リチウム・コバルトの確保と供給網リスク(2026年04月23日時点)

電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システムに不可欠な重要鉱物であるリチウムとコバルトは、その安定供給が世界経済の持続可能性に直結する。2026年4月23日現在、両資源の市場は価格変動、需給バランス、主要国の戦略、および地政学的な供給網リスクが複雑に絡み合い、予断を許さない状況にある。本稿では、最新の市場動向と関連する技術開発、地政学的要因を包括的に分析し、現状と将来の課題を提示する。

リチウム市場の最新動向と価格変動

リチウム市場は、2026年4月に入ってから価格回復の兆しを見せている。2026年4月21日時点の炭酸リチウム価格は172,000人民元/トンに下落したが、これは前日比0.29%の減少に過ぎない。過去1ヶ月間では17.41%の上昇を記録しており、昨年の同時期と比較すると144.32%もの大幅な上昇となっている。 この価格回復の背景には、中国におけるエネルギー貯蔵需要の増加とEV市場の回復がある。特に、中国政府が2027年までに全国のEV充電能力を180ギガワットに倍増させる計画を発表したことも、リチウムを豊富に含むエネルギー貯蔵システムへの需要を後押ししている。

しかし、市場の先行きには不透明感も漂う。Investing.comが2026年4月22日に報じたロスチャイルド・アンド・カンパニー・レッドバーンのレポートによると、リチウム市場は2027年に再び供給過剰に転じる可能性があり、これが価格を圧迫し、主要生産者の投資妙味を損なうと警告されている。 業界は2026年に生産を増やすことで対応しているが、この過剰生産が来年の需要減速につながる可能性があるという。

コバルト市場の現状と供給安定性

コバルト市場は2026年4月21日現在、ほぼ横ばいの状況が続いている。需要と供給がともに低調で、売買材料に乏しく、値動きに方向感が見られない。 LGコバルトとLMEコバルトは小幅に上昇したものの、HGコバルトと硫酸コバルトは下落した。 上海有色網(SMM)は、「価格は提示されていても実際の取引は少なく、補充目的での散発的な取引がみられるにすぎない」と現状を説明している。

2026年4月20日時点のコバルト価格は56,290米ドル/トンで取引されており、過去1ヶ月間は横ばいで推移している。しかし、1年前と比較すると67.03%高い水準を維持している。 Trading Economicsの予測では、今四半期末までに56,771.59米ドル/トン、今後12ヶ月間で58,806.16米ドル/トンで取引されると見込まれている。

コバルトの供給安定性には、コンゴ民主共和国(DRC)の生産割当や地政学的要因が大きく影響する。DRCは世界のコバルト供給の大部分を占めており、その政策変更は市場に直接的な影響を与える。2025年にはコバルト輸出禁止や輸出割当制度が導入され、価格が急騰した経緯がある。 2026年にはDRCからのコバルト輸出政策が比較的安定しているものの、コバルト市場の需要と供給のダイナミクスが今後の動向を決定すると見られている。

EVバッテリー市場の成長と原材料供給リスク

EVバッテリー市場は、今後も著しい成長が見込まれている。予測によると、EVバッテリー市場は2035年までに5399億1000万米ドル規模に拡大し、2026年から2035年までの年平均成長率(CAGR)は21.18%に達するとされている。 しかし、この急成長を阻害する要因として、リチウム、コバルト、ニッケルといった主要原材料の不足が懸念されている。

特に、リチウムイオンバッテリー供給において中国は支配的な立場を確立している。中国企業は世界のEVバッテリー市場の約6割(58.6%)を占め、バッテリーセル製造の約80%を担っている。 この中国への依存は、サプライチェーンリスクを高める要因となっている。

こうした中、各国は原材料の確保と供給網の多様化に向けた動きを加速させている。米石油大手エクソンモービルは、2026年までにアーカンソー州でリチウム生産を開始する計画を発表している。 同社は、アーカンソー州のスマックオーバー層に推定400万トンの炭酸リチウム相当量(LCE)があると見ており、これは5000万台のEV製造に十分な量とされている。 また、三菱ケミカルグループは、EV向けリチウムイオン電池用の負極材の生産能力を香川事業所で増強することを決定しており、2026年10月の稼働を予定している。 この増強により、年間11,000トンの生産能力を目指し、サプライチェーンの強化とカーボンニュートラルへの貢献を図る。

供給網リスクと代替技術・地政学的戦略

リチウム採掘は、その需要の急増に伴い、環境・社会・人権問題を引き起こしている。特にアルゼンチンなどの南米地域では、リチウム採掘が大量の水を消費するため、水資源への影響が深刻化しており、「緑の植民地主義」との批判も上がっている。

このような供給網リスクと環境負荷を軽減するため、リチウムに依存しない代替バッテリー技術の開発が加速している。その最たる例がナトリウムイオンバッテリーだ。中国のバッテリー大手CATLと自動車メーカーの長安汽車は、2026年内に世界初のナトリウムイオンバッテリー搭載EVを発売する計画を発表している。 CATLが開発したナトリウムイオンバッテリー「Naxtra」は、最大175Wh/kgのエネルギー密度を実現し、電気のみで400km以上の走行が可能とされる。 さらに、マイナス30℃の環境でも同条件のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーと比較して約3倍の出力を発揮し、マイナス40℃でも90%以上の容量を維持するなど、低温性能に優れている点が特長だ。 ナトリウムは海水から容易に製造できるため、リチウムよりも安価で資源量がほぼ無限であるという利点がある。

地政学的な要因も、EVバッテリー市場の動向に大きな影響を与えている。米国では、2026年にEV税控除が終了することで、EV販売の鈍化が予測されている。 2025年10月から12月期の販売は、前四半期比で46%減と大きく落ち込んだ。 一方で、中国は世界のバッテリー市場を支配しており、その技術革新と生産能力は圧倒的だ。 米国と中国の間の地政学的分断は、次世代技術の普及にも影響を与え、サプライチェーンの再編を促す可能性がある。

Reference / エビデンス