テック企業法務が注視すべき北米規制動向:2026年3月アップデート
北米巨大IT規制の最新動向:カナダの競争法改革と米国のAI政策が焦点に
2026年3月上旬、北米における巨大IT企業に対する規制環境は重要な局面を迎えています。カナダでは、競争審判所が2026年3月4日にGoogleの憲法上の異議申し立てを却下し、競争法の執行権限が再確認されました。また、米国では2026年3月にホワイトハウスがAIに関する国家政策枠組みを発表し、連邦統一基準の確立を促しています。これらの動きは、北米各国がデジタル経済における公正な競争と技術ガバナンスの確保に力を入れていることを象徴しており、本記事では米国、カナダ、メキシコにおける規制の差異と今後の展望をテック企業法務担当者向けに構造的に比較・解説します。
カナダ:競争法の大幅な改正とGoogle訴訟の進展
カナダの競争法は、2022年、2023年、2024年の三度にわたる改革波を経て大幅に改正され、2026年にはその影響が本格化しています。主な変更点として、合併審査における効率性抗弁の廃止、市場集中度や市場シェアに基づく反競争的推定の導入、合併届出規則の改定、そして未届出合併に対する競争局の調査期間が3年間に延長されたことなどが挙げられます。また、独占的地位の濫用に関するテストも刷新され、関連する罰則も強化されています。2026年3月2日には、カナダ競争局が事前合併届出の取引規模閾値を2026年も9,300万カナダドルに据え置くと発表しました。これはインフレに基づく調整からの数年来の逸脱であり、結果としてより多くの取引が届出義務の対象となる可能性があります。さらに、2026年3月4日には、カナダ競争審判所がGoogleのオンライン広告における独占的地位濫用に関する憲法上の異議申し立てを却下しました。この決定は、反競争的行為の抑止とコンプライアンス促進のために行政上の金銭的罰則を命じる審判所の明確な権限を強化するものであり、Googleに対する訴訟は現在も継続しています。
米国:AI規制の連邦統一化とFTCの消費者保護強化
米国では、2026年3月にホワイトハウスがAIに関する国家政策枠組みを発表し、AIガバナンスのための統一された連邦基準を確立するよう議会に促しています。これは、州レベルでのAI規制が「断片的なパッチワーク」となることを避けることを目的としています。この枠組みは、子どもの保護、コミュニティの安全確保、知的財産権の尊重、検閲の防止、イノベーションの促進、労働力開発といった原則に基づいています。また、2026年3月5日には、FTC消費者保護局のクリストファー・ムファリッジ局長が、公正で透明なチケット市場の確保、決済システムの完全性保護、欺瞞的な自動更新型サブスクリプションへの対策という3つの執行優先事項を概説しました。ムファリッジ局長は、これらの執行努力が、隠れた手数料や妨害的なビジネス慣行から消費者を保護し、公正な競争を確保するための「市場強化」の取り組みであると強調しています。加えて、2026年2月23日には、米国司法省(DOJ)反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)が、競合他社間の協力に関する潜在的な新ガイドラインについて意見を求める公開調査を開始しており、2026年4月24日まで意見が募集されています。
メキシコ:競争当局の権限強化と私的執行の促進
メキシコでは、2025年7月18日に公布され、翌19日に施行された連邦経済競争法の大幅な改正が、2026年にその影響を本格的に及ぼしています。この改正により、独立自治規制機関であった連邦経済競争委員会(COFECE)は廃止され、経済省傘下の独立行政機関として国家独占禁止委員会(CNA)が創設されました。CNAは技術的独立性を持ちつつ、反競争的行為へのより強力な対応を目指し、競争当局の権限強化が図られています。改革内容には、反競争的慣行に対する最大罰金の倍増、手続き上の不遵守に対する罰則の強化、カルテルの刑事訴追メカニズムの明確化、合併審査期間の短縮、コンプライアンスプログラム認定制度の導入、そして集団訴訟および民事責任の促進メカニズムの導入が含まれます。未届出の企業結合に対する当局の職権調査期間も、従来の1年間から3年間に拡大されました。これらの措置は、企業にコンプライアンスプログラムの導入または強化を促し、市場参加者の権利保護を強化する狙いがあります。また、2025年12月18日に公表された和解により、メキシコのCOFECEはGoogleに対し、携帯端末用OS市場への参入障壁を低くするため、Androidの制約を撤廃するよう命令していました。
