東アジア:半導体サプライチェーンを巡る輸出管理の構造
2026年3月26日、東アジアにおける半導体サプライチェーンは、地政学的緊張の高まりと各国政府の政策介入により、その構造を一層複雑にしている。特に米国と中国の技術覇権争いは、日本、韓国を含む地域の半導体産業に大きな影響を与え、各国は安全保障上の懸念から輸出管理の強化とサプライチェーンの再編を加速させている。
日本の半導体輸出管理政策の強化
日本は、先端半導体技術の流出防止と国際的な安全保障連携の強化を目的として、半導体関連の輸出管理政策を継続的に強化している。2026年1月31日には、経済産業省が先端半導体製造装置など21品目を輸出管理の対象に追加する案を発表した。この追加案は、パブリックコメントの募集を経て、5月下旬にも施行される見込みである。この措置は、特定の国・地域への軍事転用リスクを低減し、国際的な平和と安全を維持するための重要な一歩と位置づけられている。
背景には、米国との連携強化がある。2023年3月31日には、すでに半導体製造装置23品目を貨物等省令に追加する改正案が公表されており、これは日本の輸出管理が継続的に強化されている姿勢を示している。 これらの規制強化は、日本の半導体産業が国際的なサプライチェーンにおいて果たす役割の重要性を再認識させるとともに、安全保障上の懸念に対応するための国際的な連携の必要性を浮き彫りにしている。
米国の対中半導体輸出規制と中国の対抗措置
米国は、中国の軍事力強化に繋がる先端半導体技術の取得を阻止するため、対中輸出規制を一層強化する動きを見せている。2026年4月2日には、米下院でAI半導体製造装置・部品の対中輸出規制を強化する超党派法案が提出された。この法案は、同盟国にも同様の規制を要請する内容を含んでおり、日本や欧州の企業にも影響が及ぶ可能性がある。
一方、中国もこれに対し、レアアースなどの重要鉱物の輸出管理を強化することで対抗している。2026年3月31日に公表された米通商代表部(USTR)の「外国貿易障壁報告書」では、中国のレアアース輸出管理が「武器化」されていると批判された。 しかし、2026年4月2日には、NVIDIAのH200チップの中国への条件付き輸出許可が報じられるとともに、中国がレアアース輸出管理強化を一時的に停止する動きも見られ、米中間の複雑な駆け引きが続いている。 また、2026年1月には、中国がレアアースを含む「軍民両用品目」の対日輸出管理を大幅に強化しており、サプライチェーンにおける相互依存と緊張が顕在化している。
韓国の半導体産業支援と輸出動向
韓国は、半導体産業を国家経済の基幹産業と位置づけ、その競争力強化に向けた支援策を積極的に推進している。2026年1月29日には、国会で「半導体産業の競争力強化および支援に関する特別法案」(半導体特別法)が成立した。この特別法は、半導体産業に対する体系的な支援の制度基盤を整備するもので、2026年第3四半期(7~9月)に施行される見込みである。
このような政策支援を背景に、韓国の半導体輸出は好調を維持している。2026年3月の韓国の輸出は、前年同月比48.3%増の861億3000万ドルと過去最高を記録した。特に半導体輸出は151.4%増の328億3000万ドルに達し、輸出全体を大きく押し上げた。 この急増は、AIブームによる半導体需要の拡大が主な要因とされており、韓国半導体産業の国際的な競争力の高さを改めて示している。
東アジア地域およびグローバルなサプライチェーン再編の動き
東アジア地域およびグローバルな半導体サプライチェーンは、地政学的リスクや経済安全保障の観点から、再編の動きが加速している。2025年10月に開催された第47回ASEAN首脳会合では、「ASEAN半導体サプライチェーン統合枠組み(AFISS)」が最終化された。この枠組みは、ASEAN域内の半導体サプライチェーンの強靭化と投資誘致を目的としており、日本からの協力にも大きな期待が寄せられている。
サプライチェーンの脆弱性を示す具体的な事例も散見される。中東情勢の混乱はナフサ供給に影響を与え、半導体製造に不可欠なヘリウムの供給逼迫も懸念されている。 これらの課題に対し、各国はサプライチェーンの安定化に向けて、国内生産能力の強化、友好国との連携、そして代替供給源の確保など、多角的な取り組みを進めている。東アジアにおける半導体サプライチェーンの構造は、今後も国際情勢の変化に敏感に反応し、その姿を変えていくことだろう。
Reference / エビデンス
- 日本政府、先端半導体向け製造装置など21品目を輸出管理対象に追加
- 半導体製造装置23品目の貨物等省令追加に関する省令改正案の概要
- 米国からの要請に基づく日本の対中半導体輸出規制から1年…先端テクノロジーめぐる米中覇権競争の狭間に立つ日本 - FNNプライムオンライン
- 日本の新たな半導体輸出規制改正の概要とその影響
- 対中規制強化へ超党派法案=半導体装置、日欧企業影響も―米下院 | 防災・危機管理ニュース
- 対中規制強化へ超党派法案 半導体装置、日欧企業影響も―米下院 - 時事通信
- 米中におけるチョークポイント「最先端半導体」と日本の挑戦 - 地経学研究所
- 米USTR、中国のレアアース輸出管理強化を武器化と批判、2026年外国貿易障壁報告書(中国編)(中国、米国) | ビジネス短信 - ジェトロ
- 米国半導体制裁と中国の対応 - Chinapost
- 中国依存をどう減らす?2026年の重要鉱物サプライチェーン最前線|株式会社KUMU Works
- 日本の半導体企業にとっての中国関連インテリジェンスの読み解き方(後編) - PwC
- 米中の新輸出規制等の動向 - 安全保障貿易情報センター(CISTEC)
- 半導体特別法が制定、体系的な支援に向けた制度基盤を整備(韓国) - ジェトロ
- 韓国輸出、3月は約40年ぶり高い伸び 半導体151%増 - ニューズウィーク
- 韓国半導体、年間輸出で初の日本超えも=韓国ネット「ついに」「一時的な半導体景気」
- 韓国半導体産業の現状および成長のための今後の施策 | PwC Japanグループ
- 東アジア半導体サプライチェーンの再編とその未来 - APRDI
- 半導体サプライチェーンが世界の技術成長を牽引する理由 - SDKI Analytics
- 2月の世界半導体販売高、さらに大幅増加;国内での半導体業界の動き - セミコンポータル
- 半導体サプライチェーンに関する枠組みが最終化、日本の協力に期待(ブルネイ、ASEAN - ジェトロ
- 安全保障貿易管理を巡る最近の動向 - 経済産業省