北米テック規制の最前線:HSR法改正、デジタルプラットフォーム、AI規制に見る米加墨の多様なアプローチ
米国:HSR法改正の動向と州レベルの規制強化
米国では、ハート・スコット・ロディノ法(HSR法)に基づく事前合併届出書の変更に関して、2026年2月に連邦地方裁判所が改正様式を無効と判断しました。これを受けて控訴裁判所も執行停止を却下したため、連邦取引委員会(FTC)および司法省(DOJ)は旧様式での届出受付に回帰しています。両当局は、現代のM&A審査において旧様式が不十分であるとの認識に基づき、将来の規則制定に向けた改正様式の有効性に関するパブリックコメントを募集しています。
また、巨大テック企業に対する独占禁止法執行も進展しています。2026年初頭には、Googleのパブリッシャー向け広告サーバーおよび広告取引所の独占に関する是正措置の決定が予定されており、構造的分離が含まれる可能性も指摘されています。州レベルでは、規制環境が複雑化の一途を辿っています。ニューヨーク州では、アルゴリズムによる家賃調整を禁止する法律が2025年12月に施行され、RealPage社がこれを提訴しました。カリフォルニア州法改正委員会は、連邦基準を超える州独占禁止法の拡大を提言しており、その意見公募期間は2026年初頭に終了する予定です。これらの動きにより、州レベルでの独占禁止法執行が加速しています。
人工知能(AI)規制に関しては、連邦政府のアプローチとして、トランプ政権がAIの単一規制枠組みを確立する大統領令を発令し、個々の州の権限を弱める可能性のある中央集権的な方針を示しています。
カナダ:競争法の執行強化とデジタルプラットフォーム規制の進展
カナダでは、競争法の執行強化とデジタルプラットフォームに対する規制の進展が見られます。カナダ競争局は、2026年1月22日にアルゴリズム価格設定と競争に関するパブリックフィードバック報告書を公表しました。この報告書は、アルゴリズム価格設定が市場効率を高める一方で、共謀や反競争的慣行、データ透明性の欠如を通じて消費者、労働者、競争に害を及ぼす可能性があると指摘し、規制はイノベーションを阻害することなく反競争的行為に対処すべきであると提言しています。
競争当局のガイドライン更新も進んでいます。更新された合併執行ガイドラインに関するパブリックコメントの募集は2026年2月11日に締め切られ、コンピュータ・通信産業協会(CCIA)などからコメントが提出されました。また、新たな反競争的行為および合意に関するガイドラインのパブリックコメント募集も2026年1月29日に締め切られています。
デジタルプラットフォーム規制の具体例として、カナダ政府は、オンラインニュース法(Bill C-18)に関してMetaと協議を続けています。この法律は2023年6月に制定され、支配的なオンラインプラットフォームにニュース事業者への対価支払いを義務付けるものです。Googleは年間1億カナダドルの拠出に合意した一方、Metaは支払いを拒否し、2023年8月からカナダでのニュース配信を停止しています。この問題は、米加貿易交渉の焦点にもなっています。
メキシコ:競争当局の再編とAI関連規制の導入
メキシコでは、2025年7月に連邦経済競争法が改正され、同年7月19日に施行されました。これにより、これまでの独立自治規制機関であった連邦経済競争委員会(COFECE)は廃止され、経済省傘下の国家独占禁止委員会(CNA)が設立されるという、競争当局の組織再編が行われました。
