東亜:ASEAN諸国の経常収支と対外債務の脆弱性
2026年4月20日、ASEAN諸国は、中東紛争による原油価格高騰や海上輸送の混乱といった外部要因、そして保護主義的な貿易政策の影が色濃く残る中で、経済の安定性と潜在的なリスク要因に直面しています。本稿では、最新の経済見通しに基づき、ASEAN地域の経常収支と対外債務の現状を詳細に分析し、各国の脆弱性および経済成長を左右する主要因を明らかにします。
ASEAN経済の全体的な見通し(2026年)
2026年のASEAN3地域の経済成長率は4.0%と予測されています。しかし、世界銀行は東南アジア6カ国の2026年GDP成長率予測を、前回(2025年10月版)から下方修正しました。これは、中東紛争による原油価格の高騰や海上輸送の混乱が、地域の経済見通しに対する下振れリスクを大幅に増加させているためです。一方で、堅調な内需、AI関連の半導体需要に支えられた力強い輸出、持続的な投資が経済を下支えする要因となっています。
ASEAN5(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム)の2026年の成長率は4.7%と見込まれています。ただし、外需の減速が一部の国の成長率を2025年と比べて鈍化させる可能性があり、積極的な財政出動が内需を支える見通しです。ラオスの経済成長率は、アジア開発銀行(ADB)によると、2025年の4.4%から2026年には4.0%に減速すると予測されています。また、エネルギー価格の急騰により、ラオスのインフレ率は2026年に9.8%まで再上昇すると予測されています。国際通貨基金(IMF)は、アジア全体の成長率が2025年の5%から2026年に4.4%、2027年に4.2%へ鈍化すると予測しており、中東リスクへの脆弱性を指摘しています.
主要ASEAN諸国の経常収支動向
ASEAN諸国の経常収支は、財輸出の回復に伴い改善基調にありますが、一部の国では課題が残ります。インドネシアでは金や石油ガス等の輸入拡大が続き、貿易黒字の縮小を背景に経常収支の赤字が続いています。具体的には、インドネシアの経常収支は、今年のGDPの約1%の赤字になると予想されており、現在進行中の設備投資プロジェクトのために赤字が続く可能性が高いとされています。フィリピンでは、2024年以降拡大している旅行関連のサービス赤字が重荷となり、経常収支の赤字が続いています。
一方、タイは大幅な経常黒字を計上しており、これにより2,210億ドルの公定歩合外貨準備高を積み上げ、国際通貨基金(IMF)の準備十分性指標の209%をカバーしています。マレーシアも石油とソフト・コモディティの純輸出国として、一貫して経常黒字を維持しています。IMF高官は、中東紛争の長期化により、アジアではインフレ率の上昇、成長の鈍化、経常収支の悪化が起きる可能性を指摘しています。2024年のアジアの経常収支ランキングでは、シンガポールが96.02億ドルで5位、ベトナムが30.51億ドルで7位、タイが13.37億ドルで9位、マレーシアが6.06億ドルで10位、インドネシアが-8.68億ドルで23位、フィリピンが-10.29億ドルで24位となっています.
ASEAN諸国の対外債務の脆弱性
ASEAN諸国の債務リスクは相対的に低いと考えられていますが、個別の国では注意が必要です。マレーシアは対外債務残高の名目GDP比が高い水準にあり、2021年で70%に達しました。しかし、マレーシアの対外債務のうち約3割が自国通貨建てであり、経常収支黒字を維持していることから、債務リスクは相対的に高くないとされています。一方、シンガポールの公的債務は1兆ドルを超え、世界第15位に位置し、GDP対比では176%で世界3位となっています。
ラオスの公共・公的保証債務(PPG債務)は依然として「持続不可能」な水準にあり、2025年の対GDP比PPG債務残高は82%に低下したものの、構造的な解決には至っていません。コロナ禍で政府債務が増大しており、さらなる財政出動はその持続性への懸念を高める可能性があります。また、家計債務リスクの増大を踏まえた中央銀行による規制強化や、コロナ禍での支援策の終了に伴う債務返済の増加が影響していると指摘されています.
地政学的リスクと貿易政策の影響
2025年は米国でトランプ政権が再び誕生し、ASEAN諸国は米国の保護主義に翻弄された一年となりました。2025年4月2日に発表された「相互関税」では、ベトナムに46%、タイに36%、インドネシアに32%と、主要国に高関税が課されました。米国への輸出依存度の高いASEAN各国は、2025年下半期に米国関税発動前の駆け込み輸出の反動減により減速傾向が鮮明でしたが、2026年は関税影響が緩和され、安定した成長が想定されています。
2026年も保護主義的な動向や地政学リスクは依然残るものの、各国とも内需振興策などの政策による下支えや所得の改善などにより底堅く推移すると考えられています。また、2025年11月に顕在化した日中関係の緊張や、カンボジア・タイの国境紛争問題、インドネシアやフィリピンの反政府デモの再燃などもリスク要因として挙げられます。中国の「デフレ輸出」により、安価な中国製品の輸入が短期間で大幅に増加しており、価格競争を通じてASEAN諸国の企業収益が悪化し、雇用・賃金が下押しされるリスクがあります。さらに、中東の紛争と世界的なエネルギー供給の混乱は、地域の経済見通しに対する下振れリスクを大幅に増加させています.
Reference / エビデンス
- 経済展望 2026年ASEAN域内展望 - シンガポール日本商工会議所
- 2026年のASEAN5経済見通し | 大和総研
- ASEAN及び東アジア経済見通し:上昇するリスクの中での4.0%の成長予測 | Binance News
- 【アセアン】26年のGDP予測、東南ア6カ国で下方修正=世銀 - ワイズデジタル
- 26年の経済は4%成長に減速へ(2026年4月13日) ラオス | ASEAN経済通信
- 深刻なエネルギーショックに対し、ASEAN+3は強固な基盤から対応 - 共同通信PRワイヤー
- ASEANプラス3は4%成長へ
- ADBと世界銀行が2026年のラオス経済見通しを発表、エネルギー急騰でインフレ率の上昇を予測(ラオス、中東) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
- アジアは中東リスクに脆弱、紛争長期化なら打撃深刻=IMF高官 - ニューズウィーク
- 第4節 ASEAN経済:通商白書2025年版 (METI/経済産業省)
- ASEAN経済は外的ショックに対して安定した状態にある、とQNBが指摘 - ARAB NEWS
- アジアの経常収支ランキング - 世界経済のネタ帳
- アジアは中東リスクに脆弱、紛争長期化なら打撃深刻=IMF高官 - ニューズウィーク
- 東南アジアで最も債務が多い国はどこですか? - Vietnam.vn
- 第4節 新興国・途上国で高まる債務リスク:通商白書2023年版 (METI/経済産業省)
- アジア経済見通し
- アジア主要国のリテール金融市場の現状と課題 - 国際通貨研究所
- ADBと世界銀行が2026年のラオス経済見通しを発表、エネルギー急騰でインフレ率の上昇を予測(ラオス、中東) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース
- 経済展望 2026年ASEAN域内展望 - シンガポール日本商工会議所
- ASEAN及び東アジア経済見通し:上昇するリスクの中での4.0%の成長予測 | Binance News
- アジア経済見通し
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