東アジアの安全保障環境:米韓合同軍事演習の動向と朝鮮半島の軍事バランス

米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」開始と規模縮小の背景

2026年3月9日、米韓両軍は朝鮮半島有事を想定した定例の合同軍事演習「フリーダムシールド」を開始しました。この演習は3月19日まで実施され、北朝鮮の核・ミサイル脅威への対応力強化を目的としています。約18,000人の韓国軍が参加し、米軍主導の韓米連合軍が持つ有事作戦統制権の韓国への移管条件検証も焦点の一つとされています。

今回の演習では、実際に兵力を動かす野外機動訓練の回数が2025年の51回から22回へと大幅に縮小されました。この規模縮小は、トランプ米大統領の中国訪問を控えた米朝対話再開に向け、訓練を調整すべきという韓国政府内部の意向が反映されたものとみられています。韓国軍はさらなる実動訓練の削減を望んだものの、米軍が難色を示したため、合意が遅れた経緯があります。北朝鮮は過去、2025年3月の演習初日に弾道ミサイル数発を発射しており、今回の演習に対する北朝鮮の反応が警戒されています。

北朝鮮の強い反発と新たな核疑惑

米韓合同軍事演習の開始翌日となる2026年3月10日、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党総務部長は、朝鮮中央通信を通じた談話で演習を「地域の安定を破壊する戦争演習」だと強く非難しました。金与正総務部長は、演習に情報戦やAI技術などの軍事要素が加えられているとし、「敵対勢力が主権領域に近づくなら、想像を絶するひどい結果を招く可能性がある」と警告しました。

これに先立つ3月9日には、韓国政府高官が北朝鮮の核開発に関する「新たな疑惑」に異例の言及を行いました。これは、米国がイランへの大規模攻撃を続ける状況下で、朝鮮半島における核問題が深刻化している可能性を示唆するものとみられています。

在韓米軍戦力の一部中東移転と朝鮮半島の抑止力

2026年3月9日付の米紙ワシントン・ポストは、米国がイランのドローン・弾道ミサイル攻撃に対する防衛強化のため、在韓米軍に配備されている地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD、サード)およびパトリオットミサイル防衛システムの一部を中東へ移転していると報じました。これに先立ち、3月6日には韓国の趙顕(チョ・ヒョン)外相が国会で、韓国内のパトリオットミサイルをイランでの軍事作戦に展開することについて在韓米軍と協議中であることを明らかにしていたと報じられています。韓国メディアは、在韓米軍がパトリオットの発射台やミサイルをソウル南部にある空軍基地に移動させ、近く中東に輸送する可能性があると伝えています。

こうした報道に対し、韓国政府は迅速な見解を示しました。3月10日には韓国国防省が、在韓米軍の戦略配置が変更される可能性があっても、北朝鮮に対する抑止力は損なわれないと発表し、米国との緊密な連携を通じて抑止力を維持できると強調しました。さらに3月11日、韓国大統領府も、在韓米軍戦力の一部移動があっても「われわれの軍事的水準、防衛費の支出規模、防衛産業力、将兵たちの士気の高さなどを勘案すれば対北抑止力には全く問題がない」と強調。韓国は米国との強固な連合防衛体制を維持し、緊密な情報交換と協力を続ける姿勢を示しています。

東アジアにおける軍事バランスの変容と韓国の防衛力強化

2026年の米国防戦略(NDS)は、数十年間韓米協力の核心だった「北朝鮮の非核化」という表現を削除し、同盟国に地域脅威へのより大きな責任を求める方向性を示しました。この戦略転換により、在韓米軍は朝鮮半島に固定された戦力から、インド・太平洋全域をカバーする機動軍へと再編される可能性が高いとみられています。米国防戦略が北朝鮮の非核化を後回しにしたことで、韓国は独自に北朝鮮の核の脅威に対応する戦力を備える必要性が高まり、防衛力強化を加速させています。

