米国、保護主義的貿易政策を継続:重要産業の国内回帰と通商法301条調査の始動

主要国の保護主義的政策の継続と国際貿易システムへの影響

米国通商代表部(USTR)は2026年3月2日、議会に対しトランプ大統領の2026年通商政策課題と2025年年次報告書を提出しました。この政策課題では「アメリカ・ファースト」貿易政策への継続的なコミットメントが強調され、貿易赤字の削減、貿易相手国とのより均衡の取れた貿易の達成、貿易協定、執行措置、産業政策を通じた重要産業の国内回帰が優先事項として掲げられています。

また、USTRは2026年3月11日に、1974年通商法第301条に基づき、中国、EU、日本、韓国などを含む16の国・地域の製造業セクターにおける構造的過剰生産能力および関連する行為、政策、慣行に関する調査を開始したと発表しました。

2026年初頭には、米最高裁判所の判決により国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく経済固有の関税の法的根拠が無効とされました。しかし、米国は同日に通商法122条を発動し、一時的な150日間の10%の一律関税を導入するとともに、新たな製品別関税の正当化に必要な調査を開始しました。これは、米国の貿易政策の全体的な方向性が変わらない可能性を示唆しています。2026年2月には、米連邦最高裁判所がIEEPAに基づく相互関税措置の法的根拠を否定した後も、米国は別の法的根拠に基づく一律関税措置を打ち出し、新たな通商法や安全保障関連法に基づく調査を次々と開始しており、保護主義的な政策を継続する姿勢を示しています。これらの動きは、自由貿易によって打撃を受けた米国製造業労働者の雇用不安を背景としていると考えられます。

