緊迫する中東情勢:グローバルサウスの資源安全保障と経済への波及

緊迫化する中東情勢と世界経済への波及

2026年2月28日頃に米国とイスラエルによるイランへの軍事行動が開始され、中東全体の緊張が急速に高まっています。この軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」では、米軍がイラン全土の9,000カ所以上の標的を攻撃したと主張しています。これに伴い、石油輸送の要衝であるホルムズ海峡は事実上の閉鎖状態にあり、国際物流や燃料価格への広範な波及が懸念されています。

国際エネルギー機関(IEA)は、現在の状況を「世界の石油市場史上、最大の供給ショック」と定義しており、2026年3月現在、ホルムズ海峡の通過量は紛争前の水準から90%以上減少し、日量150万バレル以下にまで落ち込んでいると推定されています。2月27日には95隻を数えたホルムズ海峡通過船舶数は、3月1日以降には10隻以下へと激減しました。商船通航の制限が続く中で、原油や液化天然ガス(LNG)の輸送に支障が生じ、アジアや欧州を含む国際物流とエネルギー市場に影響が波及しています。

市場では、この地政学的緊張を受けて原油高とリスク回避の動きが顕著となり、金価格は4週間ぶりの高値に急騰、原油価格高騰に伴うインフレ懸念から米ドルも過去最高値を更新しました。カタールではイランによるドローン攻撃を受けて世界最大の液化天然ガス(LNG)プラントの生産が停止し、ヨーロッパのガス価格は50%以上急騰しています。2月から3月にかけて原油価格が約40%近く上昇し、アジア向けLNG価格が60%以上、窒素系肥料価格も約50%近く上昇するなど、エネルギーおよび関連商品の価格高騰が進行しています。

特に日本国内では、中東依存度の高さ(原油の約94.7%、ナフサ輸入の約73.6%が中東に依存)が脆弱性として浮き彫りになり、ナフサ供給は「非常に厳しい状態」にあります。これにより、石油化学メーカー各社は前例のない規模での減産を余儀なくされています。東京大学公共政策大学院の鈴木一人教授は、中東紛争が石油ショックを超える歴史的な原油供給の混乱を引き起こす可能性に言及し、戦略備蓄が少ない東南アジアなどグローバルサウスの国々でのエネルギー不足が深刻化する可能性を警告しています。

グローバルサウスにおける資源安全保障と投資環境の変化

中東情勢の緊迫化は、グローバルサウス諸国の資源安全保障に対する意識を著しく高めています。エネルギー価格の高騰は、エネルギー輸入国に深刻な財政的圧力を与え、経済の不安定化を招いています。一方で、石油やエネルギー自給率の高い新興国の株価は相対的に底堅く推移しており、エネルギー輸出国が相対的な優位性を享受する構図が生まれています。

このような状況下で、国際的な資源確保に向けた投資動向に変化が見られます。日米首脳会談では、レアアース(希土類)やリチウム、銅の共同開発での合意、および日本向けのアラスカなどでの原油増産や日米共同備蓄を念頭に置いた米国での油田開発などの検討が盛り込まれるとされており、中国依存度を低下させ、経済安全保障を強化する動きが加速しています。米国環境エネルギー政策動向レポートでも、中東危機に伴う原油価格の上昇と連邦政府による石油資源開発を巡る動きが主要テーマの一つとして挙げられています。

また、湾岸協力会議(GCC)諸国を中心に中東諸国がアフリカとの連携を強化し、鉱業での協力や投資が加速しています。国際エネルギー機関(IEA)も、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)を含む中東からのアフリカへの鉱業関連の投資が増えていることを報告しており、これは脱石油戦略の一環として重要鉱物資源を確保するための動きと見られています。

地政学的リスクが促す資源政策の見直しと国家管理の議論

中東情勢の地政学的危機は、現時点では直接的な政権交代に伴う大規模な資源国有化の動きを伴っていませんが、グローバルサウス諸国における資源政策の長期的な見直しと、国家管理に関する議論を促進する契機となり得ます。エネルギー供給の不安定化が現実のものとなる中で、各国政府は自国資源に対するコントロールを強化する可能性が高まっています。

戦略的資源への投資誘致においても、従来の経済的合理性だけでなく、安定性やサプライチェーンの多様化といった要素がより重視されるようになる傾向が見られます。これは、特定の地域や供給源への過度な依存が、予期せぬ地政学的リスクによって国家経済を揺るがす可能性を浮き彫りにしたためです。この危機は、グローバルサウス諸国が自国の資源主権を再評価し、国際的な資源供給網における自国の位置付けを再定義するための重要な契機となることが示唆されます。

[ Reference ]

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