韓国は、多層的な防衛システム構築に向けた取り組みを進めています。具体的には、最大7,200キログラムの通常弾頭を搭載可能で射程が最大5,000キロメートルに達する地対地弾道ミサイル「玄武5」の配備が進められています。また、2025年11月には「425事業」の下で5番目の軍事偵察衛星が打ち上げられ、北朝鮮の主要目標を2時間ごとに監視する能力が向上しました。さらに、2025年後半には米国によって原子力潜水艦の取得計画が承認され、その進展が注目されています。韓国型ミサイル防衛(KAMD)の強化も図られており、2025年7月には天弓-IIの最初の部隊が配備されました。加えて、パトリオットPAC-3システムの導入によるパトリオットミサイル防衛システムの改修計画も承認されています。

北朝鮮・中露連携の深化と地域安全保障への影響

北朝鮮は、2025年4月にウクライナ戦争への関与を公表し、同年6月には工兵部隊の派遣を表明するなど、ロシアとの関係を「同盟」レベルに深化させています。この連携を通じて、北朝鮮は外貨や先端軍事技術、さらには経済制裁の抜け穴を得ていると指摘されており、ドローンなどの現代戦のノウハウを自国の軍備増強に活用している模様です。

2025年9月に北京で開催されたロ朝首脳会談では、ロシアのプーチン大統領が両国関係を「同盟関係の局面に至った」と表現し、関係深化を誇示しました。また、同年9月には金正恩総書記が中国を訪問し、6年ぶりとなる中朝首脳会談が実現。この会談では「非核化」に言及されることなく、両国の関係強化が約されました。これら一連の動きは、これまで個別の「線」に留まっていた中ロ朝の関係が、地域安全保障に大きな影響を与える「面」へと変化したことを示唆しています。

