欧州:環境規制の強化と域内産業保護政策の整合性

欧州連合(EU)は、気候変動対策と産業競争力強化という二つの目標を両立させるため、一連の野心的な政策を推進している。炭素国境調整メカニズム(CBAM)、重要原材料法(CRMA)、ネットゼロ産業法(NZIA)、産業加速法(IAA)といったこれらの政策は、域内産業の脱炭素化を促しつつ、カーボンリーケージ防止やサプライチェーンのレジリエンス向上を通じて、欧州産業の保護を目指すものだ。2026年4月12日現在、これらの政策は具体的な運用段階に入り、その整合性が問われている。

炭素国境調整メカニズム(CBAM)の運用開始と初期価格設定

2026年4月7日から9日にかけて、EUは炭素国境調整メカニズム(CBAM)の2026年第1四半期における証明書価格を1トンあたり75.36ユーロ(€75.36/tCO2e)と発表した。この価格は、EU域外からの輸入製品に課される炭素排出量に応じたものであり、カーボンリーケージ(EU域内の企業がより緩い排出規制の国に生産拠点を移すこと)を防止し、EU排出量取引制度(EU ETS)との整合性を図ることを目的としている。

CBAM証明書価格は、2026年中は四半期ごとに発表され、2027年からは週次発表へと移行する予定だ。このメカニズムは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素といった対象品目の輸入業者に直接的な影響を与える。輸入業者は、輸入する製品の製造過程で排出された炭素量に応じた証明書を購入する必要があり、これによりEU域内企業と同等の炭素コストを負担することになる。

重要原材料法(CRMA)によるサプライチェーンのレジリエンス強化

2026年4月7日、欧州理事会は重要原材料法(CRMA)の強化案に合意した。この法案は、EUの重要原材料サプライチェーンのレジリエンスと戦略的自律性を高めることを目的としている。具体的には、2030年までにEU域内での重要原材料の抽出を10%、加工を40%、リサイクルを25%に引き上げるという野心的な目標が設定された。

さらに、単一の非EU国への依存度を65%以下に抑える目標も盛り込まれており、サプライチェーンの多様化が強く推進される。特に、永久磁石製品については、2031年までにリサイクル材の最低含有率を義務化する方針が示された。 また、EU-メルコスール協定のような貿易協定は、南米諸国からの重要原材料の安定供給を確保し、CRMAの目標達成に大きく貢献すると期待されている。

ネットゼロ産業法(NZIA)と産業加速法(IAA)によるクリーン技術製造の推進

欧州委員会は、クリーン技術製造の域内強化を目指し、2024年5月にネットゼロ産業法(NZIA)を採択し、さらに2026年3月4日には産業加速法(IAA)を提案した。NZIAの主要な目的は、2030年までにEUの年間ネットゼロ技術展開ニーズの40%を域内で製造することである。

これらの法律は、許認可プロセスの簡素化を通じて、ネットゼロ技術の製造プロジェクトを加速させることを目指している。特にIAAは、公共調達において「Made in EU」製品を優遇し、低炭素要件を導入することで、域内産業の競争力を高める。具体的には、2029年1月1日以降の公共プロジェクトにおいて、低炭素鋼、アルミニウム、コンクリートの最低使用割合が義務付けられる見込みだ。

循環経済と持続可能な製品政策の進展

EUは、循環経済への移行を加速させるため、新たな法案や規制の導入を進めている。2026年第4四半期には、循環経済法(CEA)の法案が発表される予定だ。

また、2026年中には、EU森林破壊防止規則(EUDR)、エコデザイン規則(ESPR)、グリーンクレーム指令(GCD)などの重要な規制が発効する。EUDRは、大中規模企業に対して2026年12月30日から適用され、森林破壊に由来しない製品の輸入・販売を義務付ける。

ESPRは、製品の耐久性、修理可能性、リサイクル可能性を強化し、製品ライフサイクル全体での環境負荷低減を目指す。さらに、グリーンウォッシング対策として、消費者のグリーン移行を支援する指令(Empowering Consumers for the Green Transition Directive、EmpCo指令)が2026年9月27日に発効し、企業による誤解を招くような環境主張を規制する。

これらの政策は、欧州が環境保護と産業競争力の両立を目指す上で不可欠な要素であり、今後もその動向が注目される。

Reference / エビデンス