グローバルサウス、重要鉱物資源を巡る権益争奪と国家間連携の最前線
2026年3月17日、世界は脱炭素化とデジタル化の波に乗り、重要鉱物資源の戦略的価値がかつてないほど高まっている。リチウム、コバルト、レアアースといった鉱物は、電気自動車(EV)バッテリーや再生可能エネルギー技術に不可欠であり、その需要は急増の一途を辿る。しかし、これらの資源が特定の国や地域に偏在している現状は、国際的なサプライチェーンに深刻な供給リスクをもたらしており、グローバルサウス諸国を舞台とした権益争奪戦が激化している。2026年2月19日に発表されたマテリアル分野の課題に関する報告書は、この地政学的・経済的価値の増大と供給リスクを改めて浮き彫りにした。また、2025年10月に指摘されたサプライチェーンの脆弱性に関する分析は、安定供給確保に向けた国際社会の喫緊の課題を示している。
グローバルサウスにおける重要鉱物資源の戦略的価値の高まり
脱炭素社会への移行とデジタル技術の進化は、重要鉱物資源の需要を劇的に押し上げている。特にリチウム、コバルト、ニッケル、レアアースなどは、EVバッテリー、風力発電タービン、太陽光パネル、スマートフォン、半導体といった先端技術製品に不可欠な素材である。これらの資源は、その埋蔵量が特定の国に集中しているため、供給途絶のリスクが常に存在する。例えば、コバルトの約7割はコンゴ民主共和国で産出され、レアアースは中国が世界の生産量の大部分を占めている。
2026年2月19日に経済産業省が発表した「マテリアル(重要鉱物・部素材)分野の課題と検討の方向性」に関する報告書では、重要鉱物資源の安定供給確保が日本の産業競争力維持に不可欠であると強調された。報告書は、特定の国への過度な依存がサプライチェーンの脆弱性を高め、国際情勢の変化が資源価格の変動や供給停止に直結するリスクを指摘している。
さらに、2025年10月に発表されたサプライチェーンの脆弱性に関する分析では、重要鉱物資源の供給網が抱える課題が詳細に検討された。これには、採掘から精製、加工に至るまでの各段階における特定の国への依存、環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク、そして地政学的緊張による供給途絶の可能性が含まれる。これらの要因が複合的に作用し、重要鉱物資源の安定供給は国際社会全体の喫緊の課題となっている。
中国によるグローバルサウスでの権益拡大戦略
中国は、グローバルサウス、特にアフリカや南米諸国において、重要鉱物資源の権益を戦略的に確保するための積極的なアプローチを続けている。鉱山開発への大規模な投資や、それに伴うインフラ整備を通じて、中国企業はリチウムやコバルトといったEVバッテリー関連鉱物において圧倒的な優位性を確立している。2025年6月の分析によると、中国は世界の精製コバルトの約80%、精製リチウムの約60%を支配しており、その影響力は増大する一方である。
南米の「リチウム・トライアングル」(アルゼンチン、ボリビア、チリ)では、中国企業が2023年10月時点で複数の大規模プロジェクトに参画し、リチウム資源の確保を加速させている。例えば、中国のGANFENG LithiumはアルゼンチンのCauchari-Olarozプロジェクトに投資し、リチウム生産能力を拡大している。
また、中国は2026年1月にレアアースの輸出管理をさらに強化した。これは、国際市場におけるレアアースの供給に大きな影響を与え、価格の高騰や供給不安を引き起こす可能性が指摘されている。中国のこの動きは、重要鉱物資源を外交・経済戦略のツールとして活用する姿勢の表れであり、他国にとってサプライチェーン多様化の必要性を一層高めるものとなっている。
日米欧諸国によるサプライチェーン多様化とグローバルサウスとの連携強化
中国の重要鉱物資源における影響力拡大に対抗し、日米欧諸国はサプライチェーンの特定国依存を低減し、多様化するための取り組みを加速させている。2026年3月17日を中心とした期間においても、これらの動きは活発に議論されている。
特に注目されるのは、2026年4月1日に発効する日仏間の重要鉱物連携合意である。この合意は、両国が重要鉱物資源の安定供給確保に向けた協力関係を強化し、共同で探査・開発プロジェクトを推進することを目指すものだ。
また、2026年2月14日には、赤沢経済産業大臣が訪米し、重要鉱物資源の安定供給確保に向けた日米間の連携強化について議論した。赤沢大臣は、国内外一体となった政策推進の必要性を強調し、グローバルサウス諸国とのパートナーシップ構築が不可欠であるとの認識を示した。
G7諸国も、2025年12月に「重要鉱物アクションプラン」を策定し、重要鉱物資源のサプライチェーン強靭化に向けた具体的な行動計画を打ち出している。このプランは、資源国との協力強化、リサイクル技術の開発、代替素材の探索などを柱としている。
