欧州の産業競争力と脱炭素化戦略:2026年3月、政策転換と経済影響を分析

欧州「産業加速法案(IAA)」の発表:域内産業保護と脱炭素化の両立

欧州委員会は2026年3月4日、「産業加速法案(IAA)」を提案・発表しました。これは、気候中立に向けた脱炭素化を促進しつつ、エネルギー集約型産業、ネットゼロ技術、電気自動車(EV)のEU域内製造を強化することを目的としています。法案は、公共調達や財政支援において「域内産(Made in EU)」および「低炭素」の一定比率要件を導入し、特にEVについてはEU原産を後押しする内容です。鉄鋼、セメント、アルミニウム、自動車、ネットゼロ技術(バッテリー、太陽光発電パネル、風力発電タービン、ヒートポンプ、原子力発電など)といった戦略的セクターが対象となります。また、1億ユーロを超える外国投資には特定の条件を課す案も含まれています。この法案は、米国インフレ抑制法(IRA)への対抗策としての側面も持ち、EUのGDPに占める製造業比率を2035年までに20%に引き上げることを目指しています。

CBAM本格運用とEU排出量取引制度(ETS)の動向

炭素国境調整メカニズム(CBAM)は2026年1月1日にEU加盟国全体で円滑に本格運用を開始しました。これにより、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力などの特定商品の輸入業者にはEU域内生産者と同等のCO2排出コストが負担され、公平な競争環境の構築と炭素漏洩の防止が図られています。輸入業者またはその代理人は、遅くとも2026年3月31日までにCBAM申告者としての承認申請を国家当局に提出する必要があります。また、2026年1月1日以降、CBAM商品の輸入許可には税関によるCBAM承認の検証が義務付けられています。

一方、2026年3月には、欧州の産業競争力低下やエネルギー価格高騰を背景に、EU排出量取引制度(EU ETS)の緩和や延期を求める政治的圧力が表面化しました。これに対し、Sandbagを含む35のNGOが欧州理事会に対し、制度の完全性と炭素価格の予測可能性を保護するよう共同書簡を提出し、動向が注目されています。

エネルギー戦略の転換:原子力再評価の動き

2026年3月10日、EUのフォン・デア・ライエン欧州委員長は、原子力発電の割合を減らしてきたことは「戦略的な誤りだった」と発言しました。委員長は、次世代原子炉とされる小型モジュール炉(SMR)を2030年代初めに実用化し、ヨーロッパを次世代原子力エネルギーの世界的拠点にすることを目指す方針を示しています。この背景には、エネルギー価格の高騰とエネルギー安全保障の課題に加え、AIデータセンターなど電力需要の大きい新産業を支える電源としての原子力の再評価があります。この動きは、2025年2月に発表された「クリーン産業ディール」に見られるように、従来の再生可能エネルギー偏重から、原子力を含む多様な低炭素技術を広く推進する技術中立的なアプローチへのシフトを象徴しています。

規制簡素化と競争力強化への包括的アプローチ

EUでは、域内産業の競争力確保を目的とした規制の簡素化が進められています。2025年1月29日に発表された「Competitiveness compass(競争力コンパス)」や、2026年2月24日に理事会で承認され官報掲載された「第1弾オムニバス法案」により、サステナビリティ報告基準(ESRS)を含む規制の簡素化が加速しています。これらの政策は、競争力低下への危機感を背景に、過度な規制強化を簡素化し、投資を促進しようとするものです。欧州委員会は、企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)や森林破壊防止デューディリジェンス規則(EUDR)など、環境や持続可能性に関連する規制の実質的な簡素化を進めることで、脱炭素化目標を維持しつつ、企業への過度な負担を軽減し、投資を促進するという包括的なアプローチの一環としています。

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Reference / エビデンス