチェーンの再編も加速しており、医薬品、医療機器、金属、エネルギー、半導体、重要鉱物といった重要産業の国内回帰(オンショアリング)が推進されている。 半導体分野では、2025年に成立した「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」により国内投資が促進され、2024年には24.4万件の新規雇用が発表された。 しかし、2026年2月の米国の月間国際貿易赤字は573億ドルに拡大しており、貿易収支の改善には依然として課題が残る。
カナダ連邦選挙後の経済政策と米国との関係
2025年4月28日に実施されたカナダ連邦選挙では、マーク・カーニー氏を新党首とする自由党が政権を維持し、少数与党政権を樹立した。 カーニー首相は「カナダ・ストロング」をスローガンに、高まる世界的緊張と米国の関税政策に対抗し、カナダの独立性を強調する政策を推進している。
新政権の財政政策では、所得税、キャピタルゲイン課税、事業投資税の削減が実施され、州間の貿易障壁も撤廃された。 さらに、エネルギー、AI、重要鉱物、新たな貿易回廊などへの1兆カナダドル規模の投資を迅速に進める方針が示されており、2030年までに防衛費を倍増させる計画も発表されている。
米国との貿易摩擦に対しては、多角的な対応策が講じられている。2025年2月1日、トランプ米大統領はカナダからの輸入品に対し25%の関税を課す意向を表明したが、カナダはこれに対し、米国産の鉄鋼、アルミニウム、自動車、さらにはウイスキーやメープルシロップなどを対象とした300億カナダドル規模の報復関税リストを発動した。 しかし、2025年8月22日、カーニー首相は米国との新たな貿易・安全保障関係に関する声明を発表し、米国・メキシコ・カナダ協定(CUSMA)対象品目への報復関税措置を9月1日付で撤廃する方針を示した。ただし、鉄鋼、アルミニウム、自動車・同部品に対する措置は継続され、米国との協議が続いている。
カーニー政権は対米依存の低減を目指し、アジアを中心に積極的な外交を展開している。首相は「今後10年間で米国以外への輸出を倍増させる」と宣言し、2026年1月には中国製の電気自動車(EV)とカナダ産農産物に対する関税を相互に引き下げることで合意した。 2026年4月2日、カナダ財務省は経済声明を発表し、国内産業、特にクリーンエネルギー分野に今後3年間で50億カナダドルを投じる補助金政策を明らかにした。また、2025年の対米輸出は前年比1.7%減の4,200億カナダドル、輸入は同0.5%増の3,000億カナダドルとなり、貿易赤字が拡大傾向にあることを報告した。 2026年4月3日、カナダ公共政策大学院は、USMCA見直しを巡る交渉が難航しており、特に自動車部品の原産地規則の厳格化がカナダの自動車産業に年間20億カナダドルの追加コストをもたらす可能性があると指摘した。
メキシコ新政権下の通商・投資環境
2024年6月2日のメキシコ大統領選挙では、クラウディア・シェインバウム氏が勝利し、メキシコ初の女性大統領に就任した。 シェインバウム政権は、就任後100日で雇用者数の増加や最低賃金の引き上げ、殺人事件の減少などを強調し、国内投資促進のための「プラン・メキシコ」を公表した。 この計画は、国内産業への投資と成長を促進し、中国をはじめとする諸外国からの輸入品を国内生産で代替することを目指している。 2026年1月1日には、メキシコが1,463の関税コード(メキシコの関税スケジュールの約12%)に対する関税引き上げと強化された税関管理を導入した。
外国直接投資(FDI)政策においては、ニアショアリングの影響により2022年からFDIが好調に推移しており、2024年には前年比約4倍強の7.1億米ドルに達した。 しかし、新政権の国営企業優遇策や財政負担の大きい年金改革案など、市場に不透明感を与える政策も指摘されている。
エネルギー改革は、米国・カナダとの貿易関係における主要な摩擦点の一つとなっている。米国通商代表部(USTR)は、メキシコのエネルギー分野における許認可停止や新たな制限、国の関与強化が投資家の不確実性を高めていると指摘している。 特に、水素化炭化物の貯蔵・輸送規制や許可期間短縮が、国営石油会社ペメックス(Pemex)や連邦電力委員会(CFE)を相対的に有利にしているとの見方がある。 2026年4月2日、メキシコ政府は、エネルギー改革の一環として、ペメックスの精製能力を2027年までに20%向上させるための新たな投資計画を発表した。
米国・カナダとの貿易関係では、メキシコは2026年時点でも米国の最大の貿易相手国であり、2025年のモノの対米貿易総額は8,728億ドルに達した。 米国は、エネルギー、投資、知的財産、デジタル貿易分野でメキシコとの規制上の摩擦が続いていると指摘している。 2026年7月に予定されているUSMCAの見直しに向けて、メキシコ政府は協定の維持を強調しており、経済相は2025年に米国から提起された課題についてほぼ全て完了したと述べ、見直しは7月1日までに完了させる必要があると強調した。 2026年2月20日には、米国最高裁判所がメキシコからの輸入品に対する25%のIEEPA関税を無効とし、代わりに10%のSection 122追加課徴金が適用される政策変更があった。 2026年4月3日、メキシコ経済省は「2026年4月貿易・投資報告書」を発表し、2026年第1四半期の外国直接投資(FDI)流入額が前年同期比15%増の125億ドルに達したと報告した。特に製造業と再生可能エネルギー分野への投資が顕著であり、2026年3月の輸出入統計では、輸出が前年同月比8.2%増、輸入が同6.5%増となり、貿易黒字は25億ドルを記録した。