この改革には、反競争的行為に対する罰則の強化(罰金の倍増を含む)、手続き上の不遵守に対する罰則の強化、企業結合監視の強化、審査プロセスの迅速化、リニエンシー制度の利用条件整備、そしてコンプライアンスプログラム認定制度の導入が含まれています。これらの改正は、メキシコの競争法枠組みを国際基準に合わせることを目指しており、企業にはコンプライアンスプログラムの導入や強化、CNAからの認定取得が奨励されています。
さらに、メキシコでは人工知能の助けを借りて行われた侵害行為に対して法的責任が発生するようになるという、AI関連規制の新たな動きも確認されています。これは、北米地域における規制の多様性を示す一例であり、新興技術に対する法的対応の萌芽を示しています。
北米全体の規制環境:構造的比較と企業への示唆
北米各国における巨大IT企業に対する独占禁止法および規制アプローチは、それぞれ異なる政策的優先順位と構造的差異を示しています。米国では、HSR法改正を巡る司法判断に見られるように連邦レベルでの競争法執行の動きがある一方で、ニューヨーク州でのアルゴリズム価格設定規制やカリフォルニア州での独占禁止法改革の提言など、州レベルでの規制の断片化と加速が特徴的です。AI規制においても、連邦政府による一元化の動きが見られるものの、連邦と州の間の複雑な関係性がうかがえます。
カナダは、更新された合併執行ガイドラインやアルゴリズム価格設定に関する報告書に見られるように、競争法の執行を強化する姿勢を明確にしています。特にオンラインニュース法(Bill C-18)は、デジタルプラットフォームに対する具体的な義務付けを通じて、コンテンツの対価に関する新たな規制アプローチを導入しており、MetaとGoogleの間で異なる対応が見られるなど、デジタルプラットフォームへの影響が顕在化しています。
メキシコでは、競争当局のCOFECEからCNAへの再編と、それに伴う罰則強化、企業結合監視強化、コンプライアンスプログラム認定制度導入といった制度改革を通じて、国際基準への整合を目指しています。また、AIが関与する侵害行為への法的責任の導入は、新興技術に対する規制の萌芽を示しており、北米地域における規制の多様性を浮き彫りにしています。
テック企業の法務担当者にとっては、この北米地域の多様な規制環境が課題と機会の両方をもたらします。米国における連邦と州の規制の複雑な絡み合い、カナダにおけるデジタルプラットフォームへの具体的な義務付け、そしてメキシコにおける競争法の強化とAI規制の導入といった各国の特徴を理解し、それぞれの法域に合わせた柔軟かつ戦略的なコンプライアンス体制を構築することが、今後の事業展開において不可欠となるでしょう。
[ Reference ]
- Federal Trade Commission and Department of Justice Seek Public Comment on the Premerger Notification and Report Form
2026年2月、連邦地方裁判所は改正されたハート・スコット・ロディノ法(HSR法)の事前合併届出書を無効とし、控訴裁判所もその執行停止を却下した。これにより、連邦取引委員会(FTC)と司法省(DOJ)は旧様式での届出受付に戻り、将来の規則制定のために改正様式の有効性に関するパブリックコメントを求めている。これは、現代のM&A審査において旧様式が不十分であるとの認識に基づいている。
- Looking Ahead on US Antitrust Enforcement and Tech: Will 2026 Deliver More of the Same?
