欧州、環境規制と産業保護の新たな均衡点を探る:2026年3月の主要動向

2026年3月18日、欧州連合(EU)は、環境規制の強化と域内産業の競争力保護という二つの重要な政策目標の整合性を図るため、一連の新たな動きを見せている。炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格適用から、域内産業を強化する「産業加速法(IAA)」、そして循環経済への移行を促す戦略まで、多岐にわたる政策が同時進行しており、企業はこれらへの迅速な対応が求められている。

CBAMの本格適用と産業への影響

2026年1月1日より、EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は本格適用期間へと移行した。これにより、移行期間中に求められていた排出量の報告義務に加え、炭素証明書の購入や第三者検証が義務化され、企業の実務上の負担が大幅に増加している。

対象となるセクターは、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、水素、電力の6分野である。 特にセメントと肥料については、直接排出量に加え、間接排出量の開示も引き続き求められる。 2026年分の年次申告と証明書引渡しの期限は2027年9月30日であり、CBAM証書の販売は2027年2月1日から開始される予定だ。 排出量の実データがない場合、デフォルト値に上乗せが課されるため、正確なデータに基づく報告が経済的に有利となる。 企業は、サプライチェーン全体の排出量データ管理体制を早急に構築する必要がある。

「産業加速法(IAA)」と「クリーン産業ディール」による域内産業強化

欧州委員会は2026年3月4日、「産業加速法(Industrial Accelerator Act:IAA)」案を発表した。 これは「クリーン産業ディール」の一環として、EU域内産業の競争力とレジリエンスを強化し、同時に産業の脱炭素化を加速することを目的としている。 IAAは、EUのGDPに占める製造業の比率を2024年の14.3%から2035年までに20%へ引き上げるという野心的な目標を掲げている。

具体的な施策として、公共調達や財政支援において「EU製(Made in EU)」および/または「低炭素」の一定比率要件が導入される。 対象となるのは、鉄鋼、コンクリート、アルミニウム、ネットゼロ技術(バッテリー、太陽光発電、風力、ヒートポンプ、電解装置、原子力技術)、電気自動車(EV)など多岐にわたる。 特にEV補助金に関しては、「EU原産」要件が導入され、社用車向けゼロ排出・低排出車への財政支援は「EU原産のみ」に限定される見込みだ。 また、製造プロジェクトの許認可手続きの迅速化・簡素化のため、加盟国に単一のデジタル許認可プロセスの構築が義務付けられる。 産業界からは、これらの政策が域内産業の競争力強化に寄与すると評価されている。 なお、世界貿易機関(WTO)の政府調達協定や二国間貿易協定に基づき調達市場の開放を約束している国の企業は、低炭素基準を満たす限り、公共調達市場への参加が認められる。

循環経済とバイオエコノミー戦略の進展

2026年3月17日、EU理事会は欧州委員会が2025年11月に提示した新たなバイオエコノミー戦略に関する結論を承認し、加盟国にその実施を促した。 この戦略は、2040年に向けて競争力が高く持続可能なバイオエコノミーを構築し、化石資源に代わるバイオベースおよび循環型ソリューションの普及を促進することをビジョンとしている。

また、2026年には「循環型経済法」の採択が予定されており、製品の設計段階からリサイクルを前提とし、廃棄物を貴重な資源として経済システム内で循環させる包括的な枠組みとなることが期待されている。 この法律は、これまで国や地域ごとに異なっていた規制や品質基準を統一し、高品質なリサイクル素材がEU域内を円滑に流通する「二次原材料の単一市場」の確立を目指す。 3月19日には、包装・包装廃棄物規則におけるパレット用ラップなどの100%リユース要件からの除外措置も発表されており、循環経済への移行と産業展開を加速させるための柔軟な対応が図られている。

規制簡素化と企業負担軽減の動き

2026年3月18日には、「オムニバスI」指令が施行され、企業の競争力強化と規制負担軽減を目的とした簡素化措置が導入された。 同日施行された簡素化指令により、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)および企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)の対象企業基準が大幅に引き上げられた。

CSRDについては、適用対象が従業員1,000人超かつ売上4.5億ユーロ超の企業に限定され、総資産基準は廃止された。 これにより、適用対象企業が約85〜90%削減される見込みだ。 また、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の開示データポイントも61%削減され、合理的保証への移行義務の計画も削除された。 CSDDDの適用閾値も、従業員5,000人超かつ売上15億ユーロ超に引き上げられ、約70%の企業が対象外となる。 CSDDDの国内法化期限は2028年7月26日、適用開始は2029年7月26日からとなる。 これらの簡素化は、企業が過度な負担を回避しつつ、リスクベースのアプローチに基づく実効性の高いデュー・ディリジェンス体制を段階的かつ持続的に構築しやすい環境を整備するものと評価されている。

さらに、欧州委員会は2026年3月18日、「EU Inc.」と呼ばれる新たな企業制度の導入を提案した。 この制度は、企業がEU全体で統一的なルールの下で活動できる選択肢を提供し、域内市場の一体性を高め、企業の設立や運営に関する手続きを簡素化・効率化することを狙いとしている。

Reference / エビデンス