東アジア海洋資源権益を巡る動向:中国の海洋戦略と各国対立の現状

中国の海洋戦略:海上民兵の動員と軍事訓練の現状

2026年3月2日、国家基本問題研究所の総合安全保障プロジェクト月次報告会が開催され、中国の海洋戦略に関する最新の動向が報告された。同報告会では、中川真紀研究員による「2025年 中国軍の訓練総括」と、毛利亜樹筑波大助教による「中国による海上民兵動員体制の実装」が発表された。報告によると、中国人民解放軍の訓練状況が総括され、特に漁船群が海上民兵として動員されるようになったことが指摘されている。中国の「第三海軍」と称される海上民兵は、正規軍の編制外に位置しながらも、海洋権益の主張や監視活動において補助的な役割を担っている。過去には、フィリピン政府が南シナ海のジュリアン・フェリペ礁に少なくとも220隻の中国「海上民兵」船が数週間にわたり居座ったと告発した事例がある。また、2026年2月2日に発表された米国議会議員による報告書「中国の世界的な漁業攻勢」は、中国が管理する世界最大の遠洋漁船団が違法・無報告・無規制(IUU)漁業活動と関連し、地政学的武器として機能している可能性を指摘している。これは、中国共産党の海外勢力拡大戦略の一環と見なされている。

南シナ海:行動規範の模索と領有権主張の対立

フィリピンは2026年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務めるにあたり、南シナ海における法的拘束力のある行動規範(COC)の締結を中国との間で推進することを表明している。しかし、中国政府は国際法や規範を認める合意を拒み続けており、これがCOC締結の大きな障害となっている。中国は2009年5月7日に国連に提出した「9段線」地図に基づき、南シナ海のほぼ全域の領有権を主張しており、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内の領域も含まれている。この主張は、国連海洋法条約に基づく国際法廷が2016年7月に下した裁定によって否定されているが、中国はその裁定を無視している。南シナ海では、中国の「第三海軍」と呼ばれる海上民兵が海洋権益の主張や監視活動に補助的な役割を果たしており、フィリピン政府は過去にジュリアン・フェリペ礁で多数の中国海上民兵船が居座ったと告発している。さらに、2026年2月2日付けの米国議会議員による報告書は、中国の遠洋漁船団が広範な違法・無報告・無規制(IUU)漁業活動と関連し、地政学的武器として機能していると指摘しており、海洋資源の利用が安全保障問題と密接に絡み合っている現状を示している。

東シナ海:資源開発を巡る日中の緊張

東シナ海では、排他的経済水域(EEZ)の境界画定を巡り、日本と中国の間で対立が続いている。日本は日中中間線を境界とするよう主張している一方、中国は中間線の西側で資源開発を活発化させており、これまでに計22基の構造物が確認されている。中国の国営石油開発会社CNOOCがガス田開発を担当し、一部の鉱区は日本側に位置している。日本政府は、こうした中国の一方的な開発行為を主権に対する重大な侵害と見なし、繰り返し強く抗議している。2025年5月13日には、外務省が中間線の西側での新たな構造物設置に向けた動きを確認し、抗議した。日本政府は、東シナ海のEEZおよび大陸棚の境界がいまだ画定していない状況での中国側の一方的な開発は極めて遺憾であるとして、開発中止と2008年6月合意の実施に関する交渉再開を強く求めている。

黄海:中韓暫定措置水域における構造物移動の動向

黄海に設定されている韓中暫定措置水域(PMZ)では、中国が設置した構造物の動向が注目されている。2026年1月28日、韓国大統領府は、中国がPMZ内に無断で設置していた構造物の一部をPMZの外へ移動させる作業を進めていることを「意味ある進展」として歓迎するとの立場を明らかにした。この動きは、前日の2026年1月27日に中国政府が構造物の一部を移動中であると発表したことに続くものである。PMZは、韓国と中国の排他的経済水域(EEZ)が重なる海域であり、両国は2001年の漁業協定において、漁業を除く施設の設置を行わないことで合意していた。中国外務省は、今回の構造物移動について「中国企業が自らの経営の必要性に基づき、自主的に配置を調整したものであり、韓国との協議とは関係ない」と説明している。