日本は特にアフリカにおける重要鉱物資源の確保に注力しており、2024年6月に内閣官房が発表した「グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針」では、アフリカ諸国との資源開発協力が重点項目の一つに挙げられている。JOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)も、アフリカでの探査・開発プロジェクトへの支援を強化し、日本の企業が資源権益を獲得できるよう後押ししている。
米国も同様に、グローバルサウス諸国との連携を深めている。2023年1月には、米国がコンゴ民主共和国とザンビアとの間で、EVバッテリーのバリューチェーン開発に関する覚書を締結した。この覚書は、両国が持つ豊富なコバルトや銅といった資源を、国内で精製・加工し、最終製品に近い形で供給することを目指すものであり、サプライチェーンの地域内完結を促進する狙いがある。
グローバルサウス諸国の自立と高付加価値化への動き
グローバルサウス諸国は、単なる原材料の輸出国に留まらず、国内での精製・加工、さらにはバッテリー製造拠点へと移行することで、サプライチェーンにおける自国の価値を高めようとしている。この動きは、資源ナショナリズムの高まりと、持続可能な経済発展への強い意欲を反映している。
アフリカ大陸は、EVとバッテリー市場の急速な成長を捉え、原鉱物の輸出から製造拠点への転換を目指している。アフリカ開発銀行グループは2024年12月、アフリカが持つ豊富な重要鉱物資源を活かし、国内での付加価値を高めることで、新たな産業を創出する可能性を指摘した。これにより、雇用創出や技術移転が促進され、経済の多角化に繋がると期待されている。
具体的な事例として、コンゴ民主共和国では、リチウムイオン電池工場が建設され、米国と比較して低コストでバッテリーを生産できる可能性が指摘されている。これは、原材料の産地に近い場所で加工を行うことで、輸送コストや環境負荷を低減できるためである。このような動きは、グローバルサウス諸国が国際的なサプライチェーンにおいて、より戦略的な役割を担うことを示唆している。
Reference / エビデンス
- 加速する「重要鉱物の囲い込み」と3つのシナリオ――日本はどう動くべきか | Strategy Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ
- マテリアル(重要鉱物・部素材)分野の 課題と検討の方向性
- レアアース危機:重要鉱物サプライチェーンの課題と機会 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
- 鉱物資源(特に重要鉱物:クリティカルミネラル)確保における課題、今後の企業対応とは
- 加速する「重要鉱物の囲い込み」と3つのシナリオ――日本はどう動くべきか | Strategy Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ
- 【レアアース・ショックと日本株の勝機】関連銘柄、スケジュールが判る!!
- EV電池の主原料・リチウムを巡る「南米争奪戦」、どう見ても中国が絶対有利なワケ【連載】方法としてのアジアンモビリティ(8) | Merkmal(メルクマール)
- リチウム/バッテリー技術の発展を牽引する4社 - Global X Japan
- 加速する「重要鉱物の囲い込み」と3つのシナリオ――日本はどう動くべきか | Strategy Institute | FA Portal | デロイト トーマツ グループ
- グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針 - 内閣官房
- 鉱物資源(特に重要鉱物:クリティカルミネラル)確保における課題、今後の企業対応とは
- 米国がコンゴ民とザンビアとのEVバッテリー・バリューチェーン開発の覚書公表(コンゴ民主共和国、ザンビア、米国、アフリカ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
- グローバルサウス諸国との新たな連携強化に向けた方針(案)概要 - 内閣官房
- レアアースの中国依存脱却に世界は結託へ ~世界は環境対策のためにも新たなサプライチェーン構築に協力を~ | 嶌峰 義清 - 第一生命経済研究所
- TICADで注目のアフリカ! 鉱物資源開発に関する日本の取り組みとは? - JOGMEC
- 中国の輸出規制で注目の「レアアース関連」日本株8選 | 資産運用の 1st STEP
- 重要鉱物の安定供給確保、国内外一体で政策進める必要-赤沢経産相
- 時事ニュース - OASIS
- クリティカルミネラル: アフリカは原鉱物の輸出から電池製造拠点へ|アフリカ開発銀行グループ
- 米国がコンゴ民とザンビアとのEVバッテリー・バリューチェーン開発の覚書公表(コンゴ民主共和国、ザンビア、米国、アフリカ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
- EV普及のカギをにぎるレアメタル - 資源エネルギー庁 - 経済産業省