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Reference / エビデンス

  • 米韓軍事演習が“朝鮮有事を想定”し始まる 米朝対話再開へトランプ大統領の訪中を前に韓国側の調整すべきとの意向反映か(2026年03月09日) - YouTube 2026年3月9日、米韓両軍は朝鮮半島有事を想定した定例の合同軍事演習「フリーダムシールド」を開始した。この演習は3月19日まで行われ、北朝鮮の核・ミサイルへの対応力強化が目的である。今回の演習では、野外機動訓練の回数が2025年の半分以下となる22回に縮小されており、これは3月31日から中国を訪問するトランプ米大統領の米朝対話再開に向け、訓練を調整すべきという韓国政府内部の意向が反映されたものとみられる。北朝鮮は2025年3月の演習初日に弾道ミサイル数発を発射しており、今後の反応が注目される。
  • 米韓が合同軍事演習開始 (2026年3月9日掲載) - ライブドアニュース 米韓両軍は2026年3月9日、朝鮮半島有事を想定した定例の大規模合同演習「フリーダムシールド」を開始した。韓国国防省が発表した。
  • 韓米合同軍事演習きょう開始 野外機動訓練縮小も北反発の可能性 - 朝鮮日報 韓国と米国の軍当局は2026年3月9日、朝鮮半島有事に備えた定例の韓米合同軍事演習「フリーダムシールド」を開始し、3月19日まで実施される。演習は現実的な脅威をシナリオに反映させ、米軍主導の韓米連合軍が持つ有事作戦統制権の韓国への移管条件検証にも注力する。
  • 米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」始まる 朝鮮半島有事を想定 北朝鮮の核やミサイルなどへの対応力を強化 - FNNプライムオンライン 米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」は、北朝鮮の核やミサイルなどへの対応力強化を目的に、2026年3月9日から19日まで韓国で行われる。今回の演習では、野外での機動訓練の回数が2025年の半分以下となる22回に縮小された。これは、トランプ米大統領が3月31日から中国を訪問するのを前に、米朝対話再開のため訓練を調整すべきとする韓国政府内部の意向が反映されたとみられる。
  • 米国は韓国と大規模な軍事演習を開始、その一方で中東で戦争を繰り広げる - ARAB NEWS 2026年3月9日、米国は韓国と数千人の部隊を含む大規模な軍事演習「フリーダムシールド」を開始した。韓国の合同参謀本部は、約18,000人の韓国軍が参加すると発表した。同盟国の合同演習は、ワシントンがイランとの戦闘を支援するために韓国からいくつかの資産を移転させるという韓国メディアの憶測の中で行われた。北朝鮮は同盟国の合同演習を侵略のリハーサルとみなし、軍事デモンストレーションや兵器実験を強化する口実としてきた。
  • US and South Korea begin joint military exercises - YouTube アメリカ軍と韓国軍は2026年3月9日から19日までの日程で、朝鮮半島有事を想定した定例の合同軍事演習「フリーダムシールド」を開始した。高度化する北朝鮮の核やミサイルといった脅威への対応力強化を図る。今回は2025年と比べて、実際に兵力を動かす野外機動訓練の回数を減らして行われ、北朝鮮との関係改善を目指す李在明政権の意向が反映されたとみられる。
  • 北朝鮮に「新たな核疑惑」が浮上 韓国政府高官が異例の言及 - ライブドアニュース 2026年3月9日、韓国政府高官が北朝鮮の核開発をめぐる新たな疑惑に言及した。これは、米国がイランへの大規模攻撃を続ける中、朝鮮半島での核問題の深刻化を示唆するものとみられる。
  • 「想像絶するひどい結果を招く可能性がある」北朝鮮の金与正氏が米韓合同軍事演習を強く非難 2026年3月10日、北朝鮮の金正恩総書記の妹である金与正(キム・ヨジョン)党総務部長は、朝鮮中央通信を通じて談話を発表し、3月9日から始まった米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」を「地域の安定を破壊する戦争演習」だと強く非難した。与正氏は、演習に情報戦やAI技術など挑発的な軍事要素が加えられているとし、「敵対勢力が主権領域に近づくなら、想像を絶するひどい結果を招く可能性がある」と警告した。
  • 激しい食い違いの末に…韓米、合同軍事演習の実動訓練は昨年の半分以下に - 朝鮮日報 2026年3月9日から始まる韓米合同軍事演習「フリーダム・シールド」において、実際に兵力が動員される実動訓練(FTX)は22回とすることで韓国軍と在韓米軍が合意した。この回数は2025年の51回から半分以下に縮小されており、北朝鮮を刺激したくない韓国政府の意向が反映されたとみられる。韓国軍は演習期間中の実動訓練のさらなる削減を望んだが、米軍が難色を示したため合意が遅れた。
