北米:エネルギー輸出政策と国内環境規制の政治的調整

2026年3月19日、北米地域はエネルギー輸出政策と国内環境規制を巡る複雑な政治的調整局面を迎えている。米国のトランプ政権による「エネルギー支配」政策への転換、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の2026年見直し、そして中東情勢に起因する地政学的エネルギー危機が、この調整を一層複雑にしている。特に、米国、メキシコ、カナダ間のエネルギー政策の相違と協力の動きが顕著であり、各国の思惑が交錯している。

米国の「エネルギー支配」政策と環境規制の緩和

トランプ政権は2026年3月19日現在、「エネルギー支配」政策を強力に推進しており、化石燃料の生産・輸出促進と環境規制の緩和がその柱となっている。2026年3月2日のMintzのレポートによると、米国環境保護庁(EPA)は2009年の温室効果ガス危険因子認定を撤回し、バイデン政権時代の車両排出ガス基準を無効化した。これにより、電力生産や運輸といった主要部門からの気候変動汚染を規制する連邦政府の権限が弱体化している。この決定は、州政府や環境団体、業界関係者から即座に法的異議申し立てを招いており、最終的な解決は最高裁判所に委ねられる見込みだ。

また、2026年2月5日のCRIEPIのレポートは、トランプ大統領が2009年の危険因子認定を米国自動車産業に深刻な打撃を与え、消費者に莫大な負担を強いたと批判していることを指摘している。EPAは、この撤回により1.3兆ドル以上のコスト削減につながると試算し、車両GHG排出基準の撤廃によって消費者は自動車購入時に1台あたり2,400ドルを節約できると主張している。

さらに、トランプ政権は国内の鉱物サプライチェーンを確保するための「プロジェクト・ヴォールト」を立ち上げ、120億ドルの重要鉱物備蓄を開始した。LNG輸出承認の加速も進められており、2026年3月16日のTakumiのレポートは、中東情勢の緊迫化が米国のエネルギー輸出政策に与える影響を分析し、トランプ政権の「エネルギー支配」政策が地政学的エネルギー危機とホルムズ海峡封鎖の複合的影響下で進展していると報じている。2026年3月20日のDiscovery Alertの報道では、米国が国内の圧力にもかかわらず、石油・ガス輸出制限を検討していないことが確認された。これは、米国が原油と天然ガスの主要な世界的供給国としての信頼性を維持することを重視しているためである。3月19日には、WTI原油先物が1バレルあたり99.36ドルに達し、前取引セッションから3.04ドル上昇した。

USMCA見直しにおけるメキシコのエネルギー政策と北米の貿易摩擦

2026年7月に予定されているUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の2026年見直しに向けて、メキシコの国家主義的なエネルギー政策が米国やカナダとの間で貿易摩擦を引き起こしている。2026年4月2日のUSTR(米国通商代表部)の報告書は、メキシコが米国エネルギー企業を締め出していると強く批判している。この報告書は、メキシコのエネルギー部門の枠組みが米国企業に不利に働いていると指摘し、特にメキシコ国営石油会社PEMEXと連邦電力委員会CFEへの優遇措置が問題視されている。

USTRの報告書によると、2025年12月31日時点で、PEMEXから米国サプライヤーへの未払い金が25億ドルを超えているという。また、メキシコは2025年10月に炭化水素部門法に関する施行規則を公布し、特定の燃料積み替え活動を禁止することで、PEMEXを不当に優遇している。さらに、燃料許可の期間短縮や商業化許可の期間短縮といった規制変更がPEMEXには適用されないなど、民間企業の参入を実質的に制限している。

2026年3月17日のジェトロのビジネス短信は、メキシコと米国がUSMCAの見直しに関する二国間協議を開始したことを公表したと報じている。しかし、2026年1月15日のNorth America Compassの分析や2026年4月2日の報道によると、3月18日には米国とメキシコがカナダを交えずにUSMCAの見直しを正式に開始しており、北米関係の現状を象徴する動きとなっている。2025年12月31日のOPISのレポートは、メキシコのエネルギー部門の抜本的な改革がUSMCAの規定に適合するかどうかが、7月の見直しで試されると予測していた。メキシコの2025年3月の主要エネルギー改革法は、PEMEXとCFEに民間企業に対する優先権を与えることで、2013年のエネルギー改革を部分的に逆転させている。

カナダとメキシコのクリーンエネルギー協力と北米のエネルギー多様性

米国のエネルギー政策とは対照的に、メキシコとカナダは持続可能性、クリーンエネルギー、環境ガバナンスにおける二国間協力を深化させている。2026年3月18日の報道によると、両国はUSMCAおよび「メキシコ・カナダ行動計画2026-2028」に沿った枠組みの下で協力を強化している。この取り組みは、再生可能エネルギー、循環経済インフラ、林業、持続可能な鉱業への共同投資の新たな道を開き、メキシコの2030年までにクリーンエネルギー発電比率を40%に引き上げるという目標を支援するものである。現在、メキシコのクリーンエネルギー比率は約22%である。

カナダは、北米全体のエネルギーミックスと輸出戦略において、LNG輸出に前向きな姿勢を示している。2026年3月28日のResource Worksのレポートによると、マーク・カーニー首相の政府は、10年間の連邦政府のエネルギー輸出推進への消極的な姿勢から転換し、LNG輸出に牽引される天然ガス利用が2050年までに47%、場合によっては75%増加するというカナダ規制当局の新たな見通しが示された。カーニー首相は、カナダを将来の「エネルギー超大国」として位置づけており、新たな石油パイプラインの太平洋岸への建設も政治的に容認している。2026年3月11日のResource Worksの別のレポートでは、カナダのLNG輸出能力が2030年までに4500万トンに達する可能性が指摘されている。

地政学的要因と北米のエネルギー市場への影響

2026年3月19日前後の地政学的イベントは、北米のエネルギー輸出政策と国内市場に大きな影響を与えている。特に、ホルムズ海峡の閉鎖とカタールのLNG施設への攻撃は、世界のエネルギー市場に深刻な混乱をもたらした。2026年3月20日のDiscovery Alertのレポートによると、カタールのラスラファンLNG複合施設は3月18日から19日にかけてミサイル攻撃により甚大な被害を受け、年間7700万トンの生産能力に影響が出ている。また、ホルムズ海峡の閉鎖は、世界の原油供給の約20〜25%に影響を及ぼす可能性があるとされている。

2026年4月3日のMarexのレポートは、米国とイランの紛争激化により、ホルムズ海峡が実質的に閉鎖され、通常1日あたり約2000万バレルの原油が通過するチョークポイントが影響を受けていると詳述している。これにより、原油価格は高騰し、3月には1バレルあたり73ドルから100ドル以上に急騰した。米国は、国内の燃料価格上昇圧力にもかかわらず、石油・ガス輸出制限を検討しておらず、戦略石油備蓄から1億7200万バレルの原油を4ヶ月間にわたって放出することを承認した。また、国内の流通効率を改善するため、ジョーンズ法の国内輸送要件に対する60日間の免除も承認された。

Marexのレポートは、カタールのラスラファン処理施設への被害は完全に修復されるまでに最大5年かかる可能性があり、これにより世界のLNG供給が構造的に逼迫すると指摘している。一方で、テキサス州のゴールデンパスLNG施設は3月30日に3つのLNGユニットのうち最初のユニットを稼働させ、2026年第2四半期には最初の貨物を出荷する予定であり、世界のLNG供給に大きな後押しとなることが期待されている。

Reference / エビデンス