欧州、環境規制強化と産業保護の整合性追求:CBAM本格適用から新産業政策まで

2026年3月17日、欧州連合(EU)は、環境規制の強化と域内産業保護政策の整合性という複雑な課題に対し、多角的なアプローチを推進している。炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格適用、産業加速法(IAA)による「Made in EU」戦略、クリーン産業ディール(CID)を通じた競争力強化、そして循環経済戦略の進展は、EUが気候変動対策と経済的自律性の両立を目指す強い意志を示している。

炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格適用と産業への影響

2026年1月1日より本格適用が開始されたEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)は、域外からの輸入品に炭素価格を課すことで、EU域内の企業が直面する炭素コストとの公平性を確保し、カーボンリーケージ(炭素排出量の多い産業がEU域外に移転すること)を防止することを目的としている。本格適用に伴い、対象セクター(鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、電力、水素)の企業は、輸入製品の直接排出量に加え、間接排出量も算定し、その排出量データの第三者検証が義務付けられる。

2026年3月17日には、ジェトロが『EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)に対応する排出量の算定実務マニュアル』を公開し、企業が本格適用に備えるための具体的な指針を示した。CBAM証明書の購入義務化は、域外企業に新たな金銭的負担を課し、コスト競争力に影響を与える可能性がある。このメカニズムは、EU排出量取引制度(EU ETS)と連携し、EUの気候変動目標達成に向けた重要なツールとして機能する。

産業加速法(IAA)と「Made in EU」戦略による域内産業保護

2026年3月4日に欧州委員会が発表した『産業加速法(Industrial Accelerator Act:IAA)』案は、域内産業の競争力強化と脱炭素化の加速を主眼としている。IAAは、低炭素な鉄、コンクリート、アルミニウムといったエネルギー集約型産業の製品に対し、排出強度に基づくラベリング制度を導入する。さらに、公共調達においてこれらの低炭素材の最低使用割合を設定し、これらに「EU製(Made in EU)」の条件を付すことで、域内産業への需要シグナルを創出し、投資を促進する狙いがある。

この政策は、クリーン産業ディールの一環として位置づけられ、経済安全保障と再工業化の観点から、EUの戦略的自律性を高めることを目指している。IAAは、特にEVバリューチェーンの強化など、脱炭素技術を軸としたEU製造業の競争力強化に貢献すると期待されている。

クリーン産業ディール(CID)と競争力強化へのシフト

2025年2月に発表された『クリーン産業ディール(Clean Industrial Deal)』は、2026年3月17日時点においても欧州の産業政策の基盤として機能している。2026年2月12日に開催されたEU首脳会議では、域内産業の競争力強化が主要な議題として議論され、規制簡素化や単一市場の深化が焦点となった。また、2026年3月9日に発表された『サステナビリティ情報開示のグローバル動向2026年3月号』は、競争力に関する懸念への対応の重要性を示唆している。

CIDは、エネルギー安全保障、市場形成、資金調達、循環経済、国際連携、人材という6つの柱を通じて、気候変動対策と産業競争力の両立を目指すEUの包括的なアプローチを体現している。技術中立的なアプローチを原則としつつ、欧州の産業が脱炭素化を成長の原動力とできるよう、政策的な支援が強化されている。

循環経済(サーキュラーエコノミー)戦略の進展と産業への影響

EUの循環経済戦略は、資源効率化と経済安全保障の観点から、その重要性を増している。2026年3月17日には、日欧産業協力センターが『サーキュラーエコノミーの最新状況と課題-成長志向型の資源自律経済を目指して』と題する政策セミナーを開催し、この分野への関心の高まりを示した。同日、EU理事会は新たなバイオエコノミー戦略に関する結論を承認し、循環経済と産業展開の加速に向けたコミットメントを再確認した。

EUの循環経済戦略は、製品の設計段階からの再利用可能性の確保、サプライチェーン全体での資源効率化を重視している。エコデザイン規則(ESPR)やデジタル製品パスポート(DPP)といった具体的な規制強化の動きは、製品の持続可能性とトレーサビリティを向上させることを目指している。また、2026年頃に策定が予定されている循環型経済法は、この分野における法的枠組みをさらに強化し、経済安全保障の観点からの戦略的自律性への取り組みを加速させるものと期待されている。

Reference / エビデンス