東アジア経済統合と地政学的課題:ASEAN・日韓対話と広域構想の進展

東アジア経済統合の加速:ASEANと日韓の最新動向

2026年3月13日、フィリピンのタギッグにおいて第32回ASEAN経済大臣会合(AEMR 32)が開催されました。この会合では、ASEANを世界第4位の経済圏とする目標に向けた5つの戦略が協議されました。これには、貿易・投資のシームレスな域内統合の深化(特に食品、エネルギー、重要鉱物、半導体サプライチェーンの統合に重点)、デジタル市場の発展(ASEANデジタル経済枠組み協定-DEFAの締結・署名)、中小零細企業(MSME)の能力強化、グリーン経済への移行加速、そしてクリエイティブ経済の推進が含まれます。また、ASEAN・カナダ自由貿易協定(ACAFTA)交渉の実質的終結や、ASEAN・インド物品貿易協定(AITIGA)の見直し、ASEAN・韓国自由貿易協定(AKFTA)のアップグレード交渉に関する協議も進められました。

翌日の3月14日には、東京で第10回日韓財務対話が開催され、日本の片山さつき財務大臣と韓国の具潤哲(ク・ユンチョル)副総理兼財政経済部長官が出席しました。両大臣は、世界経済が堅調な成長を維持しつつも、地政学的緊張などの様々なリスクに直面しているとの認識を共有しました。特に、中東情勢と金融市場の変動について真剣な議論を行い、エネルギー安定供給に向けた緊密な連携の重要性を再確認しました。さらに、最近の急速な韓国ウォン安および日本円安に関する深刻な懸念が表明され、為替レートの過度な変動と無秩序な動きに対して、外国為替市場を注視し、引き続き適切な対応をとることが再確認されました。

インフラ投資と広域経済圏構想の政治的影響:中国の「一帯一路」とRCEPの進展

中国の広域経済圏構想「一帯一路」は、提唱から10年以上が経過し、2026年時点で巨大なインフラ投資一辺倒から「小さくて美しい(small and beautiful)」プロジェクトへと質的な転換期を迎えています。同構想は、「デジタルシルクロード」として5G通信網やデータセンターの海外展開を、「グリーンシルクロード」として再生可能エネルギープロジェクトへの投資強化を進めるなど、新たな領域への拡大を見せています。2025年には、一帯一路関連プロジェクト全体における金属・鉱山部門への投資額が過去最高に達し、鉱山開発向けに154億ドル、製錬など処理施設向けに200億ドルが投資されました。

中国の国内経済政策では、2026年3月5日に開幕した全国人民代表大会(全人代)で、李強首相が2026年の経済成長率目標を4.5〜5%の範囲に設定したと発表しました。これは1991年以来最も控えめな成長目標となります。今後5年間の経済政策を描く「第15次5カ年計画(2026〜2030年)」の綱要が全人代の終盤に可決される見通しであり、構造調整、リスク防止、改革推進に重点が置かれています。地方のインフラ整備強化のため、地方政府の新規債務規模は昨年と同じ4.4兆元規模を維持しました。

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定も進展を見せています。2025年9月に開催された第4回RCEP閣僚会合では、加盟拡大プロセスを正式に開始することが決定され、香港、スリランカ、チリ、バングラデシュの4つの国と地域が新規加盟を申請しています。また、2025年10月の首脳会合では2027年の包括的見直しに向けた準備を開始することが指示され、現代的かつ新興の課題に対応する規定を盛り込む選択肢が検討されることになりました。スリランカ政府は2023年8月、RCEP加盟を通じてASEANとの経済連携を強化する方針を発表し、2024年6月にはチリが中南米諸国で初の加入申請を行っています。

経済安全保障とサプライチェーンの強靭化

日韓財務対話において、両大臣はグローバル・サプライチェーンの強化が経済安全保障上の優先事項であるとの認識を共有しました。特に重要鉱物に関する議論では、RISEパートナーシップなどの多国間イニシアティブを通じて途上国における重要鉱物のサプライチェーンの多様化を一層推進することで合意しました。

また、第32回ASEAN経済大臣会合でも、食品、エネルギー、重要鉱物、半導体といった潜在産業のサプライチェーン統合に重点を置くことが議論されました。これらの動きは、東アジア全体でサプライチェーンの強靭化に向けた多角的な取り組みが加速していることを示しています。

