欧州:環境規制の強化と域内産業保護政策の整合性に関する最新動向(2026年3月31日時点)

欧州連合(EU)は、気候変動対策と経済競争力の維持という二つの目標を両立させるため、環境規制の強化と域内産業保護政策の整合性を図る動きを加速させている。2026年3月31日現在、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格運用、産業加速法(IAA)の提案、企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)の適用、そして欧州電池規則の進展など、多岐にわたる政策が進行中であり、これらが域内産業およびグローバルサプライチェーンに与える影響は大きい。

炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格運用と域内産業保護

EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、2026年1月1日に本格運用が開始された。このメカニズムの主な目的は、EU域外からの輸入品にEU域内と同等の炭素価格を課すことで、炭素リーケージ(EU域内の企業がより緩い環境規制の国に生産拠点を移すこと)を防止し、EU域内産業の競争力を維持することにある。対象となる産業は、鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素といったエネルギー集約型産業である。

2026年3月31日は、「認定CBAM申告者」の申請期限であった。これにより、輸入事業者はCBAM証明書を購入し、輸入製品の排出量を申告する義務を負うことになる。また、2026年4月7日には、2026年第1四半期のCBAM証明書価格が1トンあたり75.36ユーロと発表された。この価格は、EU排出量取引制度(EU ETS)の価格に連動しており、輸入企業はこれに基づいて炭素コストを負担することになる。

産業加速法(IAA)による域内産業の競争力強化と脱炭素化

2026年3月4日、欧州委員会は、EUの産業基盤強化、脱炭素化の加速、競争力および強靭性の強化を目的とした産業加速法(IAA)を提案した。この法案は、公共調達および公的支援において「EU原産」および/または「低炭素」要件を導入することを特徴としている。特に、電気自動車(EV)補助金においては「EU原産」が限定される見込みであり、域内製造業の価値強化を目指す姿勢が鮮明である。

IAAはまた、1億ユーロ以上の外国直接投資に対して、技術移転や域内雇用50%以上といった条件を課すことを提案している。さらに、許認可手続きの迅速化や、産業製造加速地域の創設を通じて、クリーン技術産業の投資環境を改善し、EU域内での生産能力拡大を促進する狙いがある。

クリーン産業ディール(CID)と資金支援の動向

2025年2月に発表されたクリーン産業ディール(CID)は、2026年3月4日の産業加速法(IAA)提案を含む形で進展している。CIDは、EUの競争力強化、脱炭素化支援、エネルギー価格引き下げ、クリーン製品需要の増加、資金提供、循環性向上、雇用創出を目的としている。

資金支援の面では、2025年12月18日に募集が開始されたHorizon Europeの資金提供機会が注目される。これは、エネルギー集約型産業の脱炭素化や気候変動対策のためのクリーン技術を対象としており、2026年9月15日を期限としている。これらの資金は、EU域内産業のグリーン移行を後押しし、技術革新を促進することが期待されている。

欧州電池規則の進展と企業への影響

2023年8月に施行された欧州電池規則は、電池のライフサイクル全体にわたる持続可能性要件を課すものであり、段階的に適用が進んでいる。2025年2月には、電気自動車用電池のカーボンフットプリント(CFP)申告義務が開始された。これにより、電池メーカーは製品の環境負荷に関する透明性を確保する必要がある。

当初2025年2月に予定されていたバッテリーのデューデリジェンスに関するガイドラインの提案は、2026年7月に延期される見込みである。本規則は、原材料調達から製造、使用、リサイクルに至るまで、電池のサプライチェーン全体における環境・社会的な側面を網羅しており、電池パスポートの導入も含まれる。これは、電池産業に大きな変革を促し、より持続可能な製品開発と生産を求めるものである。

企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)の適用と簡素化

2026年3月18日、簡素化された企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)が施行された。本指令は、企業に対し、サプライチェーン全体での人権侵害や環境破壊の防止を義務付けるものである。

2025年2月のオムニバス修正案により、CSDDDの適用開始は2028年に延期され、対象企業基準も緩和された。具体的には、従業員1,000人以上かつ年間純売上高4.5億ユーロ超のEU企業、およびEU市場で一定の売上がある非EU企業が対象となる。この簡素化は、中小企業への過度な負担を軽減しつつ、指令の実効性を確保するための措置と見られている。

「グリーンウォッシュ」対策と消費者保護の強化

「グリーン移行のための消費者エンパワーメント指令(Empowering Consumers for the Green Transition Directive)」は、2026年3月27日を期限として、加盟国が国内法に転換する必要がある。本指令は、企業による誤解を招くような環境主張、いわゆる「グリーンウォッシュ」を規制することを目的としている。

具体的には、科学的根拠に基づかない一般的なグリーンクレームや「気候中立」といった主張が禁止され、企業の環境主張に対する監視が強化される。これにより、消費者はより信頼性の高い環境情報を得られるようになり、真に持続可能な製品やサービスを選択できるようになることが期待される。

Reference / エビデンス