北米:エネルギー輸出政策と国内環境規制の政治的調整

2026年3月20日、北米大陸ではエネルギー輸出政策と国内環境規制を巡る政治的調整が活発化している。特に米国ではトランプ政権のエネルギー政策転換が顕著であり、カナダもまた独自の環境政策シフトを進めている。両国に共通する課題として、データセンターの電力需要増大が挙げられ、地政学的な緊張も相まって、エネルギー市場は複雑な様相を呈している。

米国におけるエネルギー政策の転換と環境規制の緩和

2025年1月20日に発足したトランプ政権は、バイデン前政権が推進したクリーンエネルギー政策からの大幅な見直しを進めている。化石燃料(石油、天然ガス、石炭)の生産と輸出を加速させる方針を明確にし、環境規制の緩和に舵を切った。2025年3月には、温室効果ガス排出規制の根拠となる「危険因子判定」の撤回が提案され、環境保護庁(EPA)による規制の根幹が揺らいでいる。また、2025年7月に成立した「1つの大きく美しい法」により、インフレ削減法(IRA)が見直され、再生可能エネルギーへの支援が縮小される一方で、原子力発電やCCUS(二酸化炭素回収・貯留)技術への支援が強化されている状況だ。

具体的な動きとして、2026年3月10日に発表されたEIA(米国エネルギー情報局)の短期エネルギー見通しでは、2026年の米国の石油生産量が日量1361万バレルに達すると予測されており、化石燃料増産への強い意欲が示されている。 さらに、2026年2月25日には、米国エネルギー省(DOE)がジョージア州とアラバマ州における送電網強化のため、過去最大額となる合計265億ドルの融資を発表した。これは、増大する電力需要への対応と、エネルギーインフラの強靭化を目指すものと見られる。 また、国際的な動きとして、2026年3月5日には米大手シェル社がベネズエラでの石油・ガス開発に関する協定を締結しており、米国のエネルギー供給源の多様化を図る動きも活発化している。

カナダのエネルギー・環境政策の再編と国際連携

カナダでも、トルドー前政権の環境政策からの転換が見られる。炭素税の撤廃や電気自動車(EV)義務化の見直しが進められ、化石燃料推進へと舵を切る動きが顕著だ。2026年2月5日には、カナダ政府が新たなZEV(ゼロエミッション車)戦略を発表し、EVAS(電気自動車販売義務化制度)を廃止し、ZEV補助金を復活させる方針を示した。 これは、EV普及を市場原理に委ねつつ、補助金で支援するという現実的なアプローチへの転換と解釈できる。一方で、2024年11月に導入された石油・ガス分野の温室効果ガス排出上限規制案は、2025年に最終案が発表される予定であり、その進捗が注目されている。

国際的な連携も活発化している。2026年3月4日には、オンタリオ州が国家エネルギー回廊合意を発表し、国内のエネルギーインフラ整備に向けた動きを加速させている。 また、2026年3月6日には、高市総理とカーニー首相による日加首脳会談が開催され、エネルギー安定供給と経済安全保障対話の新設が合意された。これは、カナダが「脱米国依存」を図り、エネルギー供給先の多角化を進める動きの一環と見られている。 2026年7月に開始されるUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し協議を控え、カナダのエネルギー・環境政策の再編は、北米全体の貿易関係にも影響を与える可能性がある。

北米共通の課題:データセンターの電力需要と地政学的影響

北米全体に共通する喫緊の課題として、AIデータセンターの急増による電力需要の増大が挙げられる。米国の住宅向け電気料金は、2026年3月24日の記事によると全国平均で18.05セント/kWhに達し、前年比で5.4%上昇している。 EIAの2026年2月11日の予測では、米国の電力消費量は2026年に4,268億キロワット時、2027年には4,372億キロワット時と、今後も増加が続くと見られている。 この需要増に対応するため、データセンター向けのガス発電所開発や自家発電戦略の必要性が高まっている。

さらに、地政学的な緊張が北米のエネルギー政策に影を落としている。2026年2月28日に発生した米国・イスラエルによるイラン攻撃と、それに伴うホルムズ海峡の事実上の閉鎖は、世界の石油市場に深刻な影響を与えている。2026年3月16日の記事によると、ホルムズ海峡の通過量は紛争前の水準から90%以上減少し、日量150万バレル以下にまで落ち込んでいると推定される。 この状況を受け、IEA(国際エネルギー機関)は2026年3月20日、イラン戦争に起因する石油市場の混乱に対する需要側対策を提示した。 北米のエネルギー輸出政策は、国内の需要増大と国際的な供給網の混乱という二重の圧力に直面しており、その政治的調整は今後も複雑さを増すだろう。

Reference / エビデンス