グローバルサウスにおける重要鉱物資源の地政学的競争:主要アクターの戦略と市場動向(2026年3月3日時点)

重要鉱物資源を巡る地政学的競争の激化:米国の新たな攻勢と各国の対応

2026年3月3日現在、グローバルサウスを舞台とした重要鉱物資源を巡る地政学的競争は激化の一途をたどっています。特に米国は、中国への依存を断ち切るための具体的な行動を加速しています。2026年2月4日には、米国政府がワシントンD.C.で重要鉱物に関する閣僚級会合を招集し、54カ国の代表者が出席しました。この会合では、資源地政学エンゲージメントフォーラム(Forge)が立ち上げられ、10件の二国間協定が締結されたほか、採掘された鉱物の最低価格を伴う重要鉱物貿易圏の提案がなされました。これに先立ち、トランプ大統領は米国輸出入銀行からの100億ドルの融資による重要鉱物備蓄イニシアティブ「Project Vault」を発表しています。2月下旬には、マルコ・ルビオ国務長官がミュンヘン安全保障会議でこの問題に言及し、米国の戦略的な動きが鮮明になりました。一方で、欧州連合(EU)も2026年初頭に欧州重要原材料センターの設立や備蓄パイロットスキームの運用開始を予定しており、国際的な競争が多角的に展開されている状況がうかがえます。

米国の戦略:サプライチェーン再編とグローバルサウスへの影響

米国の重要鉱物戦略は、ハイテクチップや再生可能エネルギー機器に必要な鉱物のサプライチェーン確保を主眼としています。2026年2月の閣僚級会合で立ち上げられたForgeの目的は、こうした鉱物の供給網を多様化し、中国の支配を打破することにあります。米国は二国間協定や貿易圏の提案を通じて、自国の供給網を強化しようとしています。しかし、この米国の戦略は、グローバルサウスの生産国が抱える重要な政策目標、すなわち国内での加工能力向上を通じて自国の鉱物資源の付加価値を高めようとする努力を阻害する可能性があります。さらに、米国主導のイニシアティブへのアクセスが地政学的な連携に依存するようになれば、これらの国々は中国との長年の経済関係の見直しを迫られるリスクも指摘されています。

中国の戦略:既存の優位性強化と価値連鎖の上流化

中国は、重要鉱物資源のサプライチェーンにおいて圧倒的な支配力を確立しています。世界的なレアアースの加工で85%、ガリウム加工で98%、コバルト精製で65~70%を支配しており、原材料の採掘場所に関わらず世界のサプライチェーンを制約する能力を有しています。この支配力は、数十年にわたる戦略的投資によって築かれたものです。2000年から2021年にかけて、中国はアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの約20カ国で鉱物抽出と精製に約570億ドルを投じました。さらに、中国は2023年から2025年にかけてガリウム、ゲルマニウム、および高性能永久磁石に不可欠な重希土類元素に対する輸出規制を導入し、重要鉱物を経済的強制の手段として利用している事例が見られます。

EUの戦略:域内生産能力の強化とサプライチェーンの多角化

EUの重要鉱物戦略は、欧州重要原材料法(CRMA)によって方向づけられています。この法律は、EUの重要原材料サプライチェーンの全段階における能力を強化し、依存度を減らし、準備態勢を整え、サプライチェーンの持続可能性と循環性を促進することを目的としています。具体的な目標として、2030年までに、域内での抽出で年間需要の10%、加工で40%、リサイクルで25%を達成すること、および戦略的原材料の年間需要の65%以上を単一の第三国から供給してはならないという目標を掲げています。さらに、欧州委員会は2025年12月にRESourceEU行動計画を採択しており、これに基づき2026年初頭には欧州重要原材料センターが設立され、備蓄に関する協調的なEUアプローチのパイロットスキームが運用開始される予定です。これらの取り組みは、地政学的ショックから域内産業を保護し、供給網を多角化するための具体的な方策として進められています。