  • 在韓米軍戦力再編でも揺るがぬ対北抑止力、韓国国防省が発表|Yonhap News|2026/03/11|アジア情勢 - YouTube 2026年3月10日、韓国国防省は、在韓米軍の戦略配置が変更される可能性があっても、北朝鮮に対する抑止力は損なわれないと発表した。これは、米軍が地域での緊急事態に対応するために、在韓米軍の装備や兵力を一時的に移動させる場合があることを示唆している。韓国政府は、米国との緊密な連携を通じて、そのような状況でも北朝鮮に対する抑止力を維持できると強調している。
  • 韓国 きょうのニュース(3月10日)-Chosun online 朝鮮日報 2026年3月9日(現地時間)、米紙ワシントン・ポストは、米国防総省が韓国に配備している地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD、サード)の一部を中東地域へ移動させていると報じた。これは、イランによる無人機(ドローン)や弾道ミサイル攻撃への防衛体制を強化するためとされている。
  • 韓国 きょうのニュース(3月11日)-Chosun online 朝鮮日報 2026年3月11日、韓国大統領府は、米国が韓国に配備しているTHAADやパトリオット防空システムを中東へ移送しているとの報道に対し、「在韓米軍の戦力の一部が海外へ移動するかどうかにかかわらず、われわれの軍事的水準、防衛費の支出規模、防衛産業力、将兵たちの士気の高さなどを勘案すれば対北抑止力には全く問題がない」と強調した。また、韓日両国は強固な連合防衛体制を維持し、米国との緊密な情報交換と協力を続けると説明した。
  • 在韓米軍が兵器を中東に輸送か 韓国外相「米と協議中」(2026年3月6日) - YouTube 2026年3月6日、韓国の趙顕(チョ・ヒョン)外相は国会で、韓国内に配備されているアメリカ製の迎撃ミサイル「パトリオット」をイランでの軍事作戦に展開することを在韓米軍と協議中だと明らかにした。韓国メディアによると、在韓米軍はパトリオットの発射台やミサイルをソウル南部にある空軍基地に移動させており、近く中東に輸送する可能性があるという。
  • 韓国防衛体制、同盟国の支援と国内生産を受け進化 - Indo-Pacific Defense FORUM 韓国は、北朝鮮の拡大する核・ミサイルの脅威に対峙するため、強力な多領域防衛体制の開発を加速させている。これには、最大7,200キログラムの通常弾頭を搭載可能で射程が最大5,000キロメートルに達する地対地弾道ミサイル「玄武5」の配備が含まれる。また、2025年11月には「425事業」の下で5番目の軍事偵察衛星を打ち上げ、北朝鮮の主要目標を2時間ごとに監視できるようになった。さらに、2025年後半に米国によって承認された原子力潜水艦の取得計画も進められている。
  • 韓国、天弓ミサイル防衛システムの改修を完了 - SENTRY 韓国は、北朝鮮のミサイル脅威に対抗するため、多層防衛システムである韓国型ミサイル防衛(KAMD)を強化している。2025年7月に配備された天弓-IIの最初の部隊は2027年までに本格運用が開始される予定で、航空機および弾道目標の双方に有効である。また、パトリオットPAC-3システムの導入によるパトリオットミサイル防衛システムの改修計画も承認されており、2031年までに完了する見込みである。
  • 米国防総省が発表した「2026国防戦略(NDS)」は韓米同盟の重大な変化を予告する。 先月の国家安保戦略に続き、NDSでも数十年間、韓米協力の核心だった「北朝鮮非核化」の表現が消えた。 その代わり米国.. - 2026年の米国防戦略(NDS)では、数十年間韓米協力の核心だった「北朝鮮非核化」の表現が消え、同盟国がより多くの防衛費を負担し、地域の脅威により大きな責任を負うことが求められている。これにより、在韓米軍は朝鮮半島の固定戦力からインド・太平洋全域をカバーする機動軍に再編される可能性が高い。NDSが北朝鮮の非核化を後回しにしたことで、韓国は自ら北朝鮮核への対応戦力を備える必要性が高まり、玄武5ミサイルの実戦配備拡大や独自監視・偵察能力の確保、原子力潜水艦の開発などが必須となっている。
  • 戦略アウトルック2026 第4章 朝鮮半島—秩序動揺期の「生存空間」拡大の模索 2025年4月、北朝鮮はウクライナ戦争への関与を公表し、同年6月には工兵部隊派遣を表明するなど、ロシアとの関係を「同盟」化している。北朝鮮はこれに対し、外貨、先端軍事技術、経済制裁の抜け穴を得ているとされ、ドローンなど現代戦のノウハウを軍備増強に活用している。2025年9月のロ朝首脳会談(北京)ではプーチン大統領も両国関係を「同盟関係の局面に至った」と表現し、関係深化を誇示した。また、同年9月の金正恩総書記の訪中では6年ぶりの中朝首脳会談が実現し、「非核化」に言及しないまま関係強化が約された。これらの動きは、これまで「線」に留まっていた中ロ朝の関係が「面」へと変化したことを印象付けている。