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Reference / エビデンス

  • 東シナ海の海底資源をめぐる日中紛争 東シナ海では日本と中国が排他的経済水域(EEZ)の境界をめぐって対立しており、日本は日中中間線を境界とするよう主張しているが、中国は日本側に張り出した鉱区を設定し、一部は日本側に完全に位置している。中国の国営石油開発会社CNOOCがガス田開発を担当しており、日本政府は中国の一方的な開発行為を日本の主権に対する重大な侵害と見なしている。
  • フィリピン、中国の強硬姿勢に反して、南シナ海行動規範に注力 - Indo-Pacific Defense FORUM フィリピンは2026年に東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国を務める準備を進める中、中国との間で法的拘束力のある行動規範(COC)の締結を推進することを誓約している。しかし、中国政府は自らの侵略的行動の実質的な抑制や国際法・規範を認める合意を拒み続けており、これが根本的な障害となっている。中国はブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内の領域を含む南シナ海のほぼ全域を自国領と主張し、国連海洋法条約に基づく国際法廷の2016年の裁定も無視している。
  • 中国、フィリピンによる南沙諸島の島嶼改名に反発「国際法違反」 - AFPBB News 2026年4月2日、フィリピンが南シナ海における「主権」を強化するため、100以上の島嶼の名称を変更すると発表したことに対し、中国は国際法違反であると非難し、主権を守るための「措置」を講じると脅迫した。フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領の大統領令に基づく名称変更の対象となるのは、フィリピンと中国の船舶が度々衝突する南沙(スプラトリー)諸島に属する岩礁、島、環礁である。
  • 南シナ海の今 ―中国の威圧的行動の常態化とフィリピンの対応を中心に― | 海洋安全保障情報特報 | 笹川平和財団| 海洋情報 FROM THE OCEANS 中国は南シナ海に対し2009年5月7日に国連に提出した文書に添付された「9段線」地図で領有権を主張しており、2016年7月の南シナ海仲裁裁判所裁定は中国の9段線主張と、9段線内の海域に対する中国の主権的権利、管轄権または「歴史的権利」に関する判断を下し、中国の主張を否定した。
  • 中国の東アジア海洋進出を念頭に「力による現状変更を認めないためにどう対応すべきか」と国民議員の問いに高市総理の答えは - ライブドアニュース 2026年3月25日、高市総理は中国の東アジア海洋進出を念頭に「力による現状変更を認めないためにどう対応すべきか」という国民議員の問いに対し、安全保障環境の創出が必要であると回答した。
  • 中国による東シナ海での一方的資源開発の現状|外務省 - Ministry of Foreign Affairs of Japan 日本政府は、中国が東シナ海において資源開発を活発化させており、日中地理的中間線の西側でこれまでに計22基の構造物を確認していると発表した。日本は日中中間線を基にした境界画定を行うべきとの立場であり、中国側の一方的な開発行為は極めて遺憾であるとして、開発中止と2008年6月合意の実施に関する交渉再開を強く求めている。
  • 黄海の中国構造物移動 「意味ある進展」と歓迎=韓国大統領府 - 朝鮮日報 2026年1月28日、韓国の青瓦台(大統領府)は、中国が黄海の韓中暫定措置水域(PMZ)内に無断で設置した構造物をPMZの外へ移動させる作業を進めていると発表したことについて「意味ある進展として歓迎する」との立場を示した。中国外務省は、中国企業が自らの経営の必要性に基づき、自主的に配置を調整したと説明している。
  • 南シナ海問題などの協議を再開 - フィリピン - ASEAN経済通信 2026年3月30日までに、フィリピンと中国が領有権を争う南シナ海問題をめぐる高官協議を再開したことがシンガポールメディアによって報じられた。フィリピン外務省は、協議再開を明らかにするとともに、石油・ガス分野での協力に向けた初期的な手続きの検討や、エネルギーや肥料の供給問題についても対話が行われたことを伝えた。
  • 中国による東シナ海での一方的な資源開発に新たな動き 外務省は強く抗議 2025年5月13日、外務省は東シナ海の日中地理的中間線の西側において、中国による新たな1基の構造物設置に向けた動きを確認し、強く抗議した。日本は、東シナ海の排他的経済水域及び大陸棚の境界がいまだ画定していない状況での中国側の一方的な開発は極めて遺憾であるとし、2008年合意の実施に関する交渉再開を求めている。
  • 報告書が指摘、中国が漁業を地政学的武器として行使 - Indo-Pacific Defense FORUM 2026年2月2日、米国議会議員による報告書「中国の世界的な漁業攻勢」は、中国共産党が最大1万6,000隻と推定される世界最大の遠洋漁船団を管理しており、これが広範な違法・無報告・無規制(IUU)漁業活動と関連していると指摘した。この漁船団は、中国共産党の海外勢力拡大、競合他国の弱体化、他国の中国水産加工への依存度を高めるための協調戦略の一環として、地政学的武器として機能しているとされている。
  • 米国が対韓関税引き上げ発表した日に中国は韓中暫定水域内に無断設置した構造物の一部を移動 - 朝鮮日報 2026年1月27日、中国政府は西海の韓中暫定措置水域(PMZ)に無断で設置した構造物の一部を移動中と発表した。PMZは韓国と中国の排他的経済水域(EEZ)が重なる海域で、両国は2001年の漁業協定により漁業を除く施設の設置をしないことで合意していた。中国外交部は、今回の対応は企業が独自の経営と発展の必要に基づき自ら位置を調整したものであり、韓国との協議とは関係ないことを強調した。
  • 論評:台湾が「干からびた魚」になる日 中国の「第三海軍」による海上封鎖と、届かない米国兵器 中国の「第三海軍」と呼ばれる海上民兵は、正規軍の編制外にありながら、海洋権益の主張や監視活動において補助的な役割を果たしており、フィリピン政府は以前、南シナ海のジュリアン・フェリペ礁に少なくとも220隻の中国「海上民兵」船が数週間にわたり居座っていると告発した。
  • 東シナ海の開発問題で日本が中国に抗議 - ARAB NEWS 日本は、中国が東シナ海の日中間の地理的等距離線の西側に新たな構造物を設置しようとしていることに抗議した。外務省は、東シナ海の排他的経済水域と大陸棚がまだ画定されていない中で、中国が東シナ海で一方的な開発を進めていることは極めて遺憾であると述べ、2008年6月合意の履行に向けた交渉を再開するよう強く求めた。
  • 総合安全保障プロジェクト 月次報告会 « ニュース « - 国家基本問題研究所 2026年3月2日、国家基本問題研究所の総合安全保障プロジェクト月次報告会が開催され、中川真紀研究員が「2025年 中国軍の訓練総括」を、毛利亜樹筑波大助教が「中国による海上民兵動員体制の実装」について報告した。報告では、中国人民解放軍の訓練状況が総括され、特に漁船群が海上民兵として動員されるようになったことが指摘された。