グローバル:国際法人税ルールの策定と多国籍企業の動向

2026年3月17日、国際法人税の分野では、OECDが主導するグローバルミニマム税(Pillar Two)の策定と、それに伴う多国籍企業の税務戦略の再構築が喫緊の課題として浮上しています。特に、2026年1月に発表された「Side-by-Side Package」の進展と、各国の法制化の動きは、企業経営に大きな影響を与えています。

国際法人税改革の最新動向:グローバルミニマム税(Pillar Two)の進展

2026年3月17日現在、グローバルミニマム税(Pillar Two)に関する国際的な議論は新たな局面を迎えています。経済協力開発機構(OECD)は2026年1月5日、「Side-by-Side Package」を公表しました。このパッケージは、Pillar Twoのグローバルミニマム課税と米国のミニマム課税制度の「共存システム」を明確化することを目的としています。

「Side-by-Side Package」には、多国籍企業および税務当局のコンプライアンス負担を軽減するための簡素化措置として、4つの新たなセーフハーバーと、移行期間国別報告(CbCR)セーフハーバーの1年間延長が含まれています。 具体的には、恒久的な簡易実効税率(ETR)セーフハーバーが導入され、これは2027年から、または特定の条件下で2026年から適用が開始されます。 移行期間CbCRセーフハーバーは、2027年12月31日以前に終了する会計年度まで1年間延長され、CbCRデータに基づく簡便な計算を可能にします。 また、実質ベースインセンティブ(税恩典)セーフハーバーが導入され、国内の経済的実体活動と強く結びついた特定の税制優遇措置について、トップアップ税額をゼロとみなすことが可能となります。 これは2026年1月1日以降に開始する会計年度から適用可能です。 さらに、適格国に係るSide-by-Side(SbS)セーフハーバーおよび最終親事業体(UPE)セーフハーバーが設けられ、適格Side-by-Side税制を有する国にUPEを置く多国籍企業グループは、所得合算ルール(IIR)および軽課税所得ルール(UTPR)の適用を免除されます。 2026年1月現在、米国がこの適格要件を満たす唯一の国として挙げられています。

国際的な法制化の動きも活発です。オーストラリアは2026年3月26日、OECD Pillar Twoに基づくグローバルミニマム税規則を改正する立法文書を公布しました。 これには、無国籍構成事業体に対する国内ミニマム課税の制限や、DTT(国内トップアップ税)の配分に関する措置が含まれています。 また、スウェーデンは2026年3月25日、OECDのSide-by-Side税制パッケージを導入するための法案(Draft Law Fi2026/00780)を協議のために発行しました。 この法案は2027年1月1日の施行を予定していますが、一部のセーフハーバーは2025年12月31日以降に開始する会計年度から選択適用が可能となる見込みです。

日本におけるグローバルミニマム税の法制化と多国籍企業への影響

日本においても、グローバルミニマム税(Pillar Two)の法制化が着実に進められています。所得合算ルール(IIR)は、2023年度税制改正で「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」として導入され、2024年4月1日以降に開始する対象会計年度から適用されています。 これは、海外子会社の実効税率が15%未満の場合に、その差額を日本の親会社に追加課税する制度です。

さらに、軽課税所得ルール(UTPR)と国内ミニマム課税(QDMTT)は、令和7年度税制改正で法制化され、それぞれ「各対象会計年度の国際最低課税残余額に対する法人税」および「各対象会計年度の国内最低課税額に対する法人税」として、2026年4月1日以降に開始する対象会計年度から適用される予定です。 UTPRは、日本に所在する子会社等の外国親会社等の税負担が15%に満たない場合に、日本の子会社等に対してトップアップ税額を課税する制度であり、QDMTTは、国内の実効税率が15%に満たない場合に、他国のIIRやUTPRに優先して国内で課税を行う仕組みです。

2026年1月23日には、「グローバル・ミニマム課税に係る国際合意を踏まえた措置」が閣議決定されました。 これは、2026年1月5日に成立した国際合意に基づき、2026年度税制改正において日本の制度を見直すものです。 実際、2026年度税制改正パッケージは、2026年3月31日に第221回特別国会で可決・成立し、Pillar Two制度の改正が含まれています。

これらの変更に対応するため、多国籍企業は早急な準備が求められます。PwC Japanグループは2026年3月6日、「グローバル・ミニマム課税に係る実務対応ガイド」を発行し、申告スケジュール、ルール適用における検討事項、情報収集のポイントなどを整理しています。 また、デロイト トーマツ グループは2026年3月2日、KPMGは2026年3月2日、EYは2026年3月9日に、それぞれ「2026年3月期決算における税務上の留意事項」を発表し、企業が直面する実務的課題への対応策を提示しています。

多国籍企業の税務戦略とコンプライアンスの強化

グローバルミニマム税の導入は、多国籍企業の税務戦略とコンプライアンス体制に抜本的な見直しを迫っています。 国際税務環境が急速に変化し、コンプライアンスの複雑性が増す中で、企業は新たな課題に直面しています。

多国籍企業が強化すべき主要な領域としては、有効税率(ETR)のシミュレーション、国別報告書(CbCR)の品質向上、グローバルな組織構造の最適化、そしてデータおよびシステム基盤の強化が挙げられます。グローバルミニマム税の計算には膨大なデータが必要となるため、正確なETRの算出、CbCRデータの質の確保、そして効率的な情報収集・処理を可能にするデータおよびシステム基盤の構築が不可欠です。 また、グループ全体の税務ガバナンス体制を、中央集権型、地域分散型、またはハイブリッド型のいずれかで最適化し、全体最適を目指す必要があります。

こうした中、英国歳入関税庁(HMRC)は2026年3月11日、移転価格および迂回利益税(DPT)に関する2024-25年度の年次統計を発表しました。 この統計によると、移転価格による税収は33億8,700万ポンドに達し、前年度の17億8,600万ポンドからほぼ倍増しました。 これは、解決件数がわずかに増加しただけで達成されており、1件あたりの平均税収が大幅に増加したことを示唆しています。 この結果は、HMRCが移転価格調査において継続的に圧力をかけ、精査を強化していることを明確に示しています。

多国籍企業は、これらの動向を注視し、移転価格およびDPTのリスクの程度を評価するとともに、変化する税制環境に適切に対応するため、十分な文書化と堅牢なコンプライアンス体制を整備する必要があります。 特に、DPT制度は、移転価格税制の枠組み内で新たに導入される「未査定の移転価格利益(UTPP)」制度に置き換えられる予定であり、HMRCは租税回避の可能性があると判断した取り決めに対し、引き続きこの新制度を活用していく方針です。 移転価格と関税の交差も重要な課題であり、紛争や罰則を回避するためには、企業間価格設定方針を関税規制と整合させる必要があります。

Reference / エビデンス