南方:国連海洋法(UNCLOS)とEEZ紛争の法廷争い
2026年4月21日、国際社会は国連海洋法条約(UNCLOS)が定める海洋秩序と、排他的経済水域(EEZ)を巡る紛争の狭間で、その安定性を試されています。特に南シナ海では、領有権主張が複雑に絡み合い、国際司法の場での裁定が下されてもなお、緊張状態が続いています。本稿では、UNCLOSの基本原則から南シナ海における具体的な紛争事例、国際司法機関による解決の試み、そして今後の展望までを、最新の動向を織り交ぜて詳細に分析します。
国連海洋法(UNCLOS)の基本原則と排他的経済水域(EEZ)の定義
国連海洋法条約(UNCLOS)は「海の憲法」と称され、海洋に関する包括的な国際法秩序を確立しています。1982年に採択され、1994年に発効したこの条約は、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、公海、深海底といった海域の区分と、それぞれの海域における沿岸国およびすべての国の権利と義務を詳細に規定しています。
領海は沿岸から12海里(約22km)までの範囲で、沿岸国の主権が完全に及びますが、すべての国の船舶には無害通航権が認められています。 接続水域は領海の基線から24海里までの範囲で、沿岸国は通関、財政、出入国管理、衛生に関する法令違反の防止・処罰を行うことができます。
排他的経済水域(EEZ)は、原則として領海の基線から200海里(約370km)までの海域(領海を除く)に設定されます。この水域において、沿岸国は海底の上部水域、海底、およびその下の天然資源(生物資源、非生物資源を問わない)の探査、開発、保存、管理のための主権的権利を有します。また、海水、海流、風からのエネルギー生産など、経済的な目的で行われるその他の活動に関する主権的権利も認められています。さらに、人工島、施設、構築物の設置・利用、海洋の科学的調査、海洋環境の保護・保全に関する管轄権も有します。 大陸棚は、領海の基線から200海里またはそれ以上の範囲で、海底およびその下の天然資源に対する沿岸国の主権的権利が認められる水域です。 一方、深海底およびその資源は「人類の共同の財産」とされ、いずれの国も主権や主権的権利を主張・行使することはできません。
日本は四方を海に囲まれた海洋国家として、UNCLOSの作成過程に積極的に参加し、1996年6月に条約を批准、同年7月20日に日本について発効しました。 国内法としては、「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」や「排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利の行使等に関する法律」などを制定し、UNCLOSに基づく海洋秩序の維持に努めています。 2026年2月現在、UNCLOSは171か国およびEUによって締結されており、国際海洋法秩序の根幹を成しています。
南シナ海におけるEEZ紛争の現状と2016年仲裁裁定
南シナ海は、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシアの7つの沿岸国が領有権を主張し、漁業権、鉱物資源、戦略的な航路を巡って複雑な紛争が頻発しています。 特に中国は、南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」に基づき歴史的権利を主張していますが、その具体的な法的根拠は公式に明確にされていません。
この状況に対し、フィリピンは2013年1月、国連海洋法条約附属書VIIに基づき、中国を相手取って常設仲裁裁判所(PCA)に仲裁手続を提訴しました。 中国は一貫して仲裁手続への参加を拒否し、裁判所には管轄権がないと主張しました。
しかし、2016年7月12日、仲裁裁判所はフィリピンの主張をほぼ全面的に認める裁定を下しました。 裁定は、中国の「九段線」内の歴史的権利の主張はUNCLOSに違反し、法的根拠がないと判断しました。 また、スカボロー礁は「岩」でありEEZや大陸棚を生成しないこと、ミスチーフ礁やセカンド・トーマス礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚を生成せず、フィリピンのEEZおよび大陸棚の範囲内にあると明確にしました。
中国は裁定直後からこれを「紙切れ」と呼び、受け入れも認めもしない姿勢を表明しました。 その後も南シナ海における中国の威圧的行動は常態化しており、2026年4月上旬には、中国海警局の船舶がフィリピンの航空機に対し照明弾を発射する事件が発生し、偶発的な衝突のリスクが高まっています。 さらに、2026年4月15日には、中国がフィリピンのEEZ内にある係争海域スカボロー礁の入り口に船舶と浮遊式遮断膜を設置し、進入を統制しようとする動きが報じられました。 これは、米国がホルムズ海峡の情勢に注力する隙を突いた行動と見られています。 フィリピンはこれに対抗し、2026年4月2日には南沙諸島の一部を「西フィリピン海」と改名し、主権強化の姿勢を明確にしています。 また、2026年4月9日から12日にかけて、米国、オーストラリア、フィリピンは南シナ海で今年2回目となる合同軍事演習を実施し、地域安全保障に対する共通の決意を示しました。
国際司法機関による紛争解決の事例と課題
南シナ海仲裁裁定は、国際司法機関が海洋紛争解決において国際法の解釈と適用を明確にする重要な役割を果たすことを示しました。UNCLOSの規定に基づき、仲裁裁定は最終的であり、紛争当事国を法的に拘束するものです。 しかし、中国がこの裁定を拒否し続けている事実は、国際司法の裁定が持つ法的拘束力と、その実効性の問題という課題を浮き彫りにしています。