2026年初頭に、Googleのパブリッシャー向け広告サーバーおよび広告取引所の独占に関する是正措置の決定が予定されており、構造的分離が含まれる可能性もある。ニューヨーク州ではアルゴリズムによる家賃調整を禁止する法律が2025年12月に施行され、RealPage社がこれを提訴した。カリフォルニア州法改正委員会は、連邦基準を超える州独占禁止法の拡大を提言しており、2026年初頭に意見公募期間が終了する。これにより、州レベルでの独占禁止法執行が加速し、規制環境が複雑化している。
- 2026年に注目すべきテック規制トレンドのトップ5:AIガバナンス、データプライバシーなど
トランプ政権は、AIの単一規制枠組みを確立する大統領令を発令し、個々の州の権限を弱める可能性のある中央集権的なアプローチを示している。
- News releases - Competition Bureau Canada
2026年3月4日、カナダ競争局の競争担当委員代理は、競争審判所がGoogleのオンライン広告における反競争的行為に関する憲法上の異議申し立てを却下したことについて声明を発表した。また、2026年1月22日には、アルゴリズム価格設定と競争に関するパブリックフィードバック報告書を公表した。
- Open and closed consultations - Competition Bureau Canada
カナダ競争局は、2026年2月11日に更新された合併執行ガイドラインに関するパブリックコメントの募集を締め切り、2026年1月29日には新たな反競争的行為および合意に関するガイドラインのパブリックコメントの募集を締め切った。
- Comments to the Competition Bureau of Canada Regarding the Proposed Merger Enforcement Guidelines | Testimonies & Filings | Feb 11, 2026 | ITIF
コンピュータ・通信産業協会(CCIA)は、2026年2月11日にカナダ競争局の更新された合併執行ガイドラインに関するコメントを提出し、ガイドラインが明確性と透明性を提供し、競争を実質的に減退または防止する可能性のある取引に焦点を当てるべきだと強調した。
- Consultation on Algorithmic Pricing and Competition: What We Heard
カナダ競争局は、2026年1月22日にアルゴリズム価格設定と競争に関するパブリックフィードバック報告書を公表し、アルゴリズム価格設定が市場効率を高める一方で、共謀や反競争的慣行につながる可能性があり、データ透明性の欠如が消費者、労働者、競争に害を及ぼす可能性があると指摘した。規制はイノベーションを阻害することなく反競争的行為に対処すべきであると提言している。
- カナダ政府がメタとニュース復活を協議・・・オンラインニュース法が米加貿易交渉の焦点に
カナダ政府は、ニュースコンテンツに対する対価の支払いを義務付けるオンラインニュース法(Bill C-18)に関してMetaと協議を続けている。Googleは年間1億カナダドルの拠出に合意したが、Metaは支払いを拒否しニュース配信を停止しており、この問題は米加貿易交渉の焦点にもなっている。
- グーグルがオンラインニュース法でカナダ政府と合意、ニュース事業者に年間1億Cドルの財政支援(カナダ) | ビジネス短信 - ジェトロ
カナダのオンラインニュース法(Bill C-18)は、支配的なオンラインプラットフォームにニュース事業者への対価支払いを義務付けるもので、2023年6月に制定された。Googleは年間1億カナダドルの拠出で合意したが、Metaは反発し、2023年8月からカナダでのニュース配信を停止している。
- Outlook 2026: Mexico Antitrust and Competition | Insights - Greenberg Traurig, LLP
2025年7月、メキシコ連邦経済競争法が改正され、連邦経済競争委員会(COFECE)に代わり経済省傘下の国家独占禁止委員会(CNA)が設立された。この改革には、反競争的行為に対する罰則強化、企業結合監視の強化、審査プロセスの迅速化、コンプライアンスプログラム認定制度の導入が含まれ、メキシコの枠組みを国際基準に合わせることを目指している。
- Outlook 2026: Mexico Antitrust And Competition - Mondaq
メキシコの連邦経済競争法改正により、反競争的行為に対する罰金が倍増され、手続き上の不遵守に対する罰則も強化された。これにより、企業はコンプライアンスプログラムの導入や強化、CNAからの認定取得を奨励される。
- Mexico Begins 2026 With an Intense Agenda on IP, Trade
メキシコでは、人工知能の助けを借りて行われた侵害行為に対して法的責任が発生するようになる。
- 連邦経済競争法の改正を公布、反競争行為抑止につながる内容も国営企業には適用せず(メキシコ) - ジェトロ
メキシコ政府は2025年7月18日に連邦経済競争法(LFCE)の改正を公布し、翌19日に施行した。これにより、独立自治規制機関であった連邦経済競争委員会(COFECE)は廃止され、経済省傘下の国家独占禁止委員会(CNA)が創設された。改正では、反競争的行為への罰則強化、企業結合の監視強化、審査プロセスの迅速化、リニエンシー制度の利用条件整備、コンプライアンスプログラム認定制度の導入などが盛り込まれている。
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