北米各国の規制アプローチ比較とテック企業法務担当者への示唆
北米各国は、巨大IT企業に対する規制において異なるアプローチを取っています。カナダは、競争法の大幅な改正を通じて、合併審査における効率性抗弁の廃止や独占的地位の濫用に関する罰則強化など、より介入主義的な姿勢を明確にしています。これは、デジタル経済における市場集中への懸念と、消費者保護へのコミットメントを反映しています。一方、米国は、AI規制において連邦統一基準の確立を目指し、州ごとの「パッチワーク」を避けようとしています。同時に、FTCは消費者保護の観点からチケット市場の公正性、決済システムの完全性、欺瞞的な自動更新型サブスクリプションといった特定の市場慣行に焦点を当てた執行優先事項を概説しており、競合他社間の協力ガイドラインの見直しも進めています。メキシコでは、競争当局がCOFECEからCNAへと再編され、罰金の大幅な引き上げや集団訴訟の促進など、当局の権限強化と私的執行の促進に重点を置いています。
これらの差異は、北米で事業を展開するテック企業の法務担当者にとって、複雑な法的・戦略的課題をもたらします。各国固有の法改正や規制動向を継続的に監視し、それぞれの市場で適用されるコンプライアンス体制を強化することが不可欠です。特に、合併・買収活動や新しい技術(AIなど)の導入に際しては、各国の競争法や消費者保護法に照らしたリスク評価が重要となります。また、国際的な規制環境全体への視野を持つことも求められます。
[ Advertisement ]Reference / エビデンス
- Canadian Competition Law Outlook 2026: From Reform To Reality - Mondaq 2026年はカナダの競争法が継続的に進化する年と予想されており、2022年、2023年、2024年の3回の改革波により競争法が大幅に改正されました。これらの改正は、デジタル経済のダイナミクスとアフォーダビリティの懸念に対処し、合併審査における効率性抗弁の廃止、集中度や市場シェアに基づく反競争的推定の導入、合併届出規則の改定、未届出合併に対する競争局の調査期間の3年間への延長などが含まれます。また、独占的地位の濫用に関するテストも刷新され、罰則も強化されています。
- Canada Maintains Competition Act Pre‑Merger Notification Threshold at C$93 million for 2026 | Knowledge | Fasken 2026年3月2日、カナダ競争局は、競争法に基づく事前合併届出の取引規模閾値が2026年も9,300万カナダドルに据え置かれると発表しました。これはインフレに基づく調整からの数年来の逸脱であり、結果としてより多くの取引が届出義務の対象となる可能性があります。
- Statement by Acting Commissioner of Competition: Competition Tribunal dismisses Google's constitutional challenge - Canada.ca 2026年3月4日、カナダ競争局のジャンヌ・プラット暫定競争委員は、Googleの憲法上の異議申し立てを却下した競争審判所の決定を歓迎する声明を発表しました。この決定は、反競争的行為の抑止とコンプライアンス促進のために行政上の金銭的罰則を命じる審判所の明確な権限を強化するものです。Googleに対する訴訟は継続しています。
- March 2026 US Tech Policy Roundup | TechPolicy.Press 2026年3月、ホワイトハウスはAIに関する国家政策枠組みを発表し、AIガバナンスのための統一された連邦基準を確立し、州レベルのAI法の「断片的なパッチワーク」を先制するよう議会に促しました。この枠組みは、子どもの保護、コミュニティの安全確保、知的財産権の尊重、検閲の防止、イノベーションの促進、労働力開発といった原則に基づいています。
- White House urges Congress to take a light touch on AI regulations in new legislative blueprint - KSAT 2026年3月20日、ホワイトハウスはAIに関する国家政策枠組みを発表し、AI分野の成長やイノベーションを阻害することなく、AIに関する懸念に対処するための広範な枠組みを提示しました。この枠組みは、子どもの保護、電力コストの急増防止、知的財産権の尊重、検閲の防止、技術利用に関する国民への教育など、6つの主要な指針を概説しています。