国際社会は、法の支配を維持し、紛争の平和的解決を促進するために様々な対応を取っています。日本は一貫して、海洋を巡る紛争の解決において、力や威圧ではなく法の支配と平和的手段を用いることの重要性を主張し、当事国が仲裁判断に従うことを強く期待しています。 米国も2015年以降、南シナ海で「航行の自由作戦(FONOP)」を展開し、中国の過剰な海洋主張に異議を唱えています。
国際情勢の緊張は、2026年4月上旬のホルムズ海峡を巡る動向にも顕著に表れています。2026年4月12日、イスラマバード協議の実質的決裂を受け、トランプ米大統領が「米海軍によるホルムズ海峡封鎖(逆封鎖)」を宣言し、危機は「イラン管理通航フェーズ」から「米・イラン双方向封鎖フェーズ」へと移行しました。 これにより、ホルムズ海峡の通航数は平時比約90%減の1日10隻前後まで激減し、WTI原油先物は一時118ドル台を記録するなど、世界経済に深刻な影響を与えています。 2026年4月19日には、米軍が封鎖突破を試みたイラン貨物船に発砲・拘束する事態が発生し、イラン側はこれを「武装海賊行為」と非難しました。 このような状況は、国際法に基づく海洋秩序が、地政学的な対立によっていかに容易に揺らぎ、国際社会がその実効性の確保に直面する課題を改めて示しています。
今後の展望と国際社会の対応
国連海洋法(UNCLOS)とEEZ紛争を巡る今後の展望は、南シナ海における中国の継続的な威圧的行動と、これに対抗する国際社会の連携強化にかかっています。2026年4月19日から21日にかけても、南シナ海における緊張は依然として高く、中国の一方的な海洋進出に対し、フィリピンを中心としたASEAN諸国は米国や日本との連携を強化し、対抗姿勢を明確にしています。
地域安全保障の強化に向けた具体的な取り組みとして、フィリピンは日米豪との連携を深めています。2026年4月9日から12日にかけて実施された米豪比3カ国による合同海上演習に続き、2026年4月20日から始まる米比年次合同軍事演習「バリカタン」には、日本がオブザーバーではなく正式な参加国として初めて加わることが決定しています。 また、フィリピンは中国の南シナ海侵略に対抗するため、多国間仲裁裁判の模索も進めています。 ASEANと中国は南シナ海における行動規範(COC)の策定交渉を続けており、2026年中の交渉完了を目指していますが、COCの法的拘束力の範囲や中国の主張を巡る意見の相違が交渉を停滞させる主要因となっています。
国際社会が法の支配を維持し、紛争の平和的解決を促進するためには、国際法の遵守を求める一貫した外交努力と、地域協力の枠組みの強化が不可欠です。日本は引き続き、国際会議の場で2016年の仲裁裁定の重要性を各国に働きかけ、法の支配に基づく海洋秩序の維持に貢献していく方針です。
さらに、新たな国際海洋条約である「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する協定」(BBNJ協定)が2026年1月17日に発効したことは、海洋ガバナンスに大きな影響を与えるものと期待されています。 この協定は、公海および深海底の生物多様性を守るための国際ルールを確立し、「自由の海」という従来の思想を「責任の海」へと転換させる意義を持ちます。 BBNJ協定は、国家管轄権外区域における海洋保護区(MPA)の設定を可能にし、環境影響評価の実施を義務付けることで、気候変動、生物多様性の損失、汚染という「三重の地球環境危機」への対処に不可欠な貢献を果たすことが期待されています。 この新たな枠組みが、EEZ紛争を含む広範な海洋問題の解決に向けた国際協力の機運を高めることが期待されます。
Reference / エビデンス
- 海洋法に関する国際連合条約 - Wikipedia
- 海洋境界画定と国際裁判 | 尖閣諸島に関する研究・解説サイト - 内閣官房
- 国連海洋法条約と日本
- 海洋の国際法秩序と国連海洋法条約|外務省 - Ministry of Foreign Affairs of Japan
- Territorial Disputes in the South China Sea | Global Conflict Tracker
- The South China Sea Arbitration and Recent Maritime Incidents: Legal Significance in 2025
- Arbitration on the South China Sea: Rulings from the Hague - CSIS
- 南シナ海判決 - Wikipedia
- 南シナ海仲裁裁判所の裁定:その注目点と今後の課題 | 海洋安全保障情報特報 | 笹川平和財団
- 2026年4月12日時点:国際海洋法を巡る領有権主張と政治的対立の現状分析 - Vantage Politics
- グローバル:国際海洋法を巡る領有権主張と政治的対立の動向(2026年4月上旬) - Vantage Politics
- ホルムズ海峡に関する共同声明の海洋法上の意義及び特色 - 防衛研究所
- 中国、ホルムズ海峡の航行を保護するための国連決議に抵抗する中、重大な結果とさらなるエスカレーションを警告 - Benzinga Japan
- Territorial Disputes in the South China Sea | Global Conflict Tracker
- How China's actions in the South China Sea undermine the rule of law | Brookings
- グローバル:国際海洋法を巡る領有権主張と政治的対立の動向(2026年4月上旬) - Vantage Politics
- フィリピン、中国の南シナ海侵略に対する多国間仲裁裁判を模索 - Indo-Pacific Defense FORUM
- 潮目を変える国際海洋条約が発効へ(UN News 記事・日本語訳)