グローバルサウスの視点:価値連鎖向上への課題と国家間の連携

グローバルサウスの重要鉱物生産国は、国際競争の中で単なる資源供給国に留まらず、国内での加工や精製を通じて価値連鎖を上流化することを目指しています。アフリカ大陸の鉱業大臣たちは、資本動員、国内鉱物価値連鎖の強化、国境を越えた協力に焦点を当てています。しかし、米国の二国間アプローチは、このような地域連携の努力を阻害する可能性も指摘されています。例えば、ブラジルは世界のニオブ埋蔵量の約95%を保有し、レアアースやグラファイトの豊富な鉱床も有していますが、資金調達、産業政策、および現地の技術力といったボトルネックにより、その潜在能力を十分に活用できていない現状があります。一方で、コンゴ民主共和国(DRC)のManonoリチウムプロジェクトは、2026年初頭に初期商業生産を開始する予定であり、ジブチも5000万ドルを超える投資で鉱業部門を強化し、経済多角化を目指すなど、グローバルサウス諸国は国内価値連鎖の強化と国境を越えた協力を模索する具体的な動きを見せています。

市場とM&Aの動向:政策主導の投資と新たなリスク

2026年には、重要鉱物サプライチェーンの確保と多角化がM&A活動の主要な推進要因であり続けると予想されます。特定のレアアースの採掘・加工能力が少数の地域に集中し、地政学的な影響を受けやすいため、各国政府や企業は国家および産業の優先事項に合致する戦略的取引を優先する傾向が強まるでしょう。アフリカは、銅、コバルト、マンガン、プラチナ族金属(PGM)、リチウムなどのエネルギー転換に不可欠な鉱物の豊富な埋蔵量を持ち、2026年も鉱業M&Aの主要な管轄区域であり続けると予想されています。地政学的要因は、引き続き鉱業M&Aの重要な推進要因となる可能性が高く、重要鉱物の需要は2040年までに4倍になると予測されています。

