東アジア半導体サプライチェーンの変革:米中「管理された相互依存」と各国の戦略的対応

米中半導体輸出管理の新たな局面:『管理された相互依存』の進展

米国政府は2026年1月、NVIDIAのH200などのAIチップに対する中国向け輸出方針を転換し、一部製品の条件付き輸出を許可したと2026年3月5日に報じられました。この政策転換は、個別審査や25%の関税といった厳格な管理下で行われています。同時に、中国側も輸入時に一定数の国産チップ購入を求める動きを見せており、米中間の半導体サプライチェーンにおいて「管理された相互依存」という新たな構図が鮮明になりつつあります。これは、これまでの全面的な禁輸措置から、より戦略的かつ実利的なアプローチへの変化を示唆しています。2025年11月から2026年3月にかけて行われた米中協議においても、両国が戦略的に重要な分野での輸出管理を継続していることが報告されており、米国は高性能AI半導体や製造装置の対中輸出規制を維持する一方、中国もレアアース関連品目の輸出規制を継続しています。

米国の規制強化と中国の技術自立化加速

2026年3月1日から8日の期間に報告された情報によると、米国の輸出規制強化、具体的にはNVIDIAやAMDのAIアクセラレータに対する世界的なライセンスシステムの導入や、中国製半導体の政府調達ネットワークからの排除といった動きに対し、中国は技術自立化と国産化を加速させています。中国の半導体業界は、サプライチェーンの強靭性を重視し、国内での生産能力向上と技術開発に注力する姿勢を鮮明にしています。この一環として、中国は自国でのオープンなRISC-Vプラットフォーム構築を急ピッチで進め、AI需要に対応したチップ装置やサプライチェーンの規模拡大を図っています。こうした動きは、世界最大の市場である中国における半導体の内製化をさらに進展させ、グローバルな供給網の分断を一段と加速させる可能性があります。

東アジア諸国への波及と対応戦略

米中間の半導体輸出管理構造の変化は、日本と韓国の半導体産業に多角的な影響を与え、各国はサプライチェーンの安定化と競争力強化に向けた戦略的な対応を進めています。

日本においては、TSMCのJASMが2024年12月に車載・民生向けの成熟プロセス半導体の量産を開始し、さらにラピダスが2nm世代の先端半導体国産化を担うことで、地政学的リスクへの備えと競争力強化を図っています。ラピダスは2nm世代のトランジスタの動作実証に成功しており、2025年下期に2nm量産を開始するTSMCとの技術差を約2年と見込んでいます。また、同社は2025年にアップル、グーグルとチップ量産に関する交渉を始めたと報じられており、2025年末までに顧客向けPDKを提供する目標を掲げています。加えて、キヤノンと日本シノプシスはNEDOの支援を受け、2nm世代プロセス技術とチップレット技術を組み合わせた高性能・低消費電力の画像処理SoCの設計技術開発に共同で取り組むことを発表し、その設計、試作をラピダスへ委託する計画です。日本政府は、5G促進法およびNEDO法の改正を通じて先端半導体製造基盤整備への投資を後押しし、2024年2月までに6件の生産施設整備および生産計画を認定しました。また、国内での大規模言語モデル(LLM)などの生成AI開発を支援するGENIACプログラムも実施しています。

韓国政府は、2026年1月9日に発表した「2026年経済成長戦略」で、半導体製造とファブレス分野での世界2強を目指し、大統領直属の「半導体産業競争力強化特別委員会」を構成し運営すると発表しました。委員会は2026年第1四半期までに半導体産業の競争力強化基本計画を樹立する予定です。さらに、2026年1月29日には「半導体産業の競争力強化および支援に関する特別法案」(半導体特別法)が国会本会議で成立し、半導体サプライチェーン全体を体系的に支援するための制度的基盤が整備されました。サムスンは西安工場で236層NANDへの切り替えを推進するなど、AI需要に応じた大容量ストレージニーズに対応するため、各社が次世代3D NANDへの技術移行を急ピッチで進めています。また、光電融合技術の実用化を推進し、次世代半導体パッケージング市場での主導権確保を目指す戦略的な動きも見られます。

今後の展望と産業アナリストへの示唆

これまでの分析を踏まえると、東アジアにおける半導体サプライチェーンの輸出管理構造は、米中間の「管理された相互依存」と各国の技術自立化戦略の動向によって今後も進化を続けると見られます。米国がAIチップの対中輸出を条件付きで再開しつつも、厳格な管理を維持する姿勢は、両国が一定の相互依存関係を維持しつつも、戦略的優位性を確保しようとするバランスを示しています。一方で、米国の規制強化に対する中国の国産化推進、特にRISC-Vプラットフォーム構築やAI対応チップ装置の規模拡大は、グローバルな供給網の分断を加速させる可能性があります。

日本と韓国は、それぞれの国家戦略を通じてサプライチェーンの安定化と競争力強化を図っています。日本はラピダスによる先端半導体国産化や生成AI開発支援、TSMC誘致といった多角的なアプローチを進め、韓国は「半導体特別法」の制定や「半導体産業競争力強化特別委員会」の設立を通じて、半導体分野での世界的な地位確立を目指しています。

産業アナリストは、今後、以下の主要な指標やリスク要因に注目すべきでしょう。まず、米中間の輸出管理政策の具体的な運用と、それに対する中国の技術自立化の進捗状況です。特に、中国国内での半導体生産能力の向上や、特定の先端技術分野におけるブレークスルーが、グローバルサプライチェーンの再編をさらに促す可能性があります。次に、日本や韓国をはじめとする東アジア諸国の投資動向と、先端技術開発(例:2nmプロセス、光電融合技術、次世代3D NAND)の進捗です。これらの国の自立化戦略が、国際協力とどのようにバランスを取りながら推進されるかが重要です。最後に、地政学的緊張がサプライチェーンの安定性に与える影響と、それに対する各国および企業のレジリエンス強化策が、引き続き重要なリスク要因として挙げられます。

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Reference / エビデンス