- FTC Updates (March 2-6, 2026) | Retail & Consumer Products Law Observer 2026年3月5日、FTC消費者保護局のクリストファー・ムファリッジ局長は、ジョージ・メイソン大学アントニン・スカリア法科大学院での講演で、FTCの3つの執行優先事項を概説しました。これには、公正で透明なチケット市場の確保、決済システムの完全性保護、欺瞞的な自動更新型サブスクリプションへの対策が含まれます。ムファリッジ局長は、これらの執行努力が、隠れた手数料や妨害的なビジネス慣行から消費者を保護し、公正な競争を確保するための「市場強化」であると強調しました。
- US committee demands Big Tech share private comms with EU officials 2026年3月17日、米国議会司法委員会は、大手テクノロジー企業に対し、EUデジタル規則の執行に関連する欧州委員会当局とのすべての通信記録(自動削除メッセージを含む)へのアクセスを提供するよう要請する書簡を送付しました。これは、EUのデジタルサービス法(DSA)が検閲につながるという懸念に基づいています。
- March Antitrust and Competition Bulletin: Top-of-Mind Global Antitrust Issues | Insights | Sidley Austin LLP 2026年3月19日、第5巡回控訴裁判所は、FTCの2024年ハート・スコット・ロディノ(HSR)規則および事前合併届出要件に関する地区裁判所の決定に対する滞在申請を却下しました。これにより、FTCは旧様式でのHSR届出を受け入れることになり、当事者はどちらの様式でも任意に提出できるようになりました。
- Inside Competition: March 2026 | DLA Piper - JDSupra 2026年2月23日、米国司法省(DOJ)反トラスト局と連邦取引委員会(FTC)は、競合他社間の協力に関する潜在的な新ガイドラインについて意見を求める公開調査を開始しました。これは、2024年12月に以前のガイドラインが撤回されたことを受けたもので、企業により大きな確実性を提供し、競争を促進することを目的としています。意見提出期限は2026年4月24日です。
- Outlook 2026: Mexico Antitrust and Competition | Insights - Greenberg Traurig, LLP 2026年のメキシコの独占禁止法および競争の展望では、経済省傘下の分散型組織として国家独占禁止委員会(CNA)が設立され、独占禁止当局が強化されることが挙げられています。これにより、反競争的行為への対応がより堅固になる可能性があります。また、反競争的慣行に対する最大罰金の倍増や、手続き上の不遵守に対する罰則の強化が、企業にコンプライアンスプログラムの導入または強化を促すインセンティブとなるでしょう。カルテルの刑事訴追メカニズムの明確化も、抑止力と個人の説明責任を高める可能性があります。合併および調査の期間短縮を目的とした手続き改革も進められています。
- 連邦経済競争法の改正を公布、反競争行為抑止につながる内容も国営企業には適用せず(メキシコ) - ジェトロ 2025年7月18日に公布され、翌19日に施行されたメキシコの連邦経済競争法改正により、独立自治規制機関であった連邦経済競争委員会(COFECE)が廃止され、経済省傘下の独立行政機関として国家独占禁止委員会(CNA)が創設されました。この改正は、反競争的行為への罰則強化、企業結合の監視強化、審査プロセスの迅速化、コンプライアンスプログラム認定制度の導入、および集団訴訟の促進メカニズムの導入を含んでいます。未届出の企業結合に対する当局の職権調査期間も、従来の1年間から3年間に拡大されました。
- メキシコ、独占禁止合意でグーグルにAndroidの制約撤廃を命令 2025年12月18日に公表された和解により、メキシコのCOFECEはGoogleに対し、携帯端末用OS市場への参入障壁を低くし、メーカーが代替OSを自由に採用できるようにするため、Androidの制約を撤廃するよう命令しました。COFECEはGoogleの遵守状況を監視するとしています。
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