Reference / エビデンス

  • WTO Sees 2026 Trade Slowdown, Warns Middle East Conflict Could Cut Deeper 世界貿易機関(WTO)は2026年3月19日に、2026年の世界のモノの貿易量成長率が2025年の4.6%から1.9%に大幅に減速すると予測した。また、中東情勢の長期化によりエネルギー価格が高止まりするシナリオでは、貿易成長率が1.4%にまで低下する可能性があり、ホルムズ海峡の交通量減少が物流や肥料供給に影響を与えていると警告した。商業サービス貿易の成長も2026年には4.8%に鈍化すると見込んでいる。
  • WTO warns that the ongoing conflict in the Middle East could reduce global trade growth | Omnitrans 2026年3月28日、WTOは、2025年のAI関連製品の貿易急増と関税回避のための前倒し輸入が一巡するため、2026年の世界貿易成長が鈍化すると警告した。中東紛争によるエネルギー価格の高騰が続けば、貿易成長はさらに抑制され、食料供給やサービス貿易にも悪影響を及ぼす可能性があるとしている。
  • The Week Ahead in International Trade: Fallout from failure of WTO conference and increasing threat of supply chain disruption in Middle East 2026年3月30日、カメルーンのヤウンデで開催されたWTO第14回閣僚会議(MC14)は、不公正な政府補助金、農業貿易の緊張、デジタル協定の実施など、組織の将来にとって不可欠とされる主要な問題で進展が見られずに終わった。特に、電子送信への関税賦課を禁止する電子商取引モラトリアムの延長を巡る意見の対立が交渉を頓挫させた。
  • Press Release Regarding the WTO's 14th Ministerial Conference - USTR 2026年3月30日、米国通商代表部(USTR)は、WTO第14回閣僚会議が電子送信への関税モラトリアムの2030年12月31日までの延長合意がブラジルとトルコによって阻止され、行き詰まりに終わったと発表した。この失敗により、米国主導の改革アジェンダも進展しなかった。
  • Outcome of the 14th WTO Ministerial Conference - Trade and Economic Security 2026年3月30日、欧州連合(EU)は、WTO第14回閣僚会議が最終的な成果パッケージで合意に至らず閉幕したことを遺憾に表明した。EUは、WTO改革、電子商取引モラトリアム、その他の成果について、加盟国が必要な柔軟性を示せなかったことを指摘している。また、紛争解決制度の改革を待つ間、世界の貿易の60%を占める61の加盟国が多国間暫定上訴仲裁アレンジメント(MPIA)の重要性を強調した。
  • Geopolitics and the geometry of global trade: 2026 update - McKinsey 2026年初頭の米最高裁判所の判決により、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく経済固有の関税の法的根拠が無効とされたが、米国は同日に通商法122条を発動し、一時的な150日間の10%の一律関税を導入し、新たな製品別関税の正当化に必要な調査を開始した。これは、米国の貿易政策の全体的な方向性が変わらない可能性を示唆している。
  • Trade Update - March 24, 2026 - Advocacy - California Chamber of Commerce 2026年3月19日、WTOは中東紛争が貿易見通しにさらに重くのしかかると発表した。また、2026年3月20日には、AIへの投資と中東紛争が世界貿易の見通しを形成していると述べた。
  • Trade Talking Points | Latest insights from EY's Trade Strategy team (2 April 2026) 2026年3月30日、WTO第14回閣僚会議は閉幕したが、電子商取引に関する作業計画や、電子送信への関税モラトリアムの継続に関する合意は成立しなかった。この進展の欠如に対し、米国通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリアーは批判を表明し、関心のあるWTO加盟国に対し、別途、複数国間の電子商取引モラトリアム協定にコミットするよう呼びかけた。
  • USTR Releases the President's 2026 Trade Policy Agenda - Wiley Rein 2026年3月2日、米国通商代表部(USTR)は、トランプ大統領の2026年通商政策課題と2025年年次報告書を議会に提出した。この政策課題は「アメリカ・ファースト」貿易政策への継続的なコミットメントを強調し、貿易赤字の削減、貿易相手国とのより均衡の取れた貿易の達成、貿易協定、執行措置、産業政策を通じて重要産業を国内に戻すことに焦点を当てている。
  • WTO MC14: Key conference outcomes; US stance drives deadlock 2026年3月30日未明まで交渉が続いたWTO第14回閣僚会議(MC14)は、主要な問題で合意に至らず閉幕し、協議はジュネーブで再開されることになった。電子商取引モラトリアムは2026年3月末に失効する見込みで、紛争解決制度改革についても進展が見られなかった。米国とブラジルは農業交渉や電子商取引アジェンダを巡って対立した。
  • Will WTO member states be able to reform the organisation? - SWI swissinfo.ch 2026年3月26日から29日にカメルーンのヤウンデで開催されたWTO第14回閣僚会議では、改革案が議題に上ったが、地政学的緊張が高まる中で交渉が行われた。WTO事務局長のンゴジ・オコンジョ=イウェアラは、貿易の緊張と保護主義の台頭にもかかわらず、世界の貿易の70%以上がWTO規則に従って行われていると述べ、組織の「堅牢性」を強調した。
  • The WTO's MC14 Concludes Last Month with No Actionable Outcomes on Ag or Other Reforms | USA Rice Federation 2026年3月に開催されたWTO第14回閣僚会議(MC14)は、農業協定、電子商取引モラトリアム、紛争解決機関、その他の問題に関して主要な合意に至らず閉幕した。米国通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリアーは、WTOが将来のグローバル貿易政策において限定的な役割しか果たさないだろうという懐疑的な見方を示した。電子送信への関税モラトリアムの延長は、166の加盟国の支持があったにもかかわらず、ブラジルとトルコによって阻止された。
  • 2026年の世界財貿易は1.9%成長へ減速、中東情勢が重荷、WTO見通し - ジェトロ 2026年3月19日に発表されたWTOの最新の世界貿易見通しによると、2026年の世界の財貿易量は前年比1.9%増と予測され、2025年の4.6%から大幅に減速する。この減速は、人工知能(AI)関連貿易の急増や米国の関税回避を目的とした前倒し輸入など、2025年の特殊要因が一巡することを踏まえている。中東情勢の混乱によりエネルギー価格が高止まりする「高エネルギー価格シナリオ」では、財貿易成長率が0.5%ポイント押し下げられ、1.4%にとどまるとの見通しも示された。
  • 【2026年3月27日】アフリカ関連重要ニュース|コーヒーと万年筆 - note 2026年3月26日、世界貿易機関(WTO)の第14回閣僚会議(MC14)がカメルーンのヤウンデで開幕し、多角的貿易体制の再活性化が議論された。主要議題には、WTO改革、漁業補助金協定、開発のための投資円滑化協定(IFDA)のWTO法体系への組み入れ、電子商取引作業計画、農業貿易などが含まれた。
  • A World Trade Organization is irrelevant when no one follows its rules 2026年3月26日にカメルーンで開催されたWTO閣僚会議で貿易交渉が決裂し、WTOの機能不全が露呈した。米国はデジタルダウンロードなどの電子製品に課される税金に対する恒久的なモラトリアムを望んだが、ブラジルは2年間の延長を提案したことで合意に至らなかった。この決裂は、紛争解決メカニズムの改善など、組織が改革を実施する能力に疑問を投げかけた。
  • 越境データ関税猶予延長、米が有志国と模索 WTOで合意できず - ニューズウィーク 2026年3月31日、WTO第14回閣僚会議で越境データ関税猶予の延長について合意できなかったことを受け、米国は有志国との間で延長を模索していると報じられた。
  • WTO conference fails to deliver: what comes next? - European Policy Centre (EPC) 2026年4月1日、WTO第14回閣僚会議(3月26日~29日)は最終宣言の採択や主要な成果の達成に失敗し、多角的貿易システムの将来を巡る深い対立と合意形成の困難さを露呈した。最も大きな後退は、1998年以来続いていた電子商取引およびTRIPS関連のモラトリアムの延長に失敗し、これらが失効したことである。これにより、各国はデジタルダウンロードやストリーミングなどの電子送信に輸入関税を課すことが可能となり、世界のデジタル市場に大きな変化をもたらす可能性がある。
  • 世界経済入門2026:トランプ関税の“根っこ”は自由貿易で傷ついた米国製造業労働者の痛みだ 伊藤萬里 | 週刊エコノミスト Online 2026年2月、米連邦最高裁判所が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税措置の法的根拠を否定した後も、トランプ政権は別の法的根拠に基づく一律関税措置を打ち出し、新たな通商法や安全保障関連法に基づく調査を次々と開始した。これは、自由貿易によって打撃を受けた米国製造業労働者の雇用不安を背景に、保護主義的な政策を継続する姿勢を示している。
  • 米国通商代表部、構造的過剰生産能力に関する第301条調査を開始、パブリックコメントの募集および公聴会日程を公表 | EY Japan 2026年3月11日、米国通商代表部(USTR)は、1974年通商法第301条に基づき、中国、EU、シンガポール、スイス、ノルウェー、インドネシア、マレーシア、カンボジア、タイ、韓国、ベトナム、台湾、バングラデシュ、メキシコ、日本、インドの16の国・地域の製造業セクターにおける構造的過剰生産能力および過剰生産に関連する行為、政策、慣行に関する調査を開始したと発表した。