Reference / エビデンス

  • 一帯一路とは?中国の狙い・参加国一覧・日本企業への影響をわかりやすく解説【2026年最新】 2026年時点で、中国の「一帯一路」構想は提唱から10年以上が経過し、巨大インフラ投資から「小さくて美しい」プロジェクトへと質的な転換期を迎えています。また、「デジタルシルクロード」として5G通信網やデータセンターの海外展開、「グリーンシルクロード」として再生可能エネルギープロジェクトへの投資強化など、新たな領域への拡大も進んでいます。
  • ASEAN、2026年の経済戦略を策定、3月の経済大臣会合に提出(ASEAN、タイ) | ビジネス短信 2026年1月に開催された高級経済実務者会合(SEOM)では、ASEANを世界第4位の経済圏とする目標に向けたアクションプランが議論され、5つの戦略が策定されました。これらの戦略は、2026年3月に開催予定のASEAN経済大臣会合で提案される予定でした。5つの戦略には、貿易・投資のシームレスな域内統合の深化(特に食品、エネルギー、重要鉱物、半導体サプライチェーン統合)、デジタル市場の発展(ASEANデジタル経済枠組み協定-DEFAの締結・署名)、中小零細企業(MSME)の能力強化、グリーン経済への移行加速、クリエイティブ経済の推進が含まれます。
  • 第32回ASEAN経済大臣会合(非公式会合) - Vietnam.vn 2026年3月13日、フィリピンのタギッグで第32回ASEAN経済大臣会合(AEMR 32)が開催されました。この会合では、ASEAN・カナダ自由貿易協定(ACAFTA)交渉の実質的終結や、ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)への署名を含むいくつかの重要な経済開発優先事項(PED)が協議されました。また、ASEANと東アジア経済研究所(ERIA)によるASEAN産業政策枠組み構築に関する提言、およびアジア開発銀行(ADB)による「ASEANビジョン2045に向けた動員と資金調達におけるASEANの能力強化」に関する提案も発表されました。
  • ザンビア、DRC、ジンバブエ重要鉱物(1)表面化する米中対立 | 高まる経済安全保障リスク、各国・地域の自律性向上と不可欠性確保に向けた戦略とは - ジェトロ 2025年には、中国の「一帯一路」関連プロジェクト全体における金属・鉱山部門への投資額が過去最高に達し、鉱山開発向けに154億ドル、製錬など処理施設向けに200億ドルが投資されました。
  • 2026年3月13日「2026年の中国全人代の注目点」 - YouTube 2026年の中国全人代では、第15次5カ年計画(2026~2030年)の綱要が可決され、地方のインフラ整備強化のため、地方政府の新規債務規模は昨年と同じ4.4兆元規模を維持しました。
  • 中国首相、世界的な有名企業が集うフォーラムでさらなる経済開放約束...日本企業の出席者は? 2026年3月22日、中国の李強首相は経済をさらに開放し、外資企業が国内企業と同等の待遇を全面的に受けられるようにすると約束しました。
  • 中国、2026年の成長率目標を4.5~5%に設定-1991年以来の低水準 - Yahoo!ファイナンス 2026年3月5日に開幕した中国の全国人民代表大会(全人代)で、李強首相は2026年の経済成長率目標を4.5〜5%の範囲に設定したと発表しました。これは1991年以来最も控えめな成長目標となります。また、今後5年間の経済政策を描く「第15次5カ年計画」は、3月12日に閉幕する全人代の終盤に正式に採択される見通しです。
  • RCEP加盟拡大が本格化:日本企業が押さえるべき戦略的チェックポイント 2025年9月に開催された第4回RCEP閣僚会合では、加盟拡大プロセスを正式に開始することが決定され、香港、スリランカ、チリ、バングラデシュの4つの国と地域が新規加盟を申請しています。また、2025年10月の首脳会合では2027年の包括的見直しに向けた準備を開始することが指示され、現代的かつ新興の課題に対応する規定を盛り込む選択肢が検討されることになりました。
  • RCEP発効の経済効果とは?動向や今後の展望、米中対立の影響を考える - トムソン・ロイター スリランカ政府は2023年8月10日、RCEPに加盟することでASEANとの経済連携を強める方針を発表しました。また、中国本土、ASEAN、豪州、ニュージーランドとすでにFTAを締約している香港も、RCEP加盟を目指しています。さらに2024年6月14日には、チリが中南米諸国で初のRCEPへの加入申請を行いました。
  • 第10回日韓財務対話の開催について(令和8年3月14日) 2026年3月14日、東京で第10回日韓財務対話が開催され、日本の片山さつき財務大臣と韓国の具潤哲(ク・ユンチョル)副総理兼財政経済部長官が出席しました。両大臣は、世界経済が堅調な成長を維持しつつも、地政学的緊張などの様々なリスクに直面しているとの認識を共有しました。特に、中東情勢と金融市場の変動について真剣な議論を行い、エネルギー安定供給に向けた緊密な連携の重要性を再確認しました。また、最近の急速な韓国ウォン安および日本円安に関する深刻な懸念を表明し、為替レートの過度な変動と無秩序な動きに対して、外国為替市場を注視し、引き続き適切な対応をとることを再確認しました。さらに、グローバル・サプライチェーンの強化が経済安全保障上の優先事項であるとの認識を共有し、重要鉱物のサプライチェーンの多様化を一層推進することで合意しました。