日本:防衛産業の再編と政府調達政策の動向
2026年3月17日、日本は防衛政策の歴史的な転換点に立っています。防衛費の増額、防衛産業の基盤強化、そして防衛装備移転政策の緩和は、日本の安全保障環境がかつてないほど厳しさを増す中で、喫緊の課題として政府が取り組むべき重要事項となっています。特に、ウクライナ侵攻で顕在化した「新しい戦い方」への対応は、新技術の導入と国内生産基盤の強化を加速させています。
防衛政策の転換と防衛費の動向
日本政府は、2026年度の防衛関係費として過去最大の9兆353億円を計上しました。これは前年度比3.8%増であり、14年連続の増加となります。歳出ベースでは9兆353億円が計上され、契約ベースでは8兆8,459億円が計上されています。
高市早苗内閣は、当初2027年度に達成目標としていた防衛費のGDP比2%水準を、2025年度中に前倒しで達成することを表明しました。 これは、2025年度補正予算に大型の防衛関連経費を組み込むことで実現する見込みです。 防衛省は、長距離巡航ミサイルや無人兵器システムによる反撃能力と沿岸防衛を強化するために、この予算を充てる方針です。
また、政府は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」からなる「安全保障3文書」の見直しを進めており、2026年中の改定を目指しています。 この見直しでは、「新しい戦い方」への対応、継戦能力の確保、太平洋側での抑止力・対処力の強化、日米同盟・同志国連携の強化、情報戦への対応強化が主要な論点として挙げられています。
防衛産業の再編と基盤強化
日本の防衛産業は、自衛隊の任務遂行に不可欠な存在であり、「防衛力そのもの」と位置付けられています。 しかし、これまでの防衛事業は民生事業に比べて利益率が低く、事業撤退が相次ぎ、生産基盤の脆弱化が進行していました。
こうした状況を受け、政府は防衛産業の再編と基盤強化に向けた具体的な議論を進めています。特に注目されているのが、軍需工場の国有化やGOCO(Government Owned, Contractor Operated:国有施設民間操業)方式の検討です。 これは、有事の際に弾薬などの安定供給を確保し、平時においても生産能力を維持しつつ、有事には一気に生産を拡大できる体制を構築することを目的としています。
経済産業省と防衛省は合同で防衛産業の成長戦略を議論する会合を初めて開催し、民生品と防衛装備品の垣根をなくし、開発から量産までを政府が一体で支援する方針を確認しました。 この春までに、官民投資の具体的な戦略を盛り込んだロードマップを取りまとめる予定です。 また、防衛生産基盤強化法等により、スタートアップ企業をはじめとした新規参入を促進し、優れた民生先端技術を取り込むことで、強靭なサプライチェーンの構築を目指しています。
防衛装備移転政策の緩和と国際協力
政府・与党は、防衛装備移転三原則の運用指針の見直しを加速させています。 3月6日には、自民党と日本維新の会が、防衛装備品の輸出を非戦闘目的の「5類型」に限定している現行ルールを撤廃し、殺傷能力を持つ武器の輸出を原則容認する提言を高市早苗首相に提出しました。 政府は、この提言を受けてこの春にも制度を見直す方針です。
この政策転換は、戦闘機や護衛艦、潜水艦など、直接人を殺傷し、または武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする「自衛隊法上の武器」の完成品輸出を広く認めるものです。 輸出先は国連憲章の目的と原則に適合する方法で使用することを義務付ける国際約束の締結国に限定されるものの、武力闘争が行われている国への移転も特段の事情があれば可能とされています。
また、国際共同開発品の第三国移転についても、次期戦闘機(グローバル戦闘航空プログラム)に限定されていた運用指針を改定し、その限定を取り外す方向性が打ち出されています。 これは、同盟国・同志国との防衛協力の拡大・深化を通じて、日本の安全保障環境を創出し、国内の防衛生産・技術基盤を強化する狙いがあります。 しかし、この政策の大転換は、日本の「平和国家」としてのブランドに与える影響や、国民への丁寧な説明が課題として指摘されています。
新技術と将来の政府調達戦略
ウクライナ侵攻で顕著になった「新しい戦い方」への対応は、日本の防衛分野における新技術導入を加速させています。 特に、無人アセット(ドローン、無人ボートなど)の大量運用・用途拡大、AIを活用した意思決定の迅速化、ネットワーク連接、宇宙・サイバー・電磁波領域での戦いへの対応が重視されています。
産業用ドローンを展開するテラドローンは、2026年3月23日に防衛装備品市場への本格参入を発表しました。 迎撃用や偵察用のドローン、無人ボートなどを開発・提供し、2026年度内には米国法人「Terra Defense」を設立し、国際的な供給網を構築する計画です。
防衛装備庁は、将来の調達システムに関する情報提供企業の募集を開始しました。 2026年4月1日付けで公表された募集要項では、次期防衛装備品等調達システム(DEPS)の整備に関する事業の内容を検討するにあたり、必要な知見や能力を有する企業からの情報提供を求めています。 これは、今後増大する防衛調達の規模に対応し、中央調達業務を円滑に処理するためのシステム構築を目指すものです。
政府は、民生技術を積極的に防衛分野に取り込み、国内での大量生産基盤の構築を進めることで、迅速かつ効率的な装備品の調達と、防衛産業全体の競争力向上を図る方針です。
Reference / エビデンス
- 2026年度防衛関係費の概要 - 参議院
- 日本政府、過去最高の防衛費を計上 - Indo-Pacific Defense FORUM
- 日本の防衛予算が曲がり角を迎えている。GDP比3%か5%か/世界で軍拡が進む時代に揺れる日本の国家戦略 - 東洋経済オンライン
- 日本の防衛態勢における戦略的転換:2022年から2026年に至る「防衛力の抜本的強化」と戦略3文書見直し|Takumi - note
- 防衛装備の輸出を拡大し、独自の防衛力強化を推進している日本が、防衛産業の再編も検討している。 過去の太平洋戦争の時のように軍需工場を国有化する方法も選択肢として取り上げられている。 7日付の日本経済新..
- METI and Defense Ministry jointly discuss defense industry growth strategies [WBS]
- 小泉防衛大臣が記者会見 国内防衛産業の振興や日・太平洋島嶼国防大臣会合など(2月24日)
- 日本の防衛産業、岐路に立つ 地経学専門家が説く「システム統合」と「非対称戦略」の急務
- 武器輸出規制を全面緩和へ 自民党が政府提言素案を了承 武力参戦の地ならし加速 | 長周新聞
- 日本の「武器輸出解禁」はどこまで進むのか、5類型撤廃が突きつける現実(4/5) - JBpress
- 日本政府が武器輸出規制を緩和し第3国輸出拡大 - ChosunBiz
- 武器輸出拡大 与党が提言へ 政策の大転換 狙いと課題(2026年3月3日) - YouTube
- 日本の武器輸出規制が大きな転換点に 「平和国家」ブランドどうなる? トランプとの関係は?【時事まとめ】 - 就活ニュースペーパー
- 防衛大臣記者会見
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- 防衛装備庁、次期DEPS(防衛装備品等調達システム)の整備に関する事業の情報提供企業を募集(4月1日)
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