中東情勢と重要鉱物市場の再編:エネルギーアナリストが注視するグローバル動向

中東情勢緊迫化とホルムズ海峡の商業的封鎖:エネルギー市場への即時影響

2026年3月3日、米海軍の攻撃型潜水艦がスリランカ南方のインド洋でイラン海軍フリゲート艦を魚雷で撃沈し、中東情勢は一層の緊迫化を迎えました。これに続き、3月4日には石油や天然ガスの物流の要衝であるホルムズ海峡の通航が停止状態となりました。さらに、3月5日にはノルウェーのGard・Skuld、英国のNorthStandard・London P&I Club、米国のAmerican Clubといった主要P&I保険会社がペルシャ湾・ホルムズ海峡向けの戦争危険担保をキャンセルし、日本のジャパンP&Iも3月6日に一部地域での補償を停止しました。これにより、ホルムズ海峡は物理的な通航阻止ではなく、保険引き受けの停止によって事実上の商業的封鎖状態に陥っています。

この封鎖は世界のエネルギー供給に即時的な影響を与え、原油価格は一時1バレル=100ドル超まで急騰し、LNGスポット価格もこれに連動して上昇しました。特にカタール産LNGの生産停止はスポット市場全体の需給を逼迫させ、調達コストを間接的に押し上げています。海運業界では、中国最大の海運会社である中国遠洋海運集団が中東発着コンテナ輸送の新規予約を停止し、欧州のMaerskやCMA CGMといった主要海運会社も同海域の運航を回避する動きを見せています。OPECプラスは2月1日および3月1日の会合で、2026年3月の原油生産量を据え置く方針を確認していましたが、ホルムズ海峡での船舶航行の混乱により、3月のOPEC全体の石油生産量は日量2157万バレルに急落し、2026年2月と比較して日量730万バレルの大幅な減少を記録しました。これは新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生以来の最低水準であり、イラク、クウェート、サウジアラビア、UAEといった主要産油国で生産量減少が集中しました。

産油国の輸出戦略とグローバルサウスの脆弱性

ホルムズ海峡の商業的封鎖は、世界のエネルギー市場、特に産油国の供給能力と消費国のエネルギー安全保障に深刻な影響を与えています。日本は一次エネルギーの約60%を石油と天然ガスに依存しており、原油の約95%を中近東から輸入しています。今回の危機は、主要消費国が中東情勢に起因する供給不安に対して極めて脆弱であることを示唆しています。また、一部のグローバルサウス諸国も、産油国でありながら中東情勢の混乱によるサプライチェーン途絶のリスクに直面し、エネルギー供給の不安定化が経済活動に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

重要鉱物における資源ナショナリズムと供給網再編の動き

エネルギー資源の課題と並行し、脱炭素化の進展に伴い重要性が増す重要鉱物(レアアース、レアメタルなど)においても、グローバルな資源ナショナリズムと供給網再編の動きが活発化しています。米国は2026年3月4日、「2026年重要鉱物閣僚会合」を招集し、54カ国と欧州委員会代表とともに重要鉱物およびレアアースの世界市場の再構築を目指す方針を打ち出しました。同日、米国はアルゼンチン、クック諸島、エクアドルを含む11カ国と二国間重要鉱物枠組みまたは覚書(MOU)を締結し、新たな協力枠組み「資源の戦略地政学的関与に関するフォーラム(FORGE)」の創設を発表しました。

これに対し、中国政府は2026年3月5日に発表された「第15次五カ年計画」案の中で、希土類およびレアメタルを国家戦略資源と位置づけ、産業競争力とサプライチェーン安全保障の強化を図る方針を示しました。中国は2023年のガリウム、ゲルマニウム、黒鉛への措置を皮切りに、近年各種の重要鉱物資源に関する輸出管理を強化しており、2025年4月にはレアアース7種を含む輸出管理措置が実施されています。また、2026年3月には、オーストラリアと欧州連合(EU)が長年の交渉を経て自由貿易協定(FTA)で合意し、重要鉱物を含む資源分野においてサプライチェーンの強靭化と投資環境の改善を進める方針を固めました。

市場の反応と今後の展望:エネルギー安全保障と経済への影響

中東情勢の緊迫化と重要鉱物市場の変動は、世界のエネルギー安全保障と経済に広範な影響を及ぼしています。2026年3月は、中東での紛争激化とそれに伴う石油・ガス価格の上昇、調達難により、世界の株式指数は下落し、長期金利も上昇しました。原油価格の急騰とLNG価格の上昇は、世界的なインフレ懸念をさらに高め、経済成長に下落圧力を与える要因となっています。

一方で、グローバルサウス諸国は、先進国による脱炭素化のための資源確保の動きの中で、「緑の植民地主義(グリーンコロニアリズム)」といった懸念に直面しています。例えば、アルゼンチンのリチウム開発現場では環境・社会・人権問題が発生していると指摘されており、資源ナショナリズムの動向が国際的な資源供給網に与える構造的な影響は、今後も注視すべき課題です。

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Reference / エビデンス