グローバルミニマム課税(Pillar Two)の最新動向と各国の導入状況

2026年3月20日、国際法人税ルールは多国籍企業にとってかつてないほど複雑さを増しています。特に、OECDが主導する「2本の柱」のうち、グローバルミニマム課税(Pillar Two)の導入は、世界中でその影響を広げています。

2026年1月5日、OECDは「Side-by-Side Package」を発表しました。これは、グローバルミニマム課税の導入スケジュールと多国籍企業のコンプライアンスに大きな影響を与えるものです。このパッケージには、多国籍企業グループ(MNEグループ)の事務負担を軽減するための簡素化措置や、新たなセーフハーバー(Side-by-Side Safe HarbourおよびUPE Safe Harbour)が導入されています。特に、米国に親会社を持つMNEグループは、一定の要件を満たせば所得合算ルール(IIR)および軽課税所得ルール(UTPR)の適用が免除される見込みです。これらのセーフハーバーは、2026年1月1日以降に開始する会計年度から適用されます。

日本においては、2026年3月31日にPillar Two制度の改正が施行されます。これに先立ち、2026年1月23日には「グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置」が閣議決定されました。この措置により、国際課税システムの安定化と、独自のミニマム課税制度を持つ米国を含む一定の要件を満たす国の制度との共存が図られます。具体的には、共存適格国に最終親会社等が所在する多国籍企業グループには、日本のIIRおよびUTPRに相当する税制の適用が免除されることになります。

各国における法制化の動きも活発です。ベルギーでは、国内ミニマム課税(DTT)申告書の更新されたドラフトと関連技術スキーマが発表されており、最初の提出期限は2026年6月30日です。 また、KPMGは2026年3月2日に、2026年3月期決算における税務上の留意事項を発表し、新リース会計基準や国際課税の見直し、イノベーション拠点税制の適用開始など、多岐にわたる改正項目への対応を企業に促しています。

移転価格税制と迂回利益税、およびその他の国際的な反租税回避措置

国際的な反租税回避措置の強化は、多国籍企業の税務戦略に引き続き大きな影響を与えています。特に、移転価格税制と迂回利益税(DPT)は、各国税務当局の監視の目が厳しくなっています。

2026年3月11日、英国歳入関税庁(HMRC)は、2024-25課税年度の移転価格税制および迂回利益税に関する年次統計を発表しました。この統計によると、移転価格による税収は33億8,700万ポンドに達し、前年度からほぼ倍増しました。これは、HMRCが移転価格調査において継続的に圧力をかけ、精査を強化していることを示しています。 また、英国では2026年1月1日以降に開始する会計期間から、DPTが「未査定移転価格利益(UTPP)」規則へ移行する予定です。これは、独立企業原則から乖離した取り決めを通じた利益迂回を抑止するというDPTの基本的な政策目的を維持しつつ、制度の簡素化を図るものです。

ナイジェリアでは、2026年1月1日に施行された「2025年ナイジェリア税法」において、外国企業向けの主要な改正点が導入されました。この新税法は、所得課税を統合し、源泉所得の範囲と課税のつながりを大きく広げています。特に、著しい経済的存在(SEP)や恒久的施設(PE)の基準を強化し、引き寄せの原則や外国子会社合算税制(CFC)も導入・拡充することで、ナイジェリアに物理的な拠点がなくても、同国の市場で経済的価値を生み出す外国企業に広く課税できる仕組みを整備しています。

韓国では、2025年税法改正に伴う施行令改正案が2026年1月28日に発表されました。この改正案では、グローバルミニマム課税(Pillar Two)の国内追加税に関する詳細な施行規定が整備されるとともに、移転価格調査の範囲が拡大される見込みです。特に、国内追加税額の配分方式や、移行期適用免除の適用期限がOECDの合意内容(Side-by-Side Package)に基づき1年延長されるなど、多国籍企業にとって重要な変更が含まれています。

各国の税制改正と多国籍企業への影響

世界各国で進行する税制改正は、多国籍企業の事業運営と税務コンプライアンスに直接的な影響を与えています。特に、ベトナムにおける新しい法人所得税通達の施行は、注目すべき動きです。

2026年3月12日にベトナムで施行された新しい法人所得税通達(第20/2026/TT-BTC号)は、2025年の課税期間から遡及適用される主要な変更点を含んでいます。この通達は、長年実務のベースとなっていた旧通達を全面的に置き換えるもので、控除対象(損金算入)となる支出項目の具体化、税制優遇の要件明確化、および外国企業(外国契約者)に対する法人所得税ルールの整備などが盛り込まれています。特に、環境対策費、技術・DX投資、社会貢献・寄付といった現代的な課題への支出が損金算入項目として明記されたことは、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)投資を後押しする可能性があります。

PwCの2026年3月号「International Tax News」では、コロンビア、フランス、香港、ポーランド、米国など、他の国々における2026年3月前後の具体的な税制改正動向が概説されています。コロンビアでは2026年に新しい株式税が導入され、フランスでは2026年財政法が採択されました。香港では2026-27年度予算案で税金および印紙税措置が提案され、ポーランドではトップアップ税規制の改正とOECDとの整合性が図られています。米国では、Section 987の簡素化に関するNotice 2026-17が発表されるなど、多岐にわたる動きが見られます。

これらの税制改正は、多国籍企業に対し、税務戦略の見直し、コンプライアンス体制の強化、そして新たな税務リスクへの対応を求めています。企業は、各国の最新の税制動向を継続的に把握し、専門家との連携を通じて、変化する国際税務環境に適切に対応していく必要があります。

Reference / エビデンス