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Reference / エビデンス

  • What does the US pursuit of critical minerals mean for the Global South? | Dialogue Earth 2026年2月4日、米国政府はワシントンD.C.で重要鉱物に関する閣僚級会合を開催し、54カ国の代表者が出席した。この会合では、資源地政学エンゲージメントフォーラム(Forge)が立ち上げられ、10件の二国間協定が締結され、採掘された鉱物の最低価格を伴う重要鉱物貿易圏の提案がなされた。数日前には、トランプ大統領が米国輸出入銀行からの100億ドルの融資による重要鉱物備蓄イニシアティブ「Project Vault」を発表した。2月下旬には、マルコ・ルビオ国務長官がミュンヘン安全保障会議でこの問題に言及した。これらの取り組みは、重要鉱物およびレアアースに対する米国の中国への依存を断ち切ることを目的としている。しかし、グローバルサウスの生産国にとって、重要鉱物に関する主要な政策目標は価値連鎖を上流化することであり、米国の二国間取引や多国間貿易圏への重点は、これらの国の努力を損なう可能性がある。また、米国主導のイニシアティブへのアクセスが地政学的な連携に依存し、中国との長年の経済関係の見直しを迫られる可能性も指摘されている。
  • America needs partners to challenge China's critical mineral chokehold - Chatham House 中国は世界のコバルトとリチウムの70%以上、グラファイトのほぼ全てを抽出、加工、または支配しており、最も重要な工業用鉱物20種のうち19種で主要な精製国である。2000年から2021年にかけて、中国はアフリカ、ラテンアメリカ、アジアの約20カ国で鉱物抽出と精製に約570億ドルを投じた。これにより、中国は数十年にわたる戦略を通じて支配的地位を確立し、現在ではこれを経済的強制として利用している。
  • Critical minerals strategy risks shifting reliance from China to U.S. - Policy Options 2026年2月、米国はカナダや欧州連合を含む54カ国と重要鉱物に関する協議を開催した。この協議の目的は、クリーンエネルギー技術に不可欠な鉱物に対する中国の支配に対抗し、国際協力を強化し、別の供給源を備蓄することであった。しかし、米国が主導するサプライチェーン構築の取り組みは、中国の優位性を弱める一方で、カナダのようなパートナーを米国の優先事項(気候変動対策を含まない)により強く縛り付けるリスクがある。
  • European Critical Raw Materials Act 欧州重要原材料法(CRMA)は、EUの重要原材料サプライチェーンの全段階における能力を強化し、依存度を減らし、準備態勢を整え、サプライチェーンの持続可能性と循環性を促進することを目的としている。2030年までに、抽出でEUの年間需要の10%、加工で40%、リサイクルで25%という国内能力の目標を設定している。また、戦略的原材料の年間需要の65%以上を単一の第三国から供給してはならないとしている。EUは、世界貿易機関(WTO)の強化、持続可能な投資促進協定や自由貿易協定のネットワーク拡大、不公正な貿易慣行との闘いを含め、貿易行動を強化する方針であり、志を同じくするすべての国々との「重要原材料クラブ」の設立も検討している。
  • Commission adopts RESourceEU to secure raw materials, reduce dependencies and boost competitiveness – EPMA Association 欧州委員会は2025年12月、重要原材料の供給確保を加速・強化するためのRESourceEU行動計画を採択した。この計画は、欧州重要原材料法(CRMA)に基づき、地政学的・価格ショックから産業を保護し、欧州内外の重要原材料プロジェクトを促進し、志を同じくする国々と提携してサプライチェーンを多角化するための資金と具体的なツールを提供する。2026年初頭には、欧州重要原材料センターが設立され、市場情報を提供し、戦略的プロジェクトを指導・資金提供し、多様で強靭なサプライチェーンのポートフォリオマネージャーとして機能する予定である。また、2026年初頭には、重要原材料の備蓄に関する協調的なEUアプローチのパイロットスキームが運用開始される予定であり、永久磁石のスクラップ・廃棄物の輸出規制も導入される見込みである。
  • Five takeaways for US policymakers about China's new five-year development plan 2026年3月8日に承認された中国の新たな5カ年開発計画は、今後5年間で「レアアース、レアメタル、超硬材料における競争優位性を継続的に強化する」ことを目標としている。この計画は、中国企業に対し価値連鎖の上流化を命じており、他国で採掘された鉱物を中国で加工し、さらに加工された鉱物を中国国内の工場で使用することで、加工済み鉱物だけでなく、それらを含む最終製品においても世界経済を中国に依存させることを目指している。中国はすでにレアアース磁石でこのようなエンドツーエンドの支配力を確立しており、他の分野でも垂直統合を拡大しようとしている。
  • Geology is not destiny: Brazil must establish an infrastructure to exploit its critical minerals wealth | PIIE ブラジルは世界のニオブ埋蔵量の約95%を保有し、レアアースやグラファイトの豊富な鉱床も有しているが、その潜在的な鉱物資源の富を最大限に活用するためには、資金調達、産業政策、および現地の技術力を構築する必要がある。鉱業プロジェクトは資本集約的であり、商品価格の変動に左右される。加工能力には投資だけでなく、熟練労働力、物流、技術移転、安定した規制枠組みを備えた支援的な産業エコシステムが必要である。
  • Ten African mining projects set to reach key milestones in 2026 - Mining Review Africa コンゴ民主共和国(DRC)のManonoリチウムプロジェクトは、世界最大級の未開発硬岩リチウム鉱床の一つであり、2026年初頭に初期商業生産を開始する予定である。このプロジェクトは、年間500万トンの採掘・加工能力を持ち、年間約95,170トンの粗硫酸リチウムを生産する製錬所も含まれる。
  • Djibouti - Mining sector development : Over USD 50 million to be raised from mining ジブチは、2035年ビジョンに沿った国家経済多角化戦略の一環として、鉱業部門を強化し、持続可能な成長の柱とすることを目指している。5000万ドルを超える投資により、鉱床開発と鉱業インフラの近代化が進められ、地域での雇用創出と工業化が促進される。プロジェクトは環境、社会、技術基準を遵守し、国際基準に準拠した持続可能な操業を保証する。
  • African Ministers Outline Industry Priorities Ahead of African Mining Week 2026 2026年には、重要鉱物の需要が2040年までに4倍になると予測されており、アフリカは世界のサプライチェーン戦略と投資フローの中心に位置付けられている。アフリカ大陸は、プラチナ族金属、クロム、マンガンといったエネルギー転換と先進製造業に不可欠な鉱物の世界最大の埋蔵量を誇る。アフリカの鉱業大臣たちは、資本動員、国内鉱物価値連鎖の強化、国境を越えた協力に焦点を当てている。コンゴ民主共和国(DRC)は、未開発の鉱物資源が24兆ドルと推定されており、国内製鉄生産、工業化、下流での付加価値を支援する大規模な経済特区の設立と連携して、200億トンと推定される鉄鉱石埋蔵量の開発を優先している。
  • Mining: Critical minerals, geopolitics and regulation - Herbert Smith Freehills 2026年には、重要鉱物サプライチェーンの確保と多角化がM&A活動の主要な推進要因であり続けると予想されている。特定のレアアースの採掘・加工能力が少数の地域に集中し、地政学的な影響を受けやすいため、政府や企業は国家および産業の優先事項に合致する戦略的取引を優先すると見られる。アフリカは、銅、コバルト、マンガン、プラチナ族金属(PGM)、リチウムなどの重要な埋蔵量を持ち、2026年も鉱業M&Aの主要な管轄区域であり続けると予想されている。地政学的要因も2026年の鉱業M&Aの主要な推進要因となる可能性が高い。
  • Critical Minerals Institute Unveils 2026 Watchlist: Rhenium (Re) and Indium (In) Added, Tungsten (W) Elevated to Top 5 as Supply Chain Risks Intensify - InvestorNews 2026年4月5日、Critical Minerals Institute (CMI) は更新された2026年重要鉱物ウォッチリストを発表した。この更新では、レニウム(Re)とインジウム(In)が追加され、タングステン(W)がトップ5に昇格し、コバルト(Co)はトップ5から格下げされた。これは、重要性が地政学的な露出と加工支配によって定義されるようになっており、単なる資源の豊富さだけではないことを示している。
  • Critical Minerals Take Center Stage in Trump's FY27 Budget Request | Brownstein トランプ政権の2027会計年度予算教書(2026年4月4日発表)は、重要鉱物関連に数十億ドルの資金を提案しており、国内サプライチェーンの強化と外国への依存度低減を目指している。エネルギー省(DOE)には、新たに設立された重要鉱物・エネルギーイノベーション室(CMEI)に11億ドルが割り当てられ、国内採掘活動の加速、重要鉱物サプライチェーンの多角化、バッテリー・磁石の研究拡大、バッテリー材料やその他の重要鉱物のリサイクル促進に充てられる。また、3月26日には、国務省が半導体サプライチェーンの確保を支援するため、重要鉱物抽出、加工、重要インフラ、製造資産に関連するプロジェクトを支援するために2億5000万ドルの対外援助を割り当てるPax Silica Fundを立ち上げた。
  • Forging a New Critical Minerals Reality - FDD 中国は、2023年から2024年にかけてガリウムとゲルマニウムの輸出規制を課し、2025年4月には高性能永久磁石に不可欠な7つの重希土類元素の輸出を制限した。これにより、米国と欧州の自動車メーカーで生産停止が発生し、中国の重要鉱物支配の脆弱性が露呈した。6カ月後にはさらに5つのレアアースが輸出規制リストに追加され、合計17種のレアアースのうち12種が対象となった。これらの措置は、中国が重要鉱物支配を武器として利用する意図を示している。
  • Critical Minerals Meeting in US: Reshaping Global Supply - Discovery Alert 米国は17種類の鉱物で100%輸入に依存しており、コバルトは70%をコンゴ民主共和国から、レアアースは85%を中国から、ガリウムは95%を中国から調達している。中国はレアアース加工能力の85%、ガリウム加工の98%、コバルト精製能力の65-70%を支配しており、原材料の採掘場所に関わらず世界のサプライチェーンを制約する能力を持っている。