欧州:環境規制の強化と域内産業保護政策の整合性

欧州連合(EU)は、気候変動対策と産業競争力強化という二つの目標を両立させるため、環境規制を強化しつつ、域内産業保護政策との整合性を図る新たな政策フレームワークの構築を加速させている。特に2026年に入り、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格適用や産業加速法案の発表など、具体的な動きが活発化しており、その動向が注目される。

産業加速法(IAA)による域内産業支援の強化

欧州委員会は2026年3月4日、域内産業の競争力強化と脱炭素化を加速させることを目的とした「産業加速法(Industrial Accelerator Act: IAA)」を発表した。これは、欧州のクリーン産業ディールの一環として位置づけられており、特に公共調達において「欧州製」の条件を導入することで、域内産業保護に大きく寄与すると期待されている。自然エネルギー財団が2026年4月1日に発表した分析によると、IAAは、EU域内で製造された低炭素製品の公共調達や公的支援において優遇措置を設けることで、域内産業の競争力を高め、脱炭素化への投資を促進する狙いがある。この措置は、自由貿易協定(FTA)の相手国にも適用される可能性があり、欧州域外の企業にも影響を及ぼす可能性がある。

炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格適用と国際的な反応

2026年1月1日より、炭素国境調整メカニズム(CBAM)が本格適用を開始した。移行期間(2023年10月1日~2025年12月31日)からの主な変更点として、輸入事業者はCBAM対象製品の輸入時にCBAM証明書を購入することが義務付けられ、輸入製品の排出量については第三者検証が必須となる。HATCHが2026年3月30日(2026年4月3日更新)に報じたところによると、本格適用により、対象となる鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素の6品目について、輸入事業者はEU域内企業と同様の炭素価格を負担することになる。

このCBAMの本格適用に対し、国際社会からは懸念の声も上がっている。米国通商代表部(USTR)は2026年3月31日に発表した報告書の中で、EUのCBAM本格実施を新たな貿易障壁の一つとして指摘した。USTRは、CBAMが国際貿易に与える影響について懸念を示しており、今後の国際的な貿易摩擦に発展する可能性も指摘されている。

環境規制の適用延期と産業界への配慮

一方で、一部の環境規制については、産業界への配慮から適用が延期される動きも見られる。森林破壊防止規制(EUDR)は、大中規模事業者に対する適用が2026年12月30日まで延期された。また、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)についても、その適用時期が2029年夏頃までずれ込む見通しとなっている。

これらの延期は、企業が新たな規制への対応準備に要する時間的猶予を与えるものであり、産業界の負担軽減に繋がると考えられる。2025年12月16日のnote記事や2025年12月23日のRIEF記事が指摘するように、これらの延期は、環境規制の厳格化と産業保護のバランスを再調整するEUの姿勢を示唆している。特にEUDRについては、小規模事業者に対してはさらに半年間の延期が決定されており、環境対策の後退と捉える見方もある。

欧州グリーンディールから産業競争力重視への政策転換

2024年から2026年にかけて、EUの政策軸は「環境偏重」から「産業競争力強化」へと明確に転換している。この政策転換の背景には、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー価格の高騰、中国製電気自動車(EV)の台頭による競争激化、そして域内における右派勢力の伸長といった複数の要因が挙げられる。

2026年2月1日の記事が報じたように、EUは「欧州グリーンディール」の目標を維持しつつも、その達成に向けたアプローチをより現実的かつ産業競争力に配慮したものへとシフトさせている。これは、脱炭素化を成長の原動力と捉えつつも、その過程で域内産業が国際競争力を失わないよう、具体的な支援策を講じる必要性が高まっていることを示している。今後、EUは環境目標と経済成長のバランスをいかにして取りながら、持続可能な社会の実現を目指していくのか、その政策動向が引き続き注目される。

Reference / エビデンス