東亜:東南アジア資源加工義務化と外資の相克
2026年4月23日、東南アジア諸国は資源ナショナリズムを背景に、重要鉱物の国内加工義務化を強力に推進している。これは、経済成長の加速とサプライチェーンの強靭化を目指す動きであり、外資企業は新たな投資機会と同時に、複雑な規制リスクに直面している。特にインドネシアのニッケル下流化政策、マレーシアのレアアース戦略、そしてフィリピンの外資規制緩和の動きは、域内の経済見通しと個別の投資環境に具体的な影響を与えている。
インドネシアのニッケル下流化戦略と生産割当の動向
インドネシアは、ニッケルを含む重要鉱物の「下流化」政策を国家戦略として強力に推進している。これは、未加工の鉱物輸出を制限し、国内での精錬・加工を通じて高付加価値化を図るもので、持続可能な投資を加速させる狙いがある。政府は今後5年間で、15の優先産品の下流産業に総額約2310億米ドルを投資する壮大な計画を掲げている。
この政策の一環として、2026年のニッケル鉱石生産割当は大幅に削減された。2026年1月から2月にかけての発表によると、この削減はニッケル価格の高騰を引き起こす可能性があり、市場に大きな影響を与えている。国内産業界からは、生産割当の見直しと引き上げを求める声も上がっており、政府は石炭とニッケルの生産クォータを見直すよう求められている状況だ。インドネシア政府は、鉱物資源の下流化を通じて、バッテリーや電気自動車産業のサプライチェーンにおける主要プレーヤーとしての地位を確立することを目指している。
マレーシアのレアアース産業育成と国際協力
マレーシアは、レアアース加工産業の育成に注力し、「マイン・トゥ・マグネット」戦略を打ち出して高付加価値産業の創出を目指している。これは、中国へのレアアース供給依存からの脱却を図る国際的な動きの中で、マレーシアが戦略的な役割を果たすことを意味する。
特に、オーストラリアのライナス・レアアース社は、2025年後半から2026年3月にかけてマレーシアでの事業拡充計画を進めている。同社は重希土類の工場を追加し、日本への供給も視野に入れている。マレーシア政府もこの動きを後押ししており、アンワル・イブラヒム首相は1.42億米ドルを投じる新たな磁石工場建設を発表し、レアアース部門の強化を図っている。日本政府も、レアアースの安定供給確保のため、マレーシアとの連携を重視しており、日中間で激化するレアアース覇権競争においてマレーシアが重要な位置を占めている。
フィリピンの鉱業政策と外資誘致の動き
フィリピンは、その豊富な鉱物資源の潜在力を活かすべく、鉱業分野における外資誘致を強化している。同国は900万ヘクタールもの高い鉱物ポテンシャルを有する地域があるにもかかわらず、2024年中盤時点で採掘権が保有されているのは約12%に過ぎない。
こうした状況を打開するため、2026年4月20日には、外資規制緩和を目的とした大統領令(EO 113号)が発表された。この大統領令は、鉱業分野への外国直接投資を促進し、経済成長を加速させることを期待されている。フィリピン政府は、鉱業開発がもたらす経済的利益と、環境・社会課題への責任ある対応とのバランスを取りながら、持続可能な鉱業の発展を目指している。
東南アジア全体の資源ナショナリズムとエネルギー安全保障
東南アジア全体では、資源ナショナリズムの傾向が広がりを見せている。各国は自国の資源を最大限に活用し、国内産業の育成と経済的自立を目指す動きを強めている。このような状況下で、2026年3月から4月にかけての中東情勢の緊迫化は、域内のエネルギー安全保障に深刻な影響を与えている。
ASEAN3マクロ経済調査事務局(AMRO)が2026年4月6日に発表した経済見通しでは、2026年および2027年の地域経済成長率を4.0%と予測しつつも、中東紛争による原油価格の高騰がインフレを加速させ、経済成長の下振れリスクとなる可能性を指摘している。これに対し、東南アジア各国は燃料消費抑制のために様々な措置を講じている。例えば、2026年3月には、一部の国で燃料補助金の削減や、公共交通機関の利用促進策が導入された。フィリピンでは、一部燃料への課税を停止する動きも見られるなど、各国はエネルギーショックへの対応を迫られている。
Reference / エビデンス
- 重要鉱物の「下流化」で持続可能投資を加速 インドネシア|ASEAN科学技術ニュース - JST
- インドネシア(3)政府が注力する鉱物資源・ニッケル産業の下流化 | ASEAN主要国の産業政策と企業によるサプライチェーン対応 - ジェトロ
- インドネシア:投資運用庁(ダナンタラ)、石炭ガス化事業を含む10件の下流化事業を着工
- SunSirs : インドネシアが世界最大の鉱山の割当を削減し、ニッケル価格が高騰
- SunSirs : インドネシアの政策転換、ニッケルの平均価格は 2026 年に上昇する可能性がある
- インドネシアのビジネスニュース:2026年2月後半 - 海外市場調査のグローバル マーケティング ラボ
- 政府は石炭とニッケル生産のクォータを見直し、引き上げるよう求められている - VOI.id
- ニッケルが2年以上ぶりの高値から急落
- マレーシア、中国のレアアース加工支援に期待 国有企業間で限定協力を模索 - レアリサ
- 豪ライナス・レアアース、マレーシア事業を拡充へ 重希土類の工場追加、日本への供給も視野
- マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアース部門強化 - ニューズウィーク
- 日中間で激化する“レアアース覇権競争” マレーシアを重視する理由とは | TECH+(テックプラス)
- 中国によるレアアースの輸出規制 -各国の対応と今後の視座-(2026年4月) - PwC
- フィリピンにおける鉱業の法的動向とインセンティブ - Law.asia
- 外資規制緩和の大統領令を評価 - フィリピン - ASEAN経済通信
- マレーシアも世界的に広がる「資源ナショナリズム」に傾斜へ ~時期やその影響は不透明ながら、資源国に広がる動きや行方に注意を払う必要性は高まっている~ | 西濵 徹 | 第一ライフ資産運用経済研究所
- 深刻なエネルギーショックに対し、ASEAN+3は強固な基盤から対応 - 共同通信PRワイヤー
- 東南アジア各国が燃料消費の抑制に動く - LOGISTICS TODAY
- グローバルサウスにおける資源ナショナリズムの深化と産油国の輸出戦略の変容:2026年4月情勢分析 - Vantage Politics
- 一部燃料への課税を停止(2026年4月14日) フィリピン | ASEAN経済通信
- 「成長予測を4.4%に下方修正:原油高がインフレを加速」ほか ニュース2026.4.12【フィリピン・セブ】
- 2026年4月9日(木)号 - 週刊タイ経済