欧州:移民・難民政策の変遷と労働市場への構造的影響

欧州連合(EU)は、移民・難民政策の歴史的な転換期を迎えています。2026年6月に本格適用が開始される新たな移民・庇護協定は、加盟国に新たな義務と責任を課し、欧州全体の移民管理に構造的な変化をもたらすことが期待されています。同時に、ウクライナからの難民を含む欧州の難民状況は依然として厳しく、労働市場における移民の役割もまた、経済成長と人口動態の持続可能性を左右する重要な要素として注目されています。

EU新移民・庇護協定の導入と実施状況

2026年6月の本格適用に向けて、EUの新たな移民・庇護協定の導入準備が着々と進められています。2026年3月10日に発表されたEU移民・庇護協定に関する国家実施計画と国家戦略の状況報告(Issue No 25, March 2026)によると、28のEU加盟国が国家実施計画を提出しました。しかし、ハンガリーとポーランドは提出を拒否しており、協定の全面的な実施には依然として課題が残されています。

また、欧州議会は2026年3月26日に、域外への「帰還拠点」設置を支持する投票を行いました。これは、非正規移民の送還を強化し、欧州への流入を抑制するための重要な一歩と見られています。

欧州における難民の現状と課題

欧州における難民の状況は依然として深刻です。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報告によると、2025年末までに欧州には2000万人以上の強制移動させられた人々がおり、そのうち520万人がウクライナからの難民であるとされています。

ユーロスタットのデータによれば、2026年1月31日時点で438万人のウクライナ難民がEUで一時的保護を受けています。 一方で、2025年にEUで初めて庇護申請を行った非EU市民は669,400人となり、2024年と比較して27%減少しました。 これは、新たな政策や国境管理の強化が一定の効果を上げている可能性を示唆しています。しかし、2025年第4四半期にはEUから第三国への移民送還が13%増加しており、強制送還の動きも活発化しています。

労働市場への構造的影響と移民の役割

移民は欧州の労働市場に構造的な影響を与え続けています。2026年3月4日に発表されたEY欧州経済見通しによると、移民はアイルランド、北欧諸国、スペイン、オランダ、英国、スイスの労働力供給拡大に大きく貢献しています。 しかし、ドイツ、ギリシャ、多くの中東欧諸国では、労働年齢人口の減少により労働力供給が減少すると予測されており、移民の受け入れがこれらの国の労働力不足を補う上で不可欠な要素となっています。

EUは、この状況を認識し、2026年1月29日に新たな5カ年移民戦略(2026-2030)を発表しました。この戦略は、合法的な移民と統合を欧州の繁栄の中心に据え、労働移動が競争力と人口動態の持続可能性に不可欠であると強調しています。 実際、2026年3月3日の報告では、2025年12月のユーロ圏の失業率が6.2%に低下したことが示されており、移民が労働力不足の解消に貢献している可能性が指摘されています。

英国の移民政策の動向

EUとは別に、英国も独自の移民政策の調整を進めています。2026年3月21日、英国下院委員会は、永住権取得の基準期間を10年に設定することを支持する報告書を発表しました。 これにより、高所得者(年収85,000ポンド以上)向けの加速経路は維持されるものの、ほとんどの労働・家族ビザ経路では永住権取得資格が5年から10年に延長される見込みです。 また、2026年3月10日には内務大臣が「移民新契約」を発表しており、英国の移民政策はより厳格な方向へと舵を切っていることがうかがえます。